■六畳半に澱む景色
息が苦しい。いつだって息が苦しい。寝ているときも起きているときも。誰かに首もとを圧迫されているみたいだ。息が苦しいと訴えたって誰も僕の話を聞いてくれない。
「お前疲れているんだよ、最近仕事を頑張りすぎていたから」仕事仲間に言われた言葉。でも、そうじゃないんだ。きっとあいつが。
「どうして別れなくちゃいけないの?」
狭い部屋の中で彼女がヒステリックに叫ぶ。髪を振り乱して、目からは涙を流して。
「理由なんて……」
別れるのに特別な理由なんてなかった。最近彼女の存在を重く感じ始め、仕事に夢中になっているときの楽しさを実感し始めたからだ。
「特別な理由なんてないよ」
君といることに疲れてしまったんだ。
「それじゃあね」
彼女からの返事を聞かずに僕は彼女の部屋を出た。暫くして彼女が自室で自殺したことを知った。
息苦しさを感じ始めたのは、それから暫く経ってからかもしれない。彼女は僕を恨んでいるのかな。まあ、恨まれていても仕方ないよね。僕は日増しに強くなっていく息苦しさが気にならなくなっていった。
title by 亡霊
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