キャパなんかとっくにオーバーしてるよ

「もうできないのー?」
 からかうようにやつは言う。やつはにやにやと笑みを浮かべ余裕そうに、その場で走ってみせる。こちらは、地べたに両手、膝をつき「ぜーはーぜーは」ーと息を整えようとしているというのに、手のひとつすら差し出そうとしない。
「…ま、まだいける」
 息を整えながら、必死に言葉を紡いだ。
「そんなぜーはー言いながら、なーにが『まだいける』だよ」
「ま、まだもう1回!」
 やつに100m競争を頼む。
 今ここでこの勝負を止めるわけにはいかない。何故ならこの勝負は、
「期末試験の数学ノート見せてほしいんでしょー。でもそんなんじゃあ、私に勝つなんて無理何じゃない?」
 そう俺の今回の期末試験がかかっている。この試験で赤点など出そうものなら、意中のあの子に「頭が悪い男」と印象づけられてしまう。だから、クラス一秀才のやつに頼んだ。
 そしたら、なんと「ただでは貸せない」と言い出し、俺に何かで勝負をしようと言ってきた。そこで、俺は卑怯だけれど、100m競争を申し出た。相手は女自分は男である。更に相手は文化部、俺は運動部。絶対に俺が勝つ自信があったのに……
「で?どうするの?」
 まさか、こいつがこんなに運動神経が良かったなんて
。にやにやしながら言ってきたやつに言ってやる。
「……もう1回勝負だ」

title by 酸素

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