過ぎたこととあなたはお笑いになる

 部活の先輩が大好きだった。誰よりも強くなることに貪欲で、誰よりも自身に厳しい人だった。性格も優しくて、部活に対して直向きなその視線を少しでも私に向けてくれないかと思っていた。
 バレンタインデーに先輩に渡そうとチョコレートを作った。家事は全部お母さん任せ。包丁も握ったことがないのに、チョコレートを作ろうと思った。料理好きな友人に頼み込んで一緒に作ってもらった。我ながら美味しいチョコレートが出来たと思った。
 バレンタインデー当日。部活が終わってからチョコレートを渡した。告白するつもりなんか全然なかったのに口が滑った。
「あ、あの、ずっと前から好きでした」
「それで?」
「つ、付き合って下さい!!」
 ずっと好きでしたなんて、好きであった期間が長いことを強調することに何の意味があるのだろうか。我ながら変なことを口走ったと思っていたらオッケーを貰ってしまった。
 それから毎日が幸せだった。先輩とするメールがどんなに些細なものでも次の日の私のエネルギーになるくらい。デートをほとんどしなかったけど私は満足していた。……いや、本当はデートをしてみたかった。クラスメートが言うようなショッピングしたりだとか手をつなぎながら歩きたかった。
 そんな夢も叶わずある日先輩にふられた。その日は勿論しばらくショックが続いた。友人は優しく私を励ましてくれた。
 半年後私は部活で知り合った他校の人に告白された。そして付き合うことになった。

 私がバレンタインのチョコレートを渡した翌年、またバレンタインデーがやってきた。私は義理チョコと称して小さなチョコレートを部活内の男子に渡した。勿論元彼である先輩にも。私は先輩に去年のバレンタインデーのときにもチョコレートを渡しましたね、と冗談混じりに言った。
「過去の話だろ」
 あなたはそう言って思い出を切り捨てた。

title by 酸素
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