憂鬱物語 番外編 | ナノ



キャーキャーという女子の叫び声。

それは低血圧な私を起こすのに十分すぎた。



「…………テツヤ」

「何ですか?」

「何、この声は」

「クラスの女子です」



そんなこと分かってるよ。

そう言えば、テツヤは窓の方を指差した。



「モデル君のご登校です」

「……ああ。あの黄色い頭か」



名前は知らないが、この学校には有名な売れっ子モデルがいるらしい。

女子の人気が半端なくて、毎日叫び声が聞こえる。

朝は眠くてしょうがない私からすれば迷惑な話だけど。



「そんなにいいもんかねー?」

「それは朔夜らしいですけど、普通の女子からしたらずれているんでしょうね」

「だろうねぇ。あーあ。今日の合同体育は五月蝿そうだわ」

「隣のクラスですからね」

「面倒くさ…。
あ、テツヤ。私寝るから。HR一分前に起こして」

「分かりました。おやすみなさい」



眠りに行くBGMが女子の叫び声だと思うと辛いけど、まあ、いっか。

学校に到着して3分後。私は再び眠りについた。



――――――――
―――――




4時間目。合同体育。科目は男女混合テニス。

私は面倒くさいからミスディレクションで見えなくして、ちょっと遠目から見学中。

まあ、女子はほとんどモデル君の活躍が見たいだけだから授業になんないし。

今日は先生も出張で自習だからねぇ。



「テツヤも見学?」

「僕は体力が無いので」

「とか言って影の薄さを利用してるくせに〜」

「折角朔夜にいろんなテクニックを教わったので、試してみようかと」

「物は言い様だね」



この間、見事自分の才能を見つけたテツヤ。

一種の特技だけど、コツは私が教えた。

元々センスはあったけどね。



「キャー!!黄瀬くぅん!!」

「カッコイイー!」

「こっち向いてー!!」


「五月蝿い……」

「仕方ないでしょう。黄瀬君が出てますから」

「黄瀬?誰それ」

「あのモデル君です」

「黄瀬っていうんだ。へー。初めて知った」



頭の色がそのまんまじゃん。

汗をあまり流さずテニス部の男子に勝ち、そのまま笑顔を撒き散らす。

うお、輝いてるよ。そして女子が一層五月蝿くなったよ。



「朔夜。次、試合ですよ」

「うえ、マジ?棄権してもいいかな」

「ちゃんとやらないと成績が取れなくて、また女バスの部長さんに叱られますよ」

「それは勘弁」



面倒だけど行ってきます。

でも相手は女子テニス部さんなんだけど――。



「面倒くさ…。さっさと終わらせよ」



そして木陰で昼寝してやる。



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