日差しがだんだんに春の香りを含みはじめている今日この頃。2メートルほど先を歩く彼の、揺れる柔らかい髪の毛を見つめながら幸せを感じる。




「あ、そうだ。竜ヶ峰…って、わりぃ。また離れちまったな…。」

僕に声を掛けながら振り向いた静雄さんは、知らない間に僕との距離が開いていたことに気づいたらしい。慌ててこちらにやってきた。
静雄さんと僕の足の長さからいって、僕がおいて行かれるのも無理はない。それに僕も隣を歩く事にこだわっている訳でもないので、自然と二人の物理的な距離が開いて行くのである。
ちなみに、このやりとりは本日三回目になる。

「大丈夫ですよ。静雄さん。」
「…わりぃ。」

静雄さんに犬耳と尻尾がついていたら、間違いなく覇気がなく垂れ下がっていたことだろう。僕は、そんなしゅんとして、下を向く静雄さんの手にそっと触れた。
相手の体がかすかに動き、僕を意識していることが分かりなんとなく嬉しくなる。

「さ、行きましょう?」

触れるだけで手は繋がない僕の行為に、年上の彼は幾分か戸惑っているみたいだった。

行く宛もないので、会話をしながら、ゆっくりと二人で歩き続ける。
正臣の騒がしい声を聞きながら歩くことも好きだけれど、静雄さんと歩くときほど心が穏やかになることはない。(幸い僕と歩くときは、彼は喧嘩人形にはならないでいてくれるし。)


「あそこに座りましょうか。」
「おう。」


公園のベンチを指差し同意をえてから、二人で腰掛けた。向こうの方では、数人の子供たちが遊具で楽しそうに遊んでいる。可愛いなあと思いつつちらりと横を見ると、静雄さんと僕の間にはだいたい子供一人ぶんの距離が空いていた。

(やっぱり、まだこんなもんか。)

「静雄さん、僕飲み物買ってきますね。」

彼と付き合ってそろそろ1ヶ月になるわけだが、未だに距離が縮まらない。どうやら彼は、僕を傷つけてしまいそうで怖いらしい。僕だって、れっきとした男なのだから(静雄さんには勝てないけど。)そうそう死ぬことはないのだけれど、やはり、自分の力を制限しきれない彼には、人をどう愛していいのかが分からないようだった。

僕は軽くため息をつきながら、自動販売機でコーヒーを二本買って、ベンチに戻った。


「静雄さん、コーヒーでいいです…か?…って、え?」


春の匂いを含む太陽に負けてしまったのか、彼はあろうことか短時間で別世界に飛んでしまったらしい。


「シーズーちゃーん!」

彼の大嫌いな人の真似をして呼んでみても、起きる気配はない。
ホットコーヒーが冷めてしまうな、なんてどうでもいいことが頭をよぎる。

(綺麗な顔。髪の毛も。)

すーすーと寝息をたてる彼の姿を至近距離で見つめる。
くしゃっと、柔らかい髪の毛にふれ、彼が起きないことを確認すると、その中に顔をうずめてみた。

(太陽のにおい……。)


人工的な色合いのはずのそれは、もとからこの人の物のように柔らかく僕を包み込んだ。
暖かい日差しと、彼の太陽の香りにつられてまどろみかけた眼が、ベンチの横で控えめに咲く一輪の花をとらえた。




「春が来たみたいですね。」


僕は、まだ目を覚まさない静雄さんの頬にそっと口づけをして、彼のすぐ隣に腰掛けた。




太陽に向かって真っ直ぐひたむきに輝いている花は、彼の僕に対する姿勢にひどく似ていて、愛おしくなる。






たんぽぽが似合う君

(それならば僕は、貴方を導く太陽に。)


END

企画a believerに提出させていただきました。

帝静は帝人君がすごく大人っぽいきがする。





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