銀色世界を進め! | ナノ


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「入るぞババア」

「ちょ、アスカ!失礼します!」

「少しは礼儀ってものがないのかい?私はこの学園の長だよ」

「その学園長を何度か手伝ってるの誰だと思ってるんだよ」



学園長……まぁこんな老いぼれにそんな立派な役職いらないからババアでいいか。

ババアは溜息を吐きながら私達を見る。

とにかく手っ取り早く終わらせたい私は、早々に聞き出すことにした。



「んで、用件は?」

「お前達2人に試してほしいことがあってね」

「試してほしいこと…ですか?」



また実験か?

発明好きらしいババアは、よく発明品を作れば私達に試させた。

自分で言うのもなんだが点数はかなり高い私達は、明久や雄二が出来ない……高得点の生徒にも付けられる試召戦争用グッズの実験台としてかなり便利だからな。

Aクラスの生徒でもいいけど、何か問題が起こった時、Fクラスの方が色々話が通る。

しかも私は観察処分者だし。丁度いいんだろうなぁ。



「ついこの間整理してたら面白そうな物を見つけてね」

「それって、学園長の後ろに置いてある…」

「そう、この機械さね」



灰色の、いかにも発明品ですと言わんばかりの箱。

これがババアが掘り出した面白そうな物らしい。



「これは、試験召喚システムを作ったヤツが、少し前にくれた物なんだよ」

「今までしまってたのか?こんなデカイ箱を?」

「あの頃は色々忙しかったんだよ」

「というか、試験召喚システムを作った人と面識あったんですね。そっちが驚きなんですけど」

「知り合いじゃなかったら、この学園を建てたりしないさ」



ふーん、と生返事を返しながら改めて箱を見つめる。

成人男性が簡単に入る程の大きさ。箱という概念に合わない人が通れるドアと、ゴミ箱みたいなのと、スイッチがあるだけの、シンプルなデザイン。

あの摩訶不思議な、科学とオカルトが偶然混ざって発明された試験召喚システム。

それを作った人間が送った品だ。何か仕掛けがあって当然なんだけど…。



「これ、どういう物なんですか?」

「ヤツによれば、『トリップ出来る装置』らしい」

「トリップゥ?トリップって、trip?」

「旅行とか、そういう意味がある…?」

「そうさ。けどただの旅行じゃない。異世界旅行さ」

「「異世界旅行!?」」



ちょ、おま、はぁあああ!?

異世界って、何だそれ!?



「可能なのか、そんなこと!」

「分かんないからお前達を呼んだんだよ。忘れたかい?」

「忘れてはないですけど……それ、大丈夫なんですか?」

「さぁね。今からそれを試すんだろ」



このババア…!異世界に私等飛ばす気か!?

アホか!!んな危険をどうやって承認しろと!



「ま、物は試しだ。行ってきな」

「“逝ってくる”になるわボケェエエ!!戻らなかったらどうする気だ!」

「喧しいねぇ。ちゃんと保険はあるさ。日向、神凪、手を出しな」

「あ、はい」



渡されたのはトランプのカード。絵柄はジョーカー。

何の変鉄も無い、ただのトランプだ。



「これ、何ですか?」

「通行証のような物さ。それを持っていれば何かあった時、こっちからお前達を引き戻せる」

「こんなトランプ1枚で?」

「無くすんじゃないよ。無くしたら、戻って来れないからね」

「どんな脅しだ!!」



と言いつつも心配だから丁寧に四次元ハンカチにしまった。

和樹も、自分の四次元バッグにしまっている。

何かあったらマジで怖いし。



「1週間戻らなかったら、強制的にこちらに戻す。もしかしたら、向こう側から強制退却っていうのもあるからね。気を付けな」

「ある意味死地に追いやるヤツの言葉じゃねーよ」

「気にすんじゃないよ。ほら、箱の中に入りな。そんで、しっかり手を握るんだよ」



仕方無いから言われた通りに従う。

箱の中は意外と広くて暗かった。



「箱の横に、ゴミ箱みたいなのがくっついていただろう?」

「おう」



箱の外からババアの声が聞こえる。

反響して聞こえやすいが、吐き気がしそうだ。

ぼそりと呟いたら和樹に叩かれたけど。



「そこに漫画や小説、DVDを入れると、その世界に行けるらしい」

「んで、その作品は?」

「それは行ってからのお楽しみさ」



ふざけんなババア。

しかも作品はさっき適当に買ってきた物らしい。

ふざけんなババア。



「“適当に”とか製作者に謝れ!」

「気にするところはそこかい!?」

「ちょっとアスカ黙って!」

「はいごめんなさい」



ゴトン、とゴミ箱に物が入る音がした。

音からしてDVD?いや、本かも。ここからじゃ分かり難い。



「んじゃ、スイッチ入れるよ。精々頑張んな。報告を楽しみにしてるよ」



あ、銀魂の最新刊買うの忘れた。

最悪だ。これから異世界に行くって言うし、暫く読めないのに。

せめて行き先が面白いところだといいなぁ。

そんな思いを胸に、和樹と共に目を瞑った。



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