憂鬱物語 番外編 | ナノ



「俺、話した通りすぐに何でも出来ちゃって、皆離れて行って、けどモデル始めたらくっついて…」

「うん、うん」

「結構初めから気づいてたんス…。認められなくて、気持ち悪くて、かっこ、わる…くて……ッ」



ぽろり、ぽろり。

黄瀬は涙を流しながらゆっくりと語る。



「なんで、皆身勝手なんだよ……ッ!俺じゃなくて、そんなに肩書が欲しいのかよ…ッ!?」



我慢して、声を必死に小さくしようとする黄瀬に、私は立ち上がって――



頭を、撫でた。



「黄瀬はさ、辛かったんだよね」

「…ッ」

「誰も自分を見てくれなくて、肩書と、顔と。そういう外見ばっかりで、悲しかったんだよね」



まるでラベルを張られて宣伝されている商品のように。

触れたらもう飽きてさようなら。

他人の扱いは簡単に想像がついた。



「どうしようも出来なくて、大好きな仕事も嫌いになるかもしれない自分が嫌で。近付き過ぎて周りの人が離れていくのも怖くて。どうしようも、なくて。
悔しかったんだよね」

「ッ!俺、俺……ッ!!」

「泣いていいよ。少し気張りすぎなんだよ、黄瀬は。
もう少しぐらい、肩の力を抜いて、自然にやりなよ。あんな嘘だけじゃなくて。
皆が離れても、私は黄瀬本人を見てあげる」



黄瀬は、嘘の仮面を取って。

ただ私にしがみついて、泣き続けていた。



*****



「落ち着いた?」



30分ぐらい経った頃。黄瀬の涙は止まった。

もう全身の水を流したんじゃないかというぐらい泣いたらしくて、少しぐったりしてるけど。



「すいませんッス。服、汚して…」

「いいよ、別に。気にしないで」



苦笑いを浮かべながらタオルで涙を拭く黄瀬の顔は、なんだかスッキリしている。

吐き出して気持ちがラクになったかな。



「そうだ、朔夜っち」

「…………え?なに、その呼び方」

「俺、尊敬する人とかスゴイ人には“〜〜っち”って付けるようにしてるんスよ。だから、朔夜っち」

「意味が分からないけど、まあいいや」



“黒子さん”から変わり身が早いな。

けどよく見ると黄瀬って…。



「ゴールデン・レトリバーに似てる…」

「えッ!?それどういう意味ッスか!?」

「いや、思っただけ。あ〜、なんか思い始めたら尻尾と耳が見えてきそうだ」

「マジッスか!?」

「犬だと“黄瀬”っておかしいよねぇ。……しょーがない、“涼太”」

「!!」

「で、合ってるよね?名前」

「〜〜ッ!これからはずっとそれで呼んで下さいッス!」

「いーよ」

「やった!
――あ、ねえねえ朔夜っち」

「ん?」



「ありがとうッス!!」



私に、犬みたいな知り合いが出来ました。






黄色い向日葵が微笑んだ

(それは裏表のない、本当の自分)

―――――――

お題元・Discolo様



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