これさえあれば─────。
燦然とした朝日の差し込む教室で、ふとそんな考えが余儀った。逃げるように駆け込んだ学び舎で、僕のなかに埋まる蕾はいとも簡単に開花する。
鉛筆
「東京から来ました。木更津アキラです。よろしくお願いします」
少し蒸し暑い六月の終わり、胡散臭いぐらいの爽やかな笑顔を貼り付けて、彼はこの島にやってきた。
彼の髪は僕が見てもわかるほど綺麗に切り揃えられていて、後頭部はすっきりと刈り上げられている。男のくせに、髪に艶があった。トーキョーだかなんだか知らないが、こいつはいじめられるだろうな。男なんだから、と押し当てられたバリカンの音を思い出しながら、反射的にそう思った。
「木更津くん、席は畠中の隣ね。それじゃあみんな、仲良くするように!」
「え、なんで隣」
「誰もいないから!仲良く、ね!」
嫌そうな僕に念を押したマキちゃんが、逃げるように教室を去っていったことを未だに覚えてる。
席に着くや否や、木更津はすぐ女子に囲まれていた。村田や八代、佐々木まで。興味のないふりをしながら、ひたすら視界の端で彼の動向を窺っていた。
植え付けられたのか、植え込んだのか。今でも確かな答えは出ない。一つ確かなことがあるなら、彼がいなければ僕はただの弱者でいられた。蕾なんて、ほしくなかった。
(続く)
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