今日はバレンタインデーとかいう日らしいが、それは女の子のための日であって、だから俺がチョコレートを刻んで手をべたつかせているのは、ただの気まぐれなのである。



甘いのは君




日々のご飯や弁当はつくるものの、お菓子なんてほとんど作ったことがない。しかしこの間「チョコレートが食べたい」と言ったレッドの言葉が頭をぐるぐる回っていたわけであって。
たまたまスーパーに山積みの板チョコがあったので、三枚ほど買い物カゴに入れてしまったのは、バレンタインデーマジックで、きっと俺はスーパーでながれるバレンタインデーの曲に洗脳されていたのだということにした。


しかし、こったお菓子はできる気がしないし、万が一を考えて既製品を準備しておいた。よくよく考えれば、俺が何故チョコレートを買っているのかというところにたどり着くのだが、そこは考えないことにした。
たまたま、チョコレートを食べたいといったレッドのために、俺はしぶしぶチョコレートを買ってきたのである。



乙女の決戦日など知るか。俺は男だ。



お菓子の調理本をペラペラとめくっていくと、ある料理をみつけた。これなら簡単そうだと思い、そのページの端を少し折る。


俺はポケギアをとりだし、一番上にある番号に電話をかけた。


五回ぐらいの着信音の後、電話に出る音がした。


「もしもし、レッド?」

『……うん。』

「うまそーなチョコがあるんだけど、食べる?」

『いく。』

間髪入れない返事の後で、すぐに電話が切れた。何分で来るかくらい教えておけよ。と思ったがもうポケギアの向こうから声はしない。

しばらくして、レッドが家にやってきたので家にあげて座らせる。
俺はキッチンで、砕いたチョコを使ってホットチョコを作ることにした。溶かして混ぜるだけ。簡単って最高。


買ってきた高そうな(実際そこそこに値段はする)チョコに、ホットチョコをそえてレッドに出しながら、こいつは甘党だっだろうかとふと思う。


「食べれば?」

そう言うと、レッドは無言で包装紙をはいで箱をあけ、中のチョコを食べ始める。

「うまいか?」

「……うん。」

無表情な顔が、ほんのすこし柔らかくなり笑顔がみえる。
俺も食べるというと、レッドが口を開けろという仕草をした。

恥ずかしいと思ったが、大人しく口を開ける。


「あー……ん。ん。うまい。」


やっぱり既製品を買っておいてよかった。俺にはこんな綺麗な物は作れない。
レッドが目の前で、先ほど俺の口にチョコを運んだ指先を舐める。わざとらしくリップ音を立てるので、キスをされたような感覚に陥って少し顔があつくなる。


「これは何?」

レッドがホットチョコレートを指差して聞いてきた。

「ホットチョコって言うらしい。飲み物だよ。」

ふうん、といいながらレッドがそれを口にする。

「甘いね。」

そりゃあ、チョコレートだ。甘いに決まっているが、やはりチョコにチョコの組み合わせはまずかっただろうか。

「コーヒー入れるか?」

「……いらない。」

「あ、そう。」

「だって、これさ…。」

「何だよ?」

「グリーンが作ったんでしょ?」

「……え!?」

こいつに俺がつくったとは一回も言っていないはずである。どうして分かったんだ?

「違うの?」

「えっ、いや、そう…だけど。なんで分かっ……。」

「……なんとなく。」

レッドはつれっと答えながら、俺が作ったホットチョコを飲み干す。


「……美味しいよ。」

「…おう。」

「僕、愛されてるね。」

「ッ…うぬぼれんな!」

恥ずかしくなって、視線を机に落とすと甘ったるい匂いが鼻腔一杯に広がる。思考までとけてしまいそうだ。

「グリーンありがとう。…好きだよ。」

「ん……わかってるよ…。」


意識していないつもりでも、頭のどこかにバレンタインデーというワードが貼り付いていて、結局レッドにばれてしまうし。
男が男にチョコレートかよ、なんて思っていたが、予想外の言葉も聞けたことだし、結果オーライだったのかもわからない。



甘いのはチョコレートだけ?

(君の言葉に、溶けてしまいそうだ!)



END

バレンタインいいですね!





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