銀色世界を進め! | ナノ


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和樹side.



「今日はまた、随分とデケー月が出てるな」



煙管を吹かせながら、唐突に呟く。



「かぐや姫でも降りて来そうな夜だと思ったが、とんだじゃじゃ馬姫達が降りて来たもんだ」



そう言って紫煙を吐き出す。煙は少し冷たい夜の空気に溶けた。

僕は背筋に冷や汗が流れていくのを感じる。



(ヤバい、この人。本当に色々危ない…!)



漫画、アニメ、映画…。ゲームも少しかじったかな。結構なメディアミックスを広げている銀魂作品。その登場人物の中でも特に僕が苦手なのが、目の前にいる高杉さんだ。

雰囲気だけで圧倒されそう。息が苦しい。

刀を向けられた訳でもない、ただそこに立って話をしてるだけなのに、この威圧感。

気を抜けば、やられる。



「「!!」」



瞬間、背後に感じた殺気。

急いでその場を離れると、期待通りと言うか何と言うか、今まで居た場所に弾丸がめり込んだ。

えーと、誰だっけ。鬼兵隊の銃使い…!



「貴様等ァァ!何者だァァァ!?晋助様を襲撃するとは絶対許さないっス!」



見えたのは、ピンク色のヘソ出しの着物。

床に倒れる体勢の神楽ちゃんの上で跨がる形で立っている。2人はお互いにお互いの獲物を向け合っていた。

これは僕、対象外かな?是非そのままでいて下さい。非戦闘員なんだから。



「銃を下ろせ!この来島また子の早撃ちに勝てると思ってんスかァ!?」



そうだ、来島また子さん!鬼兵隊の“赤い弾丸”!

男勝りの口調でこっちに降伏を呼びかけるけど、無駄ですねハイ。口の悪さなら、神楽ちゃんも負けてない。



「また子、股見えてるヨ。シミツキパンツがまる見えネ」

「甘いな、注意をそらすつもりか!そんなん絶対ないもん、毎日取り換えてるもん!!」



焦って口調が迷子です、また子さん。

そりゃあそうだよね。男性が…特に自分が好意を寄せている人がこの場にいるのに、そんなこと言われたら恥ずかしいよねぇ。



「いやいや付いてるヨ。きったねーな、また子の股はシミだらけ〜」

「貴様ァァ!!これ以上、晋助様の前で侮辱することは許さないっス!それからそこの女ァ!!」

「はいっ!?」

「何勝手に晋助様の近くのポジションをゲットしてるんスか!それ以上動いたら容赦無く撃つッスよ!!」



標的にされてる!?

チラリ、と高杉さんを見れば、心底面白そうに笑われた。うわ、こんな時に思うのも何だけど、顔は良いよなぁ。



「…何かおかしいですか?」

「いや、お前のあからさまな怯え方を見てたらな…ククッ」

「し、失礼な人ですね随分と……」



イケメンだからって全部が許される訳じゃないんですからね。

そんなことを考えていたら、いつの間にか神楽ちゃんがまた子さんを蹴り飛ばして逃げていた。

アスカといい神楽ちゃんといい、本当に相手の隙を見つけたら確実に全力で突くよね。



「武市先輩ィィそっちッスゥゥ!!」



また子さんが叫ぶと、僕と神楽ちゃんをスポットライトが明るく照らす。

今の内に船内へ侵入しようとしてたのに…。そう簡単には行かないか。



「皆さん、殺してはいけませんよ。女、子供を殺めたとあっては侍の名が廃ります。生かして捕えるのですよ」



どこか無機質な声が耳に届く。鬼兵隊の参謀、武市変平太さんだ。



「先輩ィィ!!ロリコンも大概にするッス!ここまで侵入されておきながら、何を生温いことを!」

「ロリコンじゃない、フェミニストです。敵といえども、女性には優しく接するのがフェミ道というもの」



うん、女の子には優しくしないとね。そう思うなら今すぐこの攘夷浪士さん達をどけてほしいなぁ。

なんて無理な願いを抱く。だって囲まれてるんだもん!全員帯刀してるんだよ!?

