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優しいうそつき

むかし怖かったもの。
塗り潰してしまえ
The blue sky which burnt
波の狭間で眠りたい
イン・ザ・ヘッドフォン
喪失感の共有
忘却は救いだと
私は花ではありませんでした
とく、とく、とく




優しいうそつき
「私のこと好き?」
「うん」
「私とデートしてくれる?」
「うん」
「私と付き合ってくれる?」
「うん」
「ねえねえペアリング買おうよ」
「うん」
「私と朝まで一緒にいてくれる?」
「うん」
「私とずっと一緒にいてくれる?」
「……」
「優しいのね」

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むかし怖かったもの。
 昔は恋愛ドラマを見るのが怖かったなあと思い出した。男からも女からも発せられる情念みたいなものが怖かったんだと思う。自分のものにしたい、好きでいてほしい、お互いの欲求が混ざり合う様子が怖かった。
 でも、今は私がその情念を発している。あの人を私のものにしたい、あの人が私を好きでいてほしい、と。
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塗り潰してしまえ
過去の出来事を思い出したくない?
過去の自分を忘れてしまいたい?
それならば全部塗りつぶしてしまえ
今の自分の色に染めてしまえばいい。
また自分の色が変わったら、今度はその色に染めてしまえばいい。


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The blue sky which burnt
 真っ赤な空。
 さっきまで澄みきった青色だったのに、今は真っ赤になってしまった。
 もう直に暗くなるだろう。
 空は毎日焼けては真っ黒になる。
 僕もいつか真っ赤に焼けて真っ黒に焦げるんだろう。

(焼け焦げたブルースカイ)

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波の狭間で眠りたい

 砂浜に座ってみた。
 お気に入りの薄紫のワンピースが汚れたかもしれない。
 足に寄せた波がかかる。
 波は引いてはまた、こちらにやってきて、私の足を濡らす。
 定期的に私の足を濡らす波は私を呼んでいるようで心地よい。
 ザバーン、ザバーンという音なんてない。それが尚更心地よい。 潮風も冷たくて心地よい。
 こんなにも心地よい場所だから、貴方もここから旅立っていったのね。

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イン・ザ・ヘッドフォン


 大好きな音楽だけを聞いて他の音は聞かない。
 大好きな声だけを毎日聞くんだ。
 卑怯者だなんて呼ばないでくれ。ヘッドホンの外の声は下卑た声ばかりじゃないか。ヘッドホンの外の音は恨みや悲しみばかりじゃないか。だから、僕はこのヘッドホンを外さないからね。

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喪失感の共有
 目の前の友人が、ぽた、ぽたと両目から水滴を垂れ流している。
「それでねーそいつったら、先生が怒ってんのにさー」
 普通の会話をしながら
「でさー、もーなんか、あり得なくない?」
 いやいや、君の方があり得ないよ。
「あの、さ…」
 本当は言いたくないけれど聞いてみた。
「そのな…」
「何も言わないで」
 さっきの穏やかな口調とは全く違う冷たい口調で言葉を遮られた。驚いている僕の前で彼女は更に「何でもないの」と優雅に微笑んだ。
 左手をちらりと見たら、この前はつけていたピンクゴールドの指輪が外されていた。
 薬指が寂しそうだ。だけど、僕に出来ることは何もない。

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忘却は救いだと
 結局、私は私以外には成り得ない。何を書いても、何を話してもあの思い出が私を縛り付ける。
 「好き」という感情が私を縛り付けるのではない。結局は記憶なのだ。記憶が、思い出が、私を縛り付ける。
 自由にさせてほしい。もう、放してほしい。
 貴方は私を縛り付けているだなんて全く思っていないでしょうけど、私は今も縛り付けられている。貴方との思い出に。
 全てを忘れられる薬をください。

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私は花ではありませんでした

 芽吹くこともありませんでした。
 蕾をつけることもありませんでした。
 花咲くこともありませんでした。
 花散ることもありませんでした。
 朽ちゆくことしか出来ませんでした。

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とく、とく、とく

*疾く、疾く、疾く、走れ、生きろ
*とく、とく、とく、心臓の音が聞こえるね
*とく、とく、とく、貴方のグラスに注ぎ込む毒

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