5
「何してるんスか?」
「ち、違うの黄瀬くん。これは、あの、その…」
何で黄瀬がここにいるの。
女子は女子で、自分達がやってきたことがバレて顔が酷いことになっている。
「俺、何も見てないッスから。このことはお互い内緒にしないッスか?あと……余計なこと、しないでくれるかな」
「…ッ、コイツが悪いのよ!!黄瀬くんの悪口言って、それで!」
「ああ、体育の時ッスか?君等には関係無いッス。変に気を使わないでいいッスよ」
「あ……」
「ま、そういうワケなんで」
早くどっか行ってくれるかな。
黄瀬は冷たく、言い放った。
*****
「はぁ……」
酷い目に合った。女の嫉妬って怖いな。
女子達は顔を真っ青にして逃げるように退散して行った。
好きな人に自分の汚いところが知られてショックだったのかは、分からないけど。
でもあの時の黄瀬の声は、私でも鳥肌が立った。
「大丈夫ッスか?」
「あー、うん。平気。だから黄瀬は早く教室に戻った方が……」
「保健室に連れて行くッス」
「は?え、いいよ。別に。自分の足で歩けるし…ッ!」
ズキン!という激しい痛み。
そうだ、足、何回も蹴られて…。捻挫かな。骨折じゃないといいけど。
痛みを自覚すると、ズルズルと壁にもたれながら座り込む。
「どうしたんスか?」
「や、何でもな…」
「……どうして、我慢するんだよ」
「へ、」
「あんだけ殴られたり蹴られたりしたら普通怖いだろ!何でこんな時にまで無駄に意地を通してるんだよ!!」
口調が、違うよ?
え、こっちが本当のキャラですか?
「何で、そんなに、強いんだよ……ッ」
そんな泣きそうな顔で、そんなことを言われても気まずいだけなんですが。
――しょうがない、付き合ってやるか。
「黄瀬」
「はい?」
「私、腰抜けたみたい。足も痛いし、歩ける状態じゃないの」
「え、あ、」
「だから、保健室まで連れてって。そんでもって、先生には秘密にして。私のことも、相手のことも。他言無用。いいね」
「は、はいッス」
「じゃあ、よろしく」
悩みを聞くぐらいなら、してあげる。
これで、貸し借り無しだ。
prev / next
5 / 7