それでも生きているなんて

もう一度いらっしゃい
かたくなまでに
それは静かに
素敵な提案
未来の種
些細な幸福を何よりも願っていました
指先の横恋慕
爪先立ちの逃亡
幾千の蟻の死骸と、




それでも生きているなんて
 どういう均衡の保ち方が正しい均衡の保ち方なの?
 薬を飲んでいちゃいけない?お酒を朝から飲んじゃいけない?
 薬を打っちゃいけない?手首を切っちゃいけない?
 だったら教えてよ。普通ってやつを。
 だったら教えてよ。私の今は何なの?

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もう一度いらっしゃい
知っているわよ全部。
貴方は私を何もわからない馬鹿だって思っているでしょうけど、そんなの大間違いだわ。
私の目を見て。この目が貴方についてどれだけ多くのことを見てきたと思う?
私の耳を見て。この耳が貴方についてどれだけ多くのことを聞いててきたと思う?
私は全て知っているの。


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かたくなまでに
ねぇ知らない?
この前ね私紛失しちゃったの。
ねぇ知らない?
大事だったはずのものよ。
どこへ行っちゃったのかしら。
もう新鮮じゃないから、真っ黒に成ってるはずよ。
……え?
臓物とかじゃないから安心して。
それはね、希望とか願いとか懺悔とかの塊なのよ。

どこに置いてきたのかしら

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それは静かに
 それは静かに静かに降り積もり、気づかない間に随分積もる。
「愛もストレスもおんなじね」

 雪が降って足元が悪い中、わざわざ来てやれば、こいつはこんなことを言った。

「ふーん」
「あら、比喩的表現は嫌い?」
 興味がないから聞き流すと、こいつは笑った。
「嫌いじゃないけど、」
「貴方の心にあるのは『わざわざこんな悪天候のときに来てやったのに、何言ってるんだこいつ』かしら?」

 ふふふ、と笑うこいつ。勝手に人の心を読むなよ。
 むすっとしているとこいつはまた笑う。
 静かに降り積もる雪とこいつの笑い声で俺の冬は過ぎていく。

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素敵な提案
いつか壊れるような気がします。
私の頭はどんどん「狂気」に乗っ取られます。
いつか私の頭の中は狂気でいっぱいになるでしょう。
いつなるかはわかりません。一年後でしょうか。十年後でしょうか。もしかしたら、今夜かもしれません。
狂気でいっぱいになった私は、それでも「私」を名乗るでしょう。
それで良いのです。
私が死ぬのを良しとしない人たちがいます。
それはきっと私にとっては喜ばしいことなのでしょう。
私はそうは思いませんが。
まあ喜ばしいことなのです。
その人たちは私がいなくなったら怒るでしょう。
でも、私はいなくなりたいのです。
消えてしまいたいのです。
だから狂気に頭を乗っ取ってもらうのです。
私はいなくなる。けれど「私」は残る。
素敵な提案だと思いませんか?


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未来の種

実が悪しきものであるならば、その花も悪しきものであろうか。
花が悪しきものであるならば、その芽も悪しきものであろうか。
芽が悪しきものであるならば、その種も悪しきものであろうか。
悪しきものからは正しきものは生まれぬのか。
反対に正しきものからは悪しきものは生まれぬのか。
誰にもわからぬ。わかるはずがない。今日芽吹いた命が悪しきものになるのか正しきものになるのか誰も知る由もないのだ。
だが皆願うだろう。今日芽吹いた命が輝くことを。

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些細な幸福を何よりも願っていました

 いつも幸せになりたいと思っていました。今は全然幸せでなくとも、いつか幸せになれると思っていました。
 しかし、ある日気づいたのです。「幸せ」って何でしょう?誰でも手に入れることができるものなのでしょうか?私にも手に入れることができるものなのでしょうか?
 私の描く理想とはどんなものかと聞かれれば、答えに困ってしまいますけれど、ありふれた幸せを祈っているのです。優しい家族。たくさんの温かいご飯。ふわふわの衣服。
 けれど、私には幸せは似合わないのです。私は不幸に塗れて生きる方がお似合いです。
 今日も幸せを夢見て眠ります。


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指先の横恋慕

 いつも死にたい、死にたいと言っていた貴方が死んだ。首をつって死んだ。
 私は貴方の首からロープを外してベッドに横たえた。私は貴方の傍らに寄り添って、貴方を抱き締めた。
 もう、貴方を私のものにはできない。

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爪先立ちの逃亡

 何かに嫌気が差したわけじゃない。何か特別な理由があったわけでもない。総てが嫌だった。私を取り囲むもの総てが疎ましかった。
 時々爆発しそうになるそれらの感情を抑える為、私は自転車を乗り回した。車を運転することもできない若造のせめてもの反抗だった。
 今私はまたやりきれない気持ちを抱えている。私には力を持っていると思うけど、何も出来ない。また自転車で爆走するか。

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幾千の蟻の死骸と、

拝啓 もうこの世界にはいらっしゃらない貴方様へ
私(わたくし)は余程貴方様に嫌われていたのでしょうか。貴方様は私を一人この世界において行かれました。この世界は、混沌に満ちており、呼吸をすることも儘(まま)なりません。
私は貴方様のために花を手折る毎日です。貴方様のお気に召される花を見つけることが出来れば、貴方様は私を迎えに来てくださいますでしょうか。貴方様に会える日を一日千秋の思いでお待ち申し上げております。
敬具 貴方様を心からお慕い申し上げる者より。

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