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No side.
「ちょいと失礼。桂小太郎殿とお見受けする」
とある夜の桟橋にて、二人の男が立っていた。
既に夜は深くなっていて、どちらも顔が見えない。
「…人違いだ」
「心配いらんよ。俺は幕府の犬でもなんでもない」
その内の一人は桂小太郎。
「犬は犬でも血に飢えた狂犬といったところか。
近頃巷で辻斬りが横行しているとは聞いていたが噛み付く相手は選んだほうがいい」
「あいにく俺も相棒もアンタのような強者の血を欲していてね。一つ殺り合ってくれんかね?」
もう一人の男は、鞘から刀を抜く。
「!……貴様その刀、」
フッ
男は一瞬で桂の背後を取ると、背中を鋭く斬り付けた。
「アララ。こんなものかぃ」
桟橋の上に、真紅が飛び散る。
月はその様子を怪しく照らすだけだった。
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