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「…ふざけるのも、いいかげんにして」
声が、確実に変わった。
声色に怒りが満ちている。
「アンタ如きが、どうして黄瀬くんと話ができたの」
「――はい?」
「私達は、いつも我慢してる。迷惑を掛けないように、ウザく思われないように。
だから、その暗黙のルールを破る人がいたら、」
一歩ずつ、彼女等が近付く。
嫌な予感しかしない。
逃げる。それしかない。
けど周りに人はいない。今日の昼休みは長いけど、体育館裏に来る人間なんてそうそういないから。
後ろには、壁。
これ、真面目にフラグ立ってない?
「潰して片付けないと、ね」
「かはッ……!」
瞬間、腹に激痛が襲った。
嘔吐感を抑えながら、必死に思考を巡らす。
え、今、
殴られた?
「なに、する…の」
「何、って?潰すのよ。そして片付けるの。アンタという存在を。二度と学校に来れないように」
「ぐ…ッ!!」
二発、三発。
続けて頭を殴られる。
くっそ、超痛いんだけど。
「こんなこと、して……、平気だと、思ってるの…?」
「当たり前でしょ。今までバレたことなんて一度もない」
「これが初めてじゃないの…!?」
「そうよ。だいたいアンタで10人目ぐらいかしら」
そんなにやってんの…!?
どれだけ突き動かすんだよ黄瀬ファンは。
何がそこまでやらせるんだ。
目がちょっと、怖い。
「黒子さんはどれぐらい耐えるかしら」
くすくすという笑い声。
逃げるのは不可能。足を掴まれて身動きが取れない。
せめて早く昼休みが終わってくれと、心の底から願った。
―――――――
――――
どれぐらい経っただろう。
5分?10分?…もっとかな。
「随分と粘るわね」
「はぁ、はぁ、は…!」
呼吸が辛い。腕が痛い。
足も、立っている感覚が薄れてる。
昼休みの終了を告げるチャイムはまだ鳴らない。
疲れた…。
「ねえ、黒子さん?そろそろ言ってくれない?」
「は、何を…」
「“黄瀬くんに近づいてすみませんでした”って」
「そーよ。謝りなさいよ!」
「“酷いことを言ってすみませんでした”って言え!!」
「“もう黄瀬くんには近寄りません”って!!」
「げほッ!!」
顔を殴られて倒れこむ。口の中に広がる鉄の味。
あーあ…。口のどっかが切れちゃったかな……。
「言えば許してあげる。ね、もう痛いのは嫌でしょ?」
「………………
拒否、します」
「なん、ですって?」
「嫌です。絶対、私は黄瀬なんかに謝らない」
「何で!!」
「寧ろ謝るのは貴女達、でしょう」
その顔と、スタイルと。
肩書で縛り続けて。
嘘の笑顔を張り付けさせたのは、一体どこの誰?
「“黄瀬くんに近づくな?”ふざけないで。纏わりついて五月蝿いんだよ、いつもいつも。
これ以上、黄瀬に嘘を吐かせないで」
「アンタッ!!」
「……ッ」
また叩かれそうで、目を瞑った。
……けど、いつまで経っても頬に衝撃が来ない。
うっすらと、目を開ける。
そこには、大きな背中があった。
「き、せくん…!」
「え?」
黄色い頭が、そこに立っていた。
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