僕は非戦闘員だって言ってるのに、どうして受け入れてくれないんだ。

とりあえず持っている護身用のバトンを構える。

アスカみたいに僕は強くない。図太くもない。普通のガラスのハートの持ち主だ。もういっそのことプレパラートに乗せるカバーガラス程でもいい。

だから勝てる気なんてサラサラ無い。それでも、何もしないでやられるのは嫌だ。



「和樹ごめんヨ。巻き込んじゃったネ」

「気にしないで。とにかく今は、この場をなんとかしないと」

「うん」



僕達は一斉に敵に向かって駈け出した。

神楽ちゃんの背後くらいは守らなきゃ。何の為に、僕はここに来たんだよ。



「はぁぁああ!!」



召喚獣を操作する感覚を思い出しながら、バトンを振るう。

経験の差は感覚で埋めないとやっていけない。

自分の五感をフル稼働させて、攘夷浪士をなぎ倒す。



「なんだァこの小娘共!?」

「やたら強いぞォォ!!」

「緑髪の小娘の杖も、中々折れん!一体何で出来てるんだァ!?」



これは、アスカの四次元ハンカチを作った人が僕専用に改造してくれた物だ。

女子高校生でも簡単に振るえる程に軽くて、だけど硬くて丈夫。刀くらいじゃ折れないよ。


それに、幾ら速い動きをしようと。気配を消して背後を取ろうとしても。

僕には無駄だ。

小さい頃の過去が原因で、五感が常人では考えられない程鋭くなってるから。

スローモーションで見えるし、空気の切る音で死角からの攻撃も防げる。

何より、普段から怖い殺気とか見えない攻撃とか刃物とか見慣れてるからね!全く嬉しくないけど!Fクラスは本当に殺伐と言うか、ある意味危ない教室だよ!!



「和樹、無事アルか!?」

「うん。神楽ちゃんは?」

「私も平気ネ。ピンピンしてるヨ」

「そっか、よかった……」



ダンッ!


安心したのも束の間。耳に聞こえた銃声。

その方向を見れば、銃を構えてるまた子さんの姿。

狙われたのは――神楽ちゃんだ。



「危ない!!」



思った時には神楽ちゃんの首元を強引に引っ張っていた。

命中した場所は右肩。燃える様な激痛が、僕の全身を襲う。



「和樹!?何してるアルか!!」

「いったぁ……。神楽ちゃん、怪我は…?」

「私の心配より自分のことヨ!肩っ…」

「平気だよ。僕、頑丈だから。
…今の内に、船内へ向かって。ここを真っ直ぐ行った場所に、工場があるから」



今、僕がやるべきことは、原作を出来る限り変えること。

傷付くと分かっている人を助けること。

痛みに少し震えながらも、必死に笑顔を作った。感情を隠したい時、演技の職業に就いててよかったなー、と心底思う。



「……分かった。そこまで言うなら行くネ。和樹も無理するなヨ」

「うん」



バトンを杖の代わりにして立ち上がり、神楽ちゃんを見送る。

浪士達が騒いだけど関係無い。



「ここから先は、通さない!」



怖いよ。

一般人の僕が敵う訳無いでしょ。

理屈じゃないよ。こんなのは。

助けたいだけだもん。出来なくても、時間が少しでも稼げるなら。

無茶くらい押し通してやる。



「へぇ…。面白いな、お前」

「そりゃどうも…」

「その歳でその動き……何者だ?」

「こ、答える義理はありません」



高杉さん怖い!!目が特に!

シリアスなところ悪いけど、本当にそんなのどうでもよくなるくらいには怖いよ!気をしっかり持ってないと一発で気絶しそう。殺気痛い。



「更に気に入った。少しばかり付き合ってもらおうか」

「へ……ッ!?」



速い!!

まるで一歩しか動いてない様な時間で背後を取られた。流石は伝説の攘夷浪士。白夜叉と並ぶだけはあるってことですかね。

アスカだったら、勝てるかなぁ……。


現実逃避をしながら、首筋に来た痛みに顔を歪ませた。

やっぱり敵わないか。ボスキャラもいいところだもんね、この人の実力は。



「ご、め……ん」



『怪我すんなよ』



ごめん、アスカ。約束守れなかった。

紅い髪と宝石みたいな瞳を思い浮かべる内に、僕の視界は黒く染まった。



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