今日という永遠があれば

ずっとこのまま、
いらない
どうかその小指で愛を塗って下さい
It's that all
青い空
光なんて要らない
虚栄心を食べて生きる
この世の何よりも儚いもの
時計
今日という永遠があれば

――もし、今日が永遠なら?
>歳をとらなくてよくなるわね。
――じゃあ、貴方は今日が永遠になるという真柄博士の研究結果に好意的な意見をお持ちなんですね?>まあ、反対ってわけじゃないけど。
――反対じゃないというのは?
>私は身体が年老いなくても心が年老いていくって思っているの。心は、毎日毎日苦労してくたくたになっていく。くたくたになった心は年老いた心と同じ。若い心は日々の変化に一喜一憂するでしょう?でも、くたくたになって年老いた心は何にも感じなくなるのよ。永遠になんてなったら、心はますます年老いていくわよ。身体は若くても、年老いた心を持った人たちで一杯になっちゃったら、この世界どうなっちゃうのかしら。


以上、真柄博士の奥様の恵理菜様のインタビューでした
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ずっとこのまま

 誰からも愛されてなどいないと気付いたのは、いつだっただろうか。
 自分の在る意味を考え始めたのはいつ頃だっただろうか。
 どちらもずっと前からのことのような気もするし、つい最近のことのような気もする。幼い頃の思いでなんてほとんどないし、最近のことだって記憶しようなんて思っちゃいない。つまり、自分には過去がない。周りから見たらあるのかもしれないが。
 話が逸れた。そうそう、私が誰からも愛されていないという話だった。そう私は誰からも愛されていない。両親からも。兄弟からも。もし、私が死んだって誰も気づかないかもしれない。だって、誰も私など要らないのだから。私はこの先一生独りだろう。それでいい。だって私は誰も愛するつもりなどないのだから。


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いらない
 薬を飲んで、バイト先に行く。
 毎日毎日そんな暮らしを続けて、この先どうなるのか。
 9月から学校に復帰することになっている。
 それまで、「私」は「私」でいることができているのだろうか。
 9月になったら「私」は別の「私」になっているような気がしてならない。
 毎日が苦しくてならない。
 誰かに助けて欲しくてならないけれども、誰に助けを求めたらいいのかもわからない。だから、私は私を消費しながら毎日を過ごしている。きっと私はすぐに磨り減って、私は私でなくなるのだろう。
 看護師を志し、国立大学の看護学科に合格し、「他のただの看護学校の看護学生と私は違うのだ。国立大学というエリートな看護師として社会から求められ、患者さんからも熱い期待を寄せられるのだ」と自分自身を騙してきたけれども、もう限界な気がする。
 私は私を止めなければならない。
 そうでなければ、私は私をまた殺すだろう。殺して殺して、殺し続ける。
 そして、また私が生まれる。その新しく生まれた私を以前とかわらなし私だと周囲を騙し、私自身すら騙す。そんな毎日がこれからも続いていくのだろう。
 だれか気付いてくれるだろうか。貴方の目の前にいるのは、「私」ではないということを。
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どうかその小指で愛を塗って下さい

「ねえ、私今日キスシーンがあるのよ」
 淡々と私にメイクを施す彼に、鎌をかけてみた。
「知っているよ」
 彼はそれだけ言って作業を続けた。
「ねえ、それだけ?」
 彼の腕を掴みながら問いかけると、彼は無表情で「何も」と言った。私は自分から言うことが出来ない臆病者だ。彼から言ってくれれば。言ってくれれば……
 彼はメイクの仕上げに私の唇に口紅を塗って、メイクの仕上がりを確認したら出ていった。
 「女優なのに、男一人の気持ちさえも動かせないなんて」

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It's that all
 僕の母さんは時々遠い目で空を眺める。僕が小さい頃からの母さんの習慣だ。僕は母さんが空が好きだからいつも眺めているんだと思っていた。だから、空の絵をたくさん描いて母さんにあげていた。母さんは僕が上げた絵を自分の部屋の壁中に張ってくれた。母さんは夕焼けを描いた絵が一番好きだった。母さんの部屋の壁は真っ赤に沈む太陽でいっぱいになった。でも、母さんが遠い目で遠くを見ることはなくならなかった。父さんも僕が小さいときには遠き目で空を見上げる母さんのことが気になっていたみたいだけれども、僕が小学校の高学年になる頃には、全く気にしなくなった。僕は母さんに聞いたことは無い。どうして空を見上げるのか。その空の先には何があるのか。今日も母さんは空を見上げる。雨を降らし続ける空を。

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青い空


 ただ全ての事に期待しすぎただけだと気付いたのは、もうあの日から10年も過ぎようとした頃。あのときの私はただ幼くて、幼さを理由に目の前にあるものを見なかっただけのことだ。大人は完璧であると思い込み、大人の稚拙な部分や不完全なところを見つけるたびに落胆し、あんな大人に私はなるものかと肩肘張って、一人では到底抱えきれないプライドを持って生きてきたのだ。
何が正しいかなんてわからなかった。知るはずも無かったのにやたらと正義感だけを振りかざして生きてきた。私の正義観の犠牲となった人も多々いよう。私はその人たちのことをただ遠く思うことしか出来ない。
今私は独りである。これは全て私が今まで行ってきたことの報いであって、罰である。私は誰も憎まずに生きていきたい。誰も怨まず生きていきたい。青い青い空でありたい。

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光なんていらない
貴女が私以外に笑顔を振り撒くから、私はその笑顔を奪ってやろうと決めたの。
貴女が私以外の人前で涙なんて流すから、私は貴女の涙を奪ってやろうと思ったの。
私は貴女のいろいろな所を盗んだのに、貴女はあまりにも貴女のままで。貴女のいろいろな所を盗んだ私は貴女みたいな人間になれなくて。
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虚栄心を食べて生きる

もう居なくなってしまった人たちのことを考えるのは止めた。
もう会えない人のことを思ったって会いに来てくれない。
昨日のことは忘れたけど、明日のことを考える気力も削がれてしまった。
足にまとわりつく砂の感触だけを感じて海を眺める。夏は海水浴の人たちでいっぱいだけれど、海水浴シーズンがすんでしまったらもう誰も居ない。
あの人と見た海は今日と同じ灰色の海だった。貴方は「この海を見せたかったんだ」と言ったけれど、私は貴方と青い海が見たかった。
あのときから決まっていたのかもしれない。私と貴方の関係。
貴方は今何をしていますか?
私は貴方との思い出の欠片を海に還しました。

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この世の何よりも儚いもの
 彼氏と彼女という関係のなんと脆いもの。いくらの年月を共に過ごそうとも「あれ?俺らって付き合っていたっけ?」なんて言われたらそれで終わり。築き上げてきたものも最初からなかったものにされる。いくら体を繋げようとも、体の関係で繋がるセフレという関係があるらしく、それも彼氏と彼女という関係の証明には至らない。
 結局のところ、彼氏と彼女という関係はプラトニックな関係なのである。お互いの愛しているという言葉を信じ、鳴ることのない携帯を握り締めて眠る。

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時計

 横たわる君の目尻から涙が伝うのを見つめていた。きっと眠っているであろう君に声をかけることは出来なかった。君は悔しいのか。悔しいから涙を流すのか?当たり前だろうな。俺も含めた周りの奴は進んでいくのに、君はひとり取り残される。君はひとり体の時計を止める。君が一緒にいてほしいのは俺じゃないことくらい重々承知さ。でも、あいつの代わりに傍にいさせてほしい。
「お休み」
 そう言ったとき、君の瞼が震えた気がした。




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