開けないでおきましょうか

 探していた女性の背中をみつけ走り出す
「先輩告白されたって本当ですか!?」
「うん。そうだけど……そんなに驚くこと?」
「だって徳永先輩が、ですよ。驚きます」
 徳永先輩は学内定期試験でいつも1番で頭もいいし、なにより美人だ。そして、おっとりとした性格が良い。美人で頭が良いとプライドが高そうに見えるけど、徳永先輩はおっとりしているので、学年中、いや学校中の生徒が親しみやすさを感じているだろう。僕もその1人だ。
 僕と先輩が仲良くなったのは卒業式の時なんだけど、そのことは今は置いておく。

「それで、先輩は何て返事したんですか?」
「え?うーん。まだ返事してないのよねぇ」
 おっとりと先輩は答える。おっとりしているところは良いところだとさっき言ったけれど、こういう部分では裏目に出てしまうんだなー。先輩に告白した人は、返事を待ち続けてるんだろうなと他人事のように考えた。

「どう返事しようか考えてないんですか?」
「返事?お断りしようかしらねぇ」
 左手を頬に寄せ、先輩は少し考え込んだ。先輩はおっとりした性格で人気があるが、美人で頭が良いという部分で先輩を高嶺の花だと感じる人は多い。ちなみに僕もそう思っているんだけどね。
 今回勇猛果敢に先輩に告白したのは野球部のエース。学年問わず女子からの人気が高い。フェミニストなところが魅力なんだと情報通の幼なじみの林(シゲル)から聞いた。それなのに断るなんて、何か周りは知らなくて先輩だけが知っている問題なんかがあるんだろうか。

「ねぇ」
 考え事をしていたら、急に先輩が僕に声をかけてきた。
「人の心には開けてはならない部屋があるって知ってる?」
 先輩が告白されたという話とは全く違うことを言われて、どう答えたらいいかわからなかった。
「部屋、ですか」「そう。人の心の中にはね、いろいろな部屋があるんだけど、開いちゃいけない部屋もあるんですって。ドラマか何かで見たのよ」
「へえ」
 先輩は真剣に話すけど、残念ながらその言葉は、僕の耳を右から左へ通り抜けて頭の中に留まらなかった。
「私ね、開けようかどうか迷っている部屋があるのよ」
 さっきの話の続きだと思って素直に聞いた。
「今回告白してくださった方を受け入れたら、もうその部屋を開けることはないでしょう。でも、断ればいつか私その部屋を開けてしまうわ」
 何かを恐れるようで、それでいて興味を隠せない表情だ。
「先輩、さっき断るって言ってましたよね。それって」
「ええ、いつかその部屋を開けるわ。今じゃないけれど」
 先輩のチャーミングポイントである目を細めてにっこり笑う表情を見せてもらった。
「部屋を開けたときは僕にも教えてください」
「……そうね。教えるわ」
 先輩の表情が曇ったが、それはただの見間違いだと思えるくらい一瞬だった。



title by 酸素
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