画面越しとかじゃあなくて、隣に来て、舐めて、引っ掻いて、くっついて、噛みついて、互いの温度を確かめたくはありませんか?
Let's have a chat !
――田中太郎さんが入室されました――
田中太郎:こんばんわー
田中太郎:誰もいない?
甘楽:こんばんわー!
田中太郎:甘楽さんですか…
甘楽:なんですかー?不満ですかー?
田中太郎:セットンさんは来てないんですね。忙しいのかな。
甘楽:スルーとかw
甘楽:セットンさん最近みませんね
カタカタと、軽快に響くキーボードの音。画面の向こう側には、情報屋の彼。
今現在は甘楽さんとチャット中ということにはなるのだが、どうも甘楽さんは面倒くさい。
いつも以上に本心が見えないからなのだろうけれど、なんとなく、甘楽さんと話すときは一線置いているような感じ。
田中太郎:そういえば、甘楽さん具合大丈夫ですか?
――セットンさんが入室されました――
セットン:ばんわー
セットン:甘楽さんどうかしたんですか?
田中太郎:こんばんわ
甘楽:具合?えっ?なんのことですか?どこも痛くないですよう
甘楽:セットンさん、こんばんわ☆
甘楽さんの『痛くないですよ』というログを見て、自分の口元が歪んだのを感じる。誰も痛いかなんて聞いてないのにそんなこともらすなんて、おかしくてたまらない。
セットン:ならよかったです!
田中太郎:怪我とかの話じゃなくて…。 昨日、寝不足だっていってたじゃないですか。
甘楽:あー!甘楽ちゃん早とちりしちゃいましたw
甘楽さん…もとい臨也さんの痛みには覚えがある。昨日この場所で彼が鳴けなくなるまで、滅茶苦茶にしたのは紛れもない僕自身であった。意識を一旦手放して、再び目覚めた時の第一声が『全身が痛い』という発言だったくらいだ。
痛くしたつもりはなかったのだけれど…。僕に言わせてみれば、臨也さんが可愛すぎるのがいけないと思う。
田中太郎:じゃあ今日はこのあたりで。
――田中太郎さんが退室されました――
セットン:私もこの辺りで。
――セットンさんが退室されました――
甘楽:あららー、みなさんいなくなっちゃいましたね。じゃあ私も用事ができたので。
――甘楽さんが退室されました――
甘楽さんが退室したあたりだろう。僕の携帯が鳴り響いた。僕はキーボードを打つ手を止め、携帯の画面をみた。
臨也さん
の四文字と、最近追加された電話番号が画面に浮かんでいる。
「はい。」
誰かなんてお互いわかっているし、それ以上交わす言葉も見つからなかった。
『帝人くん、さっきのどういうこと?』
「どういうこと、とは?」
『……答える気がないならいいや。わざわざ問いただすことでも無いし。』
「じゃあ、なんで電話したんですか?」
『…それ、は…。』
「昨晩のこと、僕なりに心配しているんですよ。あんなに、激しく、乱れて。」
『はっ…よく言うよ。心配してたなら、二回くらいにして欲しかったね。僕は君ほど、若くないんだからさー。』
「ははっ、あれだけ喘いでおいて、年寄り発言ですか。」
臨也さんが、電話の向こう側でぐっと声をのむ気配を感じた。僕もそうであるが、この人は僕以上に素直じゃない。歪んでひねくれて、人をもて遊ぶ。
「で、何で電話してきたんですか?痛いって文句言いたかったんですか?」
『……。』
「用事ないなら切りますよ。僕はあなたと違って、宿題がありますし。」
あってもやらないのだけれど、臨也さんが余りにも口を開かないので、そう言って電話を切る素振りをみせる。
「切りますよ。」
『…会いたい。』
「静雄さんに?」
『違う!……帝人君に、会いたい。』
やっと言ってくれた。
画面越しじゃなくて、あなたの口からその言葉を聞けてよかった。
「今から、来てもいいですよ。待ってますから。」
『…ん。』
短い返事のあとに、機械音流れる。
今からだから、きっと一時間もすれば着くだろう。
それまでに、やらなければいけないことを済ませておかなければ…。
気づけば僕の口角はあがりっぱなしで、臨也さんは可愛いなあと改めて思う。
お互いに、違う名前で上辺だけの会話をするチャットも楽しいのだけれど、やっぱり近くで、僕の横にあなたの温もりを感じておきたいのです。
悪態をついても、唾をはいても、噛みついても、なんだっていいから、画面越しじゃ伝えられないぬくもりを僕に下さい。
ねぇ、隣でおしゃべりしませんか?
END
帝臨のときの臨也は、もうでれっでれで帝人がいなきゃいけないぐらいが好きです!