波がさらう

「ふんふふーん」
 なんて隣で上機嫌に雑誌をめくっている友人の気持ちを私は疑わざるを得ない。先週末はあんなに落ち込んでいたのに。
「昨日ねー海に行ったのよ」
 私の気持ちを知ってか知らずか、友人は昨日のことを語り出した。
「日本海側には冬に気温が低くなって海水温が下がって、風がひどく吹くと『波の花』という泡?みたいなのが見られるんだってー」 暢気に話す友人。昨日は日曜日だがご苦労にも日本海側まで行ったらしい。
「なんでわざわざ?」
 そんなもの見に行く必要性なんてあるのだろうか。
「んー。なんかね、すっきりしたくって」
 ……。私は感性が鈍い人間だから、泡みたいなものを見てすっきりするという気持ちはわからないが、まあ、すっきりする人間もいるのだろう。と自分を納得させた。

「で?波の…花だっけ?それは見れたの?」
「ううん」
 目的を果たせなかったはずの友人はにっこり笑って答えた。
「波はね割りと荒かった気がするんだけど、波の花は見られなかったのよ」
「……それなのに、なんでそんなに機嫌がいいの?」
「んー?なんでだろ?」
 友人は他人事のように言い、また上機嫌に雑誌をめくる。その姿を見て、この子はよく機嫌が変わる人なんだなと自分に言い聞かせていた頃、「あっ!」と何かを見つけたみたいな声を友人が出した。
「どうかした?」
「私が機嫌がいい理由は『波』のおかげかも!」
 大発見をしたかのように友人は言った。「そう」と頷けば「そうなのよ」と友人は返した。
 波の花でもただの波でもなんでもいい。この子の気鬱を晴らしてくれたなら。私には何も出来なかったことだから。

title by 狼傷年
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