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陽は落ちて夜。
“打倒 辻斬り”と書かれた鉢巻をしたエリーと私は桟橋に来ていた。
それからパシリに行っていた新八。手には袋を持っている。
「ちゃーすエリザベス先輩!!焼きそばパン買ってきましたァ!」
〔俺が頼んだのはコロッケパンだ〕
「いやコロッケパン売り切れてたんで似たようなヤツ買ってきましたァ。すみませんッス」
「雰囲気がガラッと変わったな」
つーか焼きそばパンとコロッケパンって似てるか?
新八は私の分も買ってきてくれたようで、渡されたハンバーガーを食べる。
「辻斬り来た?」
「いや。それらしい姿も気配も確認出来てない」
「やっぱり無茶じゃないッスかねエリザベス先輩。辻切りに直接、桂さん達のこと聞くなんて。まだ犯人が辻切りって決まった訳じゃないし」
新八が声を掛けると、エリーはいきなり刀を新八に向けた。
「何すんですかァァ!?ちょっとォォォ!!」
〔俺の後ろに立つな〕
「エリーカッコイイ!」
〔そうだろう?〕
「うるっさいよ!!どっちが前か後ろだか分からん身体してるくせに!!」
「オイ」
新八とエリーがビクリと反応するが、安心しろ。
声を掛けたのは奉行所の人間だ。
「なんだァ〜奉行所の人か。ビックリさせないでくださいよ」
「ビックリしたじゃないよ。何やってんだって聞いてんの。お前等分かってんの?」
その時、近付く気配に私は反応した。
そろそろだな。現れるのは。
「最近ここらにはなァ…」
ズルリ
奉行所の人間の身体が、左右にズレた。
ブシャアァアア
「辻斬りが出るから危ないよ」
斬れて二つになった奉行所の身体から、鮮血が飛び出る。
その奥にいる笠を持った男は、淡い紅色をした刀を持っていた。
来たな、と思うと同時に私も刀を構える。
「エリー!新八を!」
〔おう!〕
エリーに頼み、新八を蹴飛ばしてもらう。
今の新八は丸腰だ。格好の標的にされちまう。
ガキィイイン!!
「ほう、良い腕だねぇ。お嬢さん」
「そりゃあどーも。とりあえずここ狭いからさぁ…もうちっと広いところに移動しねぇ?」
「出来ない相談、だ!」
しまった、速い!
簡単に私の刀をすり抜けて、首を狙われる。
目では追えてたけど、身体が反応しない。
(斬られる…!)
そう、思った時。
辻斬りの刀が弾かれ、同時にゴミ箱から声が聞こえた。
「オイオイ、妖刀を捜してこんな所まで来てみりゃ……。どっかで見たツラじゃねーか」
「ホントだ。どこかで嗅いだ匂いだね」
ゴミ箱から出て来た銀さん。
そして笠を外し顔を明かした辻斬りは、盲目の居合人――岡田似蔵だった。
「件の辻切りはアンタの仕業だったのか!?それに銀さんも…なんでここに!?」
「俺の台詞だ。なんでこんな夜遅くまでオメーらが張り込みやってたかは知らねーが、目的は違えどアイツに用があるのは一緒らしいよ、新八君」
「うれしいねェ。わざわざ俺に会いに来てくれたって訳だ。
コイツは災いを呼ぶ妖刀と聞いていたがね。どうやら強者も引き寄せるらしい。
桂にアンタ。こうも会いたい奴に会わせてくれるとは、俺にとっては吉兆を呼ぶ刀かもしれん」
「…やっぱりそこは変わんないか」
出来れば変わってほしかったな。
ヅラを斬ったのが、似蔵じゃなかったらよかったのに。
でもきっと、コイツじゃなかったらヅラは斬られなかったんだろうな。
「それに…」
(ッ!?)
「いい腕をしたお嬢さんにも出会えた……。その年で俺の刀を止める奴は中々いない」
「あはは、は…。私のことはそのまま忘却の彼方へ飛ばして下さいな」
「そんな太刀筋を持っておいてかい?」
無理ですよねー!分かってたさ!
