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「青峰は?全中出るの?」
「どうだろ。3年生の先輩も強いし、まだ微妙なところだ」
青峰程の実力の持ち主なら、誰だって出したがるだろうに。
ウチの顧問なら絶対にオールで出場させるな。あの人最低だから。
「…試合、出たくないの?」
「いや。そりゃ出たいぜ。あんな大きな会場で、強い奴が沢山いると思うとワクワクする。
でも……その分、不安もデカい」
帝光中男子バスケ部と言えば、数々の大会に出場し、輝かしい成績を収めてきた強豪。
そんな中で1年生で出ると聞けば誰だって関心を持つ。
関心は期待に変わる。
期待は重圧になる。
重圧はプレッシャーと同義で。
関心でしかなかった人の心は、いつしか重い命令になって選手に圧し掛かる。
「出れるのは嬉しい。それと同時に…怖い。俺が出ることで、出れない3年の先輩がいるんだ。もし負けたらって思うと、身体が硬直して夜も満足に寝れねぇ」
「…私も」
怖い。
先輩達からは聞いたことが無いけど、思っていておかしくないんだ。
「何で1年生が」って。
負けたら申し訳無くて、きっと目さえ合わせられなくなる。
今までは失敗しても「気にしないで次に繋ごう」って言ってくれてた人が、全中で負けたら途端に手を裏返すだろう。
それがとんでもなく怖い。
私はもう出場が決まってるから、尚更。
「…それでも、やっぱり好きだからさ」
「あ?」
「バスケ。怖くても嫌でも辞めたくても、もがいてもがいて、ここにいるワケだし」
バスケが好き。それだけでいい。
私は少なくともそう思ってる。
「どんなに失敗しても、支えてくれる人はいるよ。だから負けるワケにはいかない」
試合を見てることしか出来ない先輩の為にも、夢をもぎ取らなきゃ。
それが背番号を背負ってる意味だから。
そう言うと、青峰はニヤリとしてボールを指先でクルクルと回す。
「……似てるな、俺達」
「ね、ホントに」
同じ1年生。同じ1軍レギュラー。
プレッシャーを抱える同士だな。
「話は変わるけど…。同士ついでに、一つ質問」
「何だよ」
「バスケは好き?」
単純な問い。これにはかなり意味がある。
さっきから一緒に1on1をしていて確信したけど、青峰は人生の大半をバスケに費やしてる。
常にボールを片手に生活してきたからこそ出来る、スピードを生かした野獣の様なプレイ。
だからこそ一番危ない危険がある。
先輩から聞いただけだが、私が入部する半年前、もう1人3年生がいた。
その人は小学1年の頃からずっとバスケをしていてそれなりに強かった。言い方は悪いけど弱小である女子バスケ部では重宝されてたらしい。
それが突然、退部したのだ。「やっている意味が分からなくなった」と言って。
その人は退部する前日に練習試合に出ていて、一試合に30得点をかましたそうだ。
つまり何が言いたいかというと。
バスケに人生を費やして大好きな人ほど強い。そうすると敵がいなくなる。
誰も相手になれなくて、熱くなれなくて、好きな筈のものが虚構の彼方に消えて行く。
つまらなくなるのだ。
敵がいないんじゃ勝っても嬉しくない。そんなの自主練と何も変わらない。バスケが嫌いになる。
青峰は将来大物になるだろうし、ここまで好き過ぎると逆に心配だ。
こんな凄い才能を持ってるのに勿体無い。
だから聞いてみた。……のだが。
「当たり前だろ。いきなり何言い出すんだよ」
まさかの即答だった。
おお…。あんた、そこまで好きだったのか。
愚問だったかねぇ。こんな質問。
「ううん。気にしないで。ちょっと気になっただけだし」
「そーか?」
「うん。……そうだ」
ポケットを漁り、一つの物を取り出した。
青峰はそれを覗き込み、不思議そうな顔をする。
「……何だそれ」
「ミサンガだよ。この前暇だったから、纏めて作った内の一つ。青峰にあげるよ」
「は?」
「お守り。私も付けてるんだ」
バスケは実力勝負。でも運も実力の内って言うじゃん?
不安ならそれを和らげてくれる心の拠り所があったっていいと思う。
私のは白と水色のストライプ。
青峰に渡したのは青と白のV字模様だ。
「足にでも付けときなよ。いいことあるかもよ?」
「…そうだな。あ、じゃあもう一個、お願い聞いてくんねぇ?」
「何さ」
「名前で呼んでくれよ」
「…それって効くの?」
「朔夜強いし、ご利益ありそうじゃね?」
私はバスケの神様でも何でもないぞ…。
まぁ、それくらいで不安が取れるならいいけどさ。
「大輝」
「!」
「どう?元気出た?」
「……サンキュ、朔夜」
青いミサンガ
(勝てるように、願いを込めて)
――――――
お題元・OSG様
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