メルトダウン交響曲
「貴方は、私の何に成り得るというのかしら?」
この女は、会った瞬間から煙草の臭いをぷんぷんさせていたけれども、俺の目の前で本当に煙草を吸いやがった。真っ赤に塗りたくられた唇から出てくる煙は真っ白で、でもこの女の腹の中は真っ黒なんだろうなと思った。
「さあ?わかりません」
 思ったまま答えると、女はくっくっくと喉の奥で笑った。
「それがあの人が貴方を私の元へ送ってきた理由なのね」
女は高価そうなデスクチェアから立ち上がり、ソファに手をむけながら「座ったら?」と言ってきたので座ると目の前に女も座ってきた。
「貴方、あの人にも面白いって言われたでしょう?」
 灰皿に煙草の灰を落とす女の手が意外にも綺麗だったので、見とれつつ答える。
「え?まぁ・・・」
 そうだ、「貴方の時間を買います」とかいう胡散臭いキャッチフレーズのアルバイトの面接に言った先で出会った男に面白いと言われ、この女のところへ行けと言われたのだ。俺はそんなに面白いことを言っているのだろうか。だとしたら、ショックだ。そんなに笑われる覚えは無いと憤慨していると、女は話し出した。
「昔言われた言葉なんだけどね、人間には使われる人間と使う人間がいるんですって。貴方はどちらかしら?」
女は真新しい玩具がどんな風に動くのか楽しみにしている幼女のような目で俺を見てきた。
「・・・使われる人間じゃないですかね?」
「どうして?」
 見当もつかないと言いたげな顔で女は尋ねる。
「フリーターだから」
「フリーターだと、使われる人間になってしまうの?」
「だってそうでしょう。何処の職場でも俺を使い捨ての駒みたいに扱う。だから俺は使われる人間なんですよ」
「フリーターって楽しい?」
 唐突に聞かれた。
「は?」
「だから、フリータ−って楽しい?」
「・・・楽しくないですよ」
「じゃあ、今の生活を捨てられるわね?」
「生活を捨てる?」
「そう、貴方は明日から・・・いえ今から全く違う人生を歩むのよ。覚悟はいいかしら?」
 流されるまま此処に来たのだ。覚悟も何もないけれど、
「今の生活よりもいい生活ができますか?」
「それは貴方次第」
 女は楽しそうに笑って言った。
「ようこそ、オルガーノコメリシノへ」
「何をするんですか?俺は」
「人と人をつなぐお仕事、かな?」
 くっくっくと笑いながら女は話す。こいつらの仕事内容について俺が知ったとき、俺はとんでもないところへ足を簡単に踏み入れてしまった自分の愚かさを思い知る。

title by 風雅
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テーマ「人外ファンタジー」
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