砂になる2
 次の日もその次の日も彼から「会いたい」とメールがあった。私は忙しさを理由に断り続けた。前に彼と会ってから3ヶ月今更会ったって……彼への情熱も冷め果てていた。それでも彼はメールを送ってくる。今日も同じように忙しくて会えないという内容のメールを送った。
「ここ一週間定時で帰っているよね。昨日は大好きな雑貨屋に寄って、一昨日は夕飯の買い物をして帰ったよね?どうして忙しいって言うの?」
 返信されてきた内容にぞっとした。彼は私の後をつけていたというのか?もうすぐ仕事が終わる。今日は非番だと言っていた夫を呼ぼうか、ああでも何と言って呼んだらいいんだろうか、「一人で帰るのが怖いから」?いつも一人で帰っているじゃない。ああ、本当にどうしよう、彼と会ってしまったら。いっぱいいっぱいな頭で必死に考える。……でも、彼から暴力を奮われたことはない。あの気の小さい男のことだ。私に暴力を奮ってくるなんてこときっとないはず。私は一人で帰ることにした。
 帰り道襲われることはなかったけれど、誰かが着いて来ている気がした。彼からのあんなメールの後だからそう思っただけなのかもしれないが。
 それから、彼からの脅しのようなメールが毎日きた。「僕はあの日々を忘れられません。また貴女とあの日々を送りたい」「貴女は僕のことを忘れてしまったのでしょうか?僕は貴女のことを忘れられないのに」私はそれらのメールについて恐怖を覚えるよりも呆れを感じた。もう好きでもなんでもない男にどうしてこんなに時間をとられなくちゃいけないのだろう。
 私は直後彼と会うことにした。直後会って、それっきりにしようと思った。会って説得すれば全て丸く収まると。けれども彼は私の予想を反する行動をとった。待ち合わせ場所のホテルに包丁を持ってきたのだ。私を刺そうとする彼。抵抗する私。揉み合ううちに彼を刺してしまった。私は何が起こったのかわからなくて、呆然とその場に座り込んだ。
 しばらくして帰りが遅いのを心配した夫から連絡があった。
「…あのね、私人を殺しちゃった……」
「……待ってろ、迎えに行く」
 夫は直ぐに来てくれた。この日ほど夫を頼もしく思ったことはなかった。
「どうしたらいいの?」
 頭を抱えながら言う私に夫は、「あれを捨てに行くぞ」と言った。彼の死体を彼の車のトランクに詰めて、海に車を捨てた。証拠隠滅にはきっとならない。それでも私は彼を殺したことを今後否定しながら生きるだろう。自業自得だ。


title by 狼傷年

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