あの子が欲しい。
こんなの最初はただの気まぐれだったはずだけれど、今はだいぶ本気なのかもしれない。
自分でも、どうしてこんな気持ちになっているのか不思議でたまらなかった。


ボクにも光を



初めてあの子を見たのは、兄上のふざけた遊園地の中だったような気がする。
視界の端にちらりとうつって、声がちょっとだけ聞こえた。ボクらの弟が気にかけているようだったから、どんな人間かと興味が湧いた。

それから何度か、奥村燐をみるついでに、あの子のことも観察するようになった。
いたって普通の人間の女の子。特別美しいわけでも、ずばぬけて優秀なわけでもなかった。ただ一つだけ、悪魔のボクでもいいなと思うところがあった。それは彼女の笑顔だった。

彼女が笑うと、周りに明るさが飛び交う。
ボクは悪魔だから明るいことは嫌いだけれど、あの笑顔は手に入れる価値があるような気がした。




「スミマセン。」
「…え?私、ですか?」

ある日、東京見学をしていたボクの目の前に、彼女は姿を現した。用事があるわけでもないのに呼び止めてしまい、慌ててその理由を探した。

「こっ…このタワー、どこにありますか?」

ガイドブックを開き、先ほど見学し終わったタワーの写真を指差す。彼女はすこしの間をおいてから、丁寧に説明をしてくれた。
説明を右から左へと聞き流して、彼女の顔をちらりと盗み見る。
透き通るような肌が少しばかり紅潮し、睫は光をのせているかのように一本一本が輝いている。
遠くから見ていたときには、こんなに綺麗だとは思っていなかった。
(ボクには、少し眩しすぎる。)

彼女は説明を終え、ボクの方を向いた。色素の薄い双眸の奥にボクの姿が揺らいでいる。



「アリガトゴザイマス。」
「いいえ!お役にたてたましたか?」
「ええ。あの…、コレ。」

ボクは唐突に、しえみさんの胸の前のあたりに手を突き出した。彼女は少し驚きながらもボクの手の中から落ちた、キャンディを受け取ってくれた。

「お礼です。」
「あっ、ありがとうございます。」

くしゃりと顔にしわを作って彼女は笑った。柔らかい笑顔で、周りには光の粒が飛び散った。
けれどどこか、ほんの少しだけ物足りないなと感じてしまう。
僕が欲しいと願っていたのは、この笑顔ではなかった。

(ああ、そうか…。)



彼女に軽く会釈をし、ボクは来た道を引き返した。



どうかどうか、ボクに君の笑顔を下さい。
ボクらの末の弟に向けるような、一番の笑顔を、ボクにも。



ボクはどうやら、彼女が愛おしかったらしい。
(理由ができたら、あとは奪ってしまうだけ。)


END


アマしえって叶わぬ恋のようで。
切ない。
アマイモンかわいい。





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