三つ葉を裂いて四つの葉

「幸せなんて見つからないわ。22年間生きてきたけど、本当に幸せって思ったこと1度もないもの」

 机の上に置いた自動販売機で買った温かい紙コップを両手で包みながら先輩は言った。私は何も言えなかった。私も幸せだーと叫べるような幸せだったときがないから。
 先輩は滅多に愚痴なんて溢さない。その先輩が愚痴を言うなんて何かあったんだろう。
 先輩は携帯を少しいじった後、携帯を閉じて溜め息を吐きながら机の上においた。先輩の顔をちらりと見れば左目から涙が一滴頬を伝っていた。
「幸せなんて妄想なの、虚構よ」

 先輩には2つ年下の彼氏がいると聞いたことがある。そして、最近上手くいっていないことも。

「あのときは幸せみたいなものを感じたのよ。でも今思い出せばあんなの幸せでもなんでもないのよ。馬鹿ね。自分で自分を騙していたんだわ」
 先輩は「ふう」と溜め息を吐いた。
 彼氏―好きな人がいてかつ自分を好きでいてくれる人―がいることは、とても幸せなのだと思っていた。嬉しいことなのだ、と。でも先輩はその中に幸せを見つけられなかったと言った。

「私は先輩が彼氏さんと別れて良かったと思いますよ。先輩がその人と一緒にいて幸せを見つけられなかったのなら、きっと彼氏さんは先輩の運命の人ではなかったんです」
 我ながら子供のような考えだと思うが、幸せは運命の人と出会えたときに見つけられると思うのだ。だって、どうでもいい人間と出会えたとしても、幸せなんて見つけられないだろう。

「そういうものかしら?」
「そうだと思います。だから、先輩が彼氏さんと別れたことは悲しいことですけど、不幸なことじゃないんです。運命の人を見つける為の1つのステップなんです」

 私が熱弁すると先輩は「ふふふ」と笑ってくれた。幸せかどうかなんて本人じゃなくちゃわからない。でも、周りの言葉のおかげで不幸だと思っていたことも、不幸じゃなかったって思えると思うのだ。私の言葉が先輩の不幸を消し去るものになったことを祈っている。


title by 狼傷年
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テーマ「人外ファンタジー」
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