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「オイ、どこ行くんだ」
私が少し部屋に戻っている間に、銀さんが布団から出て部屋を後にしようとしていた。
それを許さないお妙さんによって頭を鷲掴みにされているが。
「いや、ちょっとオシッコ」
「コレにしろ。ここで」
お妙さんが手に取ったのはペットボトル。
それに入れるのは中々キツいと思うが。
「いやアスカいるし」
「気にすんな銀さん。男のモノなんて見慣れてるし」
「何でだよ!?」
「色々あったんだよ」
小学生の頃とかさ、恥じらいって無いじゃん。
パンツ脱がせ合いとかよくしたぞ、私。小学校は明久や瑞希と同じだったから、主に明久をいじめていたが。
そんな中、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「ハーイ」
とりあえず銀さんは置いといて、お妙さんが玄関を見に行く。
扉を開けると、立っていたのは1人の少女。傘を差して、恥ずかしそうに若干下を向いている。
あれが生鉄子か…可愛いな、やっぱり。
「何の御用で?」
「………あの……あれ……」
「ひょっとして、銀さんか?」
訊くと頷かれる。
お妙さんは銀さんのことを心配してか、今は会えないと言おうとする。
「ここにいるぜー」
けどそれは本人によって遮られた。
家の中に目をやれば、床に寝そべって客間から顔を出す銀さんがいた。
「おー、入れや。来ると思ってたぜ」
*****
「――本当のことを話しに来てくれたんだろ」
鉄子を明るく家に招き入れて、私はお茶を用意する。
銀さんとお妙さんは真っ直ぐに鉄子と向き合っていた。
「この後に及んで、妖刀なんて言い方で誤魔化すのはナシだぜ」
対する鉄子は俯いていて目を合わせない。
とりあえず全員にお茶を配ってお茶菓子を置いて、私は空いている端っこのソファに腰を下ろした。
銀さんは鉄子に低い声で訊く。
「ありゃ何だ?誰が作った、あの化け物」
「……紅桜とは」
心を決めた様な鉄子は、さっきと違い真っ直ぐに銀さんを見つめる。
「私の父が打った紅桜を雛型につくられた――対戦艦用
“
鉄子が何故そこまで詳しく知っているのか。
その化け物を作れる技術を持つ人間。
ここまで来れば、例え原作を知らなくても、真相は見えてくる。
「……あんなものを作れるのは、江戸には1人しかいない。――頼む」
鉄子は更に強い声で、机の上に分厚く膨らんだ茶色の封筒を出した。
重さや微かに聞こえる擦れる音からしても、かなりの量が入ってる。
そして鉄子は、必死に声を絞り出して言った。
「兄者を止めてくれ。連中は……高杉は……アレを使って、江戸を火の海にするつもりだ」
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