憂鬱物語 番外編 | ナノ



「…朔夜ちんって、いい人だね」

「そう?」



紫色の人……紫原敦は、まいう棒片手にそう言った。

自己紹介したらちょっと驚かれて、理由を聞いたら…。



『ひょっとしてさ〜。黒ちんのお姉さんー?』

『く、黒ちん…?』

『黒子テツヤっていう、バスケ部の』

『ああ、うん。テツヤの双子の姉だよ。何で知ってるの?』

『俺もバスケ部だし。それに、赤ちんがかなり気に入ってたから』

『……赤司征十郎?』

『そう、赤ちん。朔夜ちんとも何回か話したことあるよ。合同練習の時とか』



言われれば、なんとなーくいたようないなかったような…。

ごめん、正直言って覚えてないです。

赤司のお気に入りって何なの。私、気に入られてるの?

赤司に気に入られるって微妙なんですが。


しかも紫原と私は同じクラスらしい。全然知らないんだけど。

こんなところで、コミュニケーションを取らない仇が出てしまった…。


そんな紫原は、先程私が奢ったまいう棒やチョコ類、ポテチ、その他様々なお菓子を手に、一緒に屋上を目指している。

売店に行った時、「好きなお菓子を選んでいいよ」と言ったら、始めに手を伸ばしたのがまいう棒の新作“ビーフ明太子味”。

ビーフ明太子って何だ。豚肉と明太子は合わせる物なのか?

次に手にしたのは再びまいう棒……の、“わさびコーンポタージュ味”。ビーフ明太子の前に発売されたヤツだ。

紫原は今この味にハマってるらしい。曰く、「ちょっとピリ辛で美味しい」とのこと。

味覚については全く共感出来なかった。



「ほら、着いたよ」

「ありがとー」



自販機を指差せば、のそりと巨体が動いて向かって行った。

動きは遅い筈なのに、足が長いから一歩が大きい。さっさとブドウジュースを買って、また私について来た。



「…え、何?」

「これお礼ー」



ポイ、と渡されたのは紙パックの抹茶ラテ。

すぐにストローを刺して吸えば、甘さの中に仄かに抹茶特有の苦みがあってとても美味しい。暫くこれ買おう。


自販機と屋上の入り口は目と鼻の先で、すぐに到着した。

扉を開けると心地良い風が吹いて本気で眠気が襲ってくる。綺麗な晴天だし、お昼寝には持って来いだな。



「……ところで、何でついて来たの?ブドウジュース買ったなら、早く教室に向かうことをオススメするよ。ここ、教室からちょっと遠いし」

「別に、5時間目怠いしー。元からサボる気だったよ」

「ああ、そうなんだ」



適当な日陰がある場所に2人で腰を下ろす。

5時間目のチャイムが、学校に響き渡った。



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