夢の切れ端2

「うん…一人だよ」
「だったら家に帰っておいでよ」 弟はにっこりと微笑んだ。
 …家に、帰る…?ここが私の家だ。帰るも何も…
「母さんも心配しているよ。スーパーのアルバイト代だけでやっていけるのかとか、女一人じゃ不安だとかさ。それに父さんも……」
 何も言葉を返さない私に弟は花し続ける。だんだん気が遠くなって、弟の言葉が耳に入らなくなった。けれども弟は喋り続けているみたいだ。

 昔から何でもできる弟。そのせいで私は惨めな思いばかりしてきた。弟なんて要らない、消えてしまえばいい、そう思っていた。昔祖母の家で弟と喧嘩をした。玩具の取り合い、喧嘩の中身は、今思い出せばそんな些細なことだったと思う。喧嘩はエスカレートし、私は弟の頬を平手打ちした。すると祖母が
「お姉ちゃんがそんなことをしちゃいけない」
そう言ったのだ。私は、はっとした。そうだ、私は姉なのだ。姉は弟を守らなくては。私は弟へのコンプレックスを愛情にねじ曲げた。けれども、私から弟への妬み、僻み、嫉みは消えることがなかった。今でもそうだ。昔よりは小さくなった感情ではあっても、今もあるのだ。誰があの家に帰るもんか、誰が…。だんだん気が遠くなって……
気がつくとふかふかのベッドで眠っていた。ちらりと横を見ると弟が微笑んでいた。
「気がついた?家に帰ってきたんだよ」
 微笑む弟から目を背けた。そうだ、この忌々しいまでの白い壁と白い天井は私の部屋だったはずの場所だ。でも、こんなふかふかなベッドは私の部屋にはなかったはず……
「過労と睡眠不足だってさ。姉さんは昔から無理ばっかりするんだから。何にも出来ないくせに。これからは俺が姉さんの面倒を見てあげるからね。この部屋も姉さんが暮らしやすいように俺が綺麗にしたんだよ。姉さんの安月給と比べて俺の給料なら……」
 ああ、実家に帰ってきてしまったのだ。私を褒めてくれない父と認めてくれない母、そして私よりも出来のいい弟の家に。弟の言葉は耳に入らずそのことだけが頭の中をぐるぐる回る。
 これからは、苦しい思いもひもじい思いもしなくていいのだろう。けれど……いつか……いつかきっと、私は私を殺すだろう。

title by 亡霊

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