▼ 3
そんな一騒動を起こした後、アスカが四次元ハンカチから工具と引き戸を取り出して戸を直していた。
何で引き戸が常備されてるのかは聞かないでおくよ。
「で?何の用だヅラ。いきなり来て」
「ああ、少し妙な噂を聞いたのだが。一応銀時の耳にも入れておいた方が良かろうと思ってな」
「噂ぁ?」
ソファに座り、お茶を啜る桂さん。
向かい合って銀さん、その左右に新八君と神楽ちゃん、僕とアスカさんはこの間新しく買った一人用ソファに座っている。
銀さん、本当に甘い物好きなんですね。苺牛乳を1Lまるまる飲む人は早々いないです。
「うむ。なんでも、“世界を旅する装置”の話だ」
「世界?」
「もっと詳しく話すと“異世界を渡る”とか」
異世界を渡る装置…!
僕は無意識にアスカの様子を窺っていた。
アスカはほんの一瞬だけピクリと反応して、すぐに平常に戻っている。
ちゃんと情報を聞くまでは下手に動かない、ってことだね。
「今、天人や攘夷浪士の中で一番話されている噂だ。
どこかに異世界を渡れる装置があり、それを使って異世界から来た人間は普通では考えられない能力を有している……と」
「まさか、天人が狙ってんのか?」
「そうだ。誰もがその装置、又は異世界人を欲している」
「一体何の為に?」
「さぁな。しかし、狙っている輩の目的は只事ではないだろう。もしかしたら、戦争か何かに利用する気かもしれん」
「せ、戦争!?」
冗談じゃないんですけど!
アスカはともかく、僕は非戦闘民。戦いとか喧嘩とか得意じゃないんですよ!
「異世界人を狙うことを、通称“異人狩り”と呼ぶ。大人しく捕まらないのならば、血を採取する…という方法も企んでいるらしい。
天人も、攘夷浪士の片隅にも置けない奴等も、異世界人の力や血に期待を抱いている」
「血を取るアルか?そんなことしてどうするネ」
「古来から、血には様々な情報が含まれており、強い者の血を身体に入れれば力を得られると言われているのだ。だがそんなもの、根拠は全く無い」
「馬鹿が考える発想だ。血になんざ、何も入ってねーよ。攘夷志士も馬鹿になっちまったか」
「一緒にするな。奴等は自分達を過信して奢っている阿呆だ」
辛辣ですね…。
確かに、血から力を得られるなんて発想は古いし事例も無い。それを未だに信じてるなんてアホだとは思うけど。
血に含まれているのは赤血球と白血球、血小板、水分、その他諸々だ。
せめて細胞とかならまだ分かるかも……。ああ、でも細胞にある物も精々DNAやら身体を創る為の情報しか入ってないから、関係無いかな。
アスカの家だったら、関係有るかも。特殊だし、アスカの異常な身体能力とか戦闘センスとかはアスカのお父さんの方の家系が関係しているみたいだし。
「…成程な。私等は獣に狙われる獲物、ってことか」
「アスカちゃん?」
「銀時、まさかこの者達は…」
「ああ、異界人だな」
アスカが普通にバラした。桂さんを味方と見なしたみたいだ。
こんなにアッサリとアスカが気を許すなんて珍しい。幾ら漫画やアニメでどんな人物か知ってるからって…。
まぁ、アスカが決めたなら僕も従いますけどね。じゃなきゃ、危なっかしくて見てられないもん。
「その通り。私と和樹はこの世界で言う異界人だ。今は銀さん達の元で、元の世界に戻る方法、又は戻れる時を待ってる」
「天人さんや攘夷浪士さん達が僕達に期待をするのは勝手ですけど……。狙われるのは勘弁してほしいです。そんな立派な能力とか持ってないですから」
そりゃ、普通と違う自覚はありますけどね。それとこれは話が別だ。
「時が来れば、私等は向こう側から強制的に引っ張られる。だけど、こっちとあっちの時間が同じじゃないらしくて、いつ帰るかは分からない状態だ。
その間に狙われるってんなら……正当防衛ってことでいいよねぇ?」
「いいんじゃね?」
「それで真選組の皆さんに目を付けられたらどうしよう…」
「既に付けられてるからよくね?」
「なんと。真選組とも知り合いなのか」
「おう。あ、けど安心して。別にヅラをどうこうする気は全く無いから」
「ヅラじゃない桂だ。かたじけない、頼む」
「その代わり、お願いがあるんだけど」
「何だ?」
「異世界渡航機について、何か分かったら情報を回してほしいんだ。調べろ、とかじゃなくて。分かったら、でいいからさ」
「それくらいならお安い御用だ。情報が入り次第、逐次報告しよう」
「サンキュ」
流石アスカ。こういうことに頭がよく回る。
とりあえず、桂さんと知り合いになった僕達なのでした。
prev / next
3 / 3