でも私には目を付けんなよ頼むから!!動きにくくなるし、ぶっちゃけ本物の斬り合いで勝てる自信無ぇんだけど!!
簡単には死なないと思うけどねぇ…。それとこれは話が別だ。
つか似蔵の殺気メッチャ痛い。こっちを見るだけで背筋を逆立たせるって、ホント何なのコイツ。
私が内心頭を抱えていたら、新八が似蔵に向かって叫ぶ。
「桂さんをどうしたお前!!」
「おやおや、お宅等の知り合いだったかい。それはすまん事をした」
似蔵は謝るが、声色は全く謝罪じゃない。寧ろ憐みの方が強かった。
「俺もおニューの刀を手に入れてはしゃいでたものでね……ついつい、斬っちまった」
「ヅラがてめーみてーな、ただの人殺しに負けるわけねーだろ」
「怒るなよ、悪かったと言っている。あ……そうだ」
思い出した様に似蔵が取り出したのは黒い髪。
月光に反射して光るそれは紛れも無く、ヅラの髪だった。
「ホラ、せめて奴の形見だけでも返すよ。
記念にと毟り取って来たんだが、アンタ等が持ってた方が奴も喜ぶだろう。
しかし桂ってのは本当に男かィ?このなめらかな髪……まるで女のような……」
ガキィン!!
ヅラの髪を弄ぶ似蔵に、無言で斬りかかる銀さん。しかし似蔵もすぐに反応して、木刀と刀が鳴る。
目は見えなかったけど分かる。銀さんから、凍てついた怒りが滲み出てるのを。
「何度も同じこと言わせんじゃねーよ。ヅラはてめーみてーなザコに、やられるような奴じゃねーんだよ」
「クク……確かに。俺ならば敵うまいよ」
怪しい笑みを浮かばせる似蔵。その瞬間、ヤツの手に変化が訪れた。
腕や手の甲から機械のコードやらチューブが出て来て、似蔵の腕に巻きつく。
持っていた刀身が機械に飲み込まれていく姿は、まるで生き物。
「奴を斬ったのは俺じゃない。俺はちょいと身体を貸しただけでね。
なァ……『紅桜』よ」
「なっ!」
銀さんは驚きに表情を変える。
アニメを見ていた時も思ったことを、思い出した。
私も空気は読みたいが、それでも一応言っておこう。
…紅桜って、キモイなぁ……。
*****
和樹side.
アスカ達と別れた後も桂さんを探したけど見つからず、情報も無くて帰ろうとしていた時だった。
定春が、桂さんの匂いがする場所を見つけたのだ。
「定春、ここからヅラの匂いがするアルか」
「ワン」
定春から発せられる、肯定的な鳴き声。
匂いがすると言われた方向を見れば、港に大きな船が一隻停まっていた。
(普通、こんなに大きな船があったら不思議に思うものだけど)
周りの人があまり関心を持っていないところを見ると、珍しい物じゃないっぽい。
「何だろ?あの船」
「…どこかの団体さんが持ってる物だと思うけど」
すると、後ろから話し声と人の気配がした。
音量からして、こっちに近づいて来る。
それに気づいた神楽ちゃんと定春と一緒に急いで隠れると、三人の浪人さんが現れた。
「オイ、どうだ。見つかったか?」
「ダメだ。こりゃまた例の病気が出たな岡田さん…」
「どこぞの浪人にやられて大人しかったってのに」
「やっぱアブネーよあの人。こないだもあの桂を斬ったとか触れ回ってたがあの人ならやりかねんよ」
「どーすんだお前ら。ちゃんと見張っとかねーから。アレの存在が明るみに出たら…」
恐らく攘夷浪士の3人は、そんなことを話して再び去って行った。
神楽ちゃんはそれを確認して、紙にここまでの地図を書き記す。
「定春、お前はコレを銀ちゃんとアスカ達のところに届けるアル。かわいいメス犬がいても寄り道しちゃダメだヨ」
紙を咥えて走り出す定春に手を振って、神楽ちゃんと船を見上げる。
僕は懐から携帯用バトンを取り出して組み立てた。
戦闘になるフラグ、立ちまくってるからね。
「…よし、行くネ和樹」
「うん」
突入、開始。
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