憂鬱物語 番外編 | ナノ



「…何のことだ」



まるで探りを入れるような瞳に、私は目線を本に移しながら言った。



「緑間真太郎。身長174cm、体重79kg。男子バスケ部所属、ポジションはSG。
非常にプライドが高い自信家。しかし掲げた目標に対しての向上心は素晴らしい。
授業態度も良く、成績も優秀なので、赤司と同じく教師に信頼されている。


これは、私が調べた第三者目線の緑間に対する見方だよ」



いやー、ちょっと調べればいろいろ出て来るものだね。というか、教師陣がスムーズに質問に答えてくれたお蔭でかなり簡単だった。

何で私にここまで教えてくれたんだろうね。今思っても不思議だ。



「ちょっと気になったからね、5人くらいに聞いてみたんだ。意見は様々だったけど、分かり易く纏めたらこんな感じ。どこか間違ってるところある?」

「いや、無いのだよ。……それを調べてどうするつもりだ」

「別に?言ったじゃん。ただ、ちょーっとだけ、気になったから。それだけ」

「……………」

「ごめんごめん。そんなに不機嫌そうな顔しないでよ」



実際、不機嫌なんだろうけど。

多少睨まれながらも、私は続けた。



「気になった理由は、名前も知らないクラスメイトが緑間のことを話していたのを聞いたから。
そしてそれを聞いた時の私の印象は…面倒くさい、だった」



あの時は寝起きだったし担任の話も長くて、少しイライラしていたのもあるかもしれない。

元から面倒くさがりってのもあるけど。



「『誰に対しても上から目線。占い一つで行動し、常にラッキーアイテムを持ち歩く変人』…ってね」

「まぁ、そう見えるだろうな。気にもしていないが」

「だろうね。でも私は気になった。
『そこまで言われる緑間真太郎という男はどんなヤツなんだろう』って」

「…で、調べた結果はどうだったのだよ」

「話を聞いた限りじゃ、そこまで面倒だとは思わなかった。だから、直接話して見たかったの。そしたら、」



結果は、単純明快だった。



「変わらなかった」

「は?」

「今、会って、初めて会話したけど変わらなかった。
プライドも高ければ、人の言うことも聞かない占い信者。何一つ違わない。
けど違うとすれば、その真っ直ぐさ、かな」



爪を保護するためにテーピングを巻き。

毎日、同じ験担ぎを繰り返す。

そんなの、よっぽど根性がないとやってられない。



「部活成績を見たって、緑間の3Pは目を見張るものがあると思う。それは、緑間がやっている全てのことが無駄になっていない証拠だ」

「当たり前なのだよ。だからこうして俺は…」

「だから、周りに何を言われようと気にしなくていいと思うよ」



今度は、更に目が見開いた。

そんなに開くと目が落ちるよ。



「私、知ってるよ。男バスの話になると、始めに出てくるのは緑間のことだからね」



『変人過ぎる』だの、『どうせ天才だから』だの言われたって。

そんなのはただの当て付けだ。

天才は、関係無い。

才能持ちだからって、傷付かないワケじゃない。

それが他人に伝えるのは、大変だけど。



「自分の信じたものを貫いて何が悪い?天才は努力してないとでも?
そうじゃないでしょ。だったら別に、気にしなくてもいいんじゃないの」



だって、知ってる。

緑間のチームメイトは皆、分かってる。



「緑間が人一倍練習してるの、分かってるから」



にこりと笑えば、緑間は眼鏡をクイッと上げて、鼻を鳴らした。



「余計なお世話なのだよ」

「人が心配してるのに失礼な…」

「――そういえば、薬用リップを持っていないか?」

「は?リップ?」



いきなり何だ藪から棒に。



「今日の蟹座のラッキーアイテムだ。薬局で買おうと思ったのだが、全部売り切れだったのだよ」



確かに、今日の蟹座のラッキーアイテムは薬局リップだ。私もおは朝見てるから知ってる。

けど、そんなことってあるのか…!?

今日蟹座は最下位だけど、そこからもう占いの効果発動してるの?



「はぁ…。もしかして、ラッキーアイテムが無いから練習にも出ないワケ?」

「それもあるな」

「やっぱりアンタは面倒だわ。うん、絶対面倒くさい人種だよ緑間は」

「まだ言う気ならその頭に今度3Pを決めてやろう」

「それだけはご勘弁を。……ほら」

「む?」

「薬局リップ。安売りしてたのを大量買いしたやつだし、まだ使ってないからあげる」



緑のパッケージのそれを緑間に手渡す。

名前の通り髪の毛が緑だからなぁ。緑色が似合う。



「有り難く頂戴するのだよ」

「じゃあ練習行こっか」

「言っただろう、占いだと大人しくしていた方が良いと…っ!」

「部活に来るだけでいいよ。端でボールをいじってるだけでも違うでしょ。
大体、私が練習抜け出して来たのも緑間の所為なんだから、言うこと聞いてもらうよ」

「何の話だ!服を引っ張るんじゃないのだよ!!」

「いいからいいから」

「…仕方ない。行くから離せ黒子」

「あー、出来れば名前で呼んでくれない?弟いるからさ」

「名前知らないのだよ」

「朔夜だよ。黒子朔夜」

「……朔夜、感謝するのだよ」

「ん?まぁ、気にしないのが勝ちだよ」

「そうだな」





薬用リップ

(自分の信念のために)

――――――

お題元・OSG様



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