我が道を進め! | ナノ


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アスカside.



「……はい、もしもし」


草木も眠る丑三つ時。
和樹はもうとっくのとうに寝息を立てており、隣の部屋は静かだ。
そんな中、私のスマホが専用バイブを1回だけ鳴らした。
特別に設定したバイブレーションは、ある人物が秘匿で連絡して来た時だけに作動する。
エアガンの手入れをしていた私はスマホを取って通話ボタンを押した。


《あ、アスカちゃん?ごめんねーこんな時間に》

「別にいいよ。起きてたし」


聞こえて来たのは夜中に似合わない明るい声。
相変わらずこの人はマイペースだなぁ…。


《まず、進級おめでとう。2年生になった感想は?》

「とりあえず面白いメンバーと一緒になれたから、結構楽しいぜ」

《クラスは?》

「F。この間試召戦争を仕掛けたんだ」

《試召戦争はクラス設備を掛けるんだっけ?2年生から出来るとは聞いてたけど早速やったんだ。結果はどうだったの?》

「Dクラス、Bクラスと戦って勝ち上がったけど、Aクラスの一騎打ちでウチの代表が無様に負けた。お蔭で卓袱台がみかん箱になったよ……」

《あはははっ!み、みかん箱まであるんだ…!ははははっ!》

「笑い過ぎ」


雄二にはあの後キッチリとお礼をさせてもらった。
伊勢エビと偽り配達員を装ってザリガニを大量に押し付けた。まぁ、配達員が私だって早々にバレたんだけど、目的は達成。
あそこのお母さんは良い人なんだが、少し感覚がズレてる。「伊勢エビです」と言えばザリガニを渡しても平気で信じる…そういう人。
雄二は盛大に腹を下せばいい。いっそのこと内臓も出してしまえ。


「……それで?こんな夜中に電話して来たのはともかく、秘匿回線で連絡なんて。一体何の用なのさ」

《あー、アスカちゃんの学校ってもうすぐ文化祭じゃない?》

「そういえばそうかも」


全然準備出来てないけど。
Fクラスで何かやるとなると男子全員が暴走しそうだ。


《そのお祭りで召喚大会が行われるんだけど、知ってる?》

「ああ、まぁそこそこ。詳しいことはあんまり知らないな」

《優勝賞品の中に“如月ハイランドプレオープンプレミアムペアチケット”が用意されているんだ》

「名称長い上にカタカナばっかりで読み難い。読者の皆様に失礼だと思わないのか」

《僕の所為じゃないし、“読者”とかメタな発言しないで!》


この人はマイペースだけど時々ツッコミに回るよなぁ…。

如月ハイランドと言えば、最近話題になってる建設中の巨大テーマパークだ。
廃病院を改装したっていう怖いお化け屋敷とか、日本一の観覧車とか、世界で三番目に速いジェットコースター等々……。他にも面白そうなアトラクションが沢山あるんだと、和樹が楽しそうに話していた。
それがどうかしたのか?


《それを回収してほしいのさ》

「何で?」

《悪い噂を小耳に挿んでね…》


悪い噂ぁ?
如月ハイランドはこの人の企業よりは小さいけど、それなりに大きいトコだ。
会社や企業は成長すればする程悪い噂が立って来るもの。それくらいでこの人が動くかぁ?


《如月グループは如月ハイランドに一つのジンクスを作ろうとしている。『ここを訪れたカップルは幸せになれる』っていうジンクスを》

「それのどこが悪いのさ。利益になっていいんじゃない?」

《問題はここから。そのジンクスを作る為に、プレミアムチケットを使ってやって来たカップルを結婚までコーディネイトするつもりらしい。企業として、多少強引な手段を用いてもね》

「そのターゲットが文月学園ってことか」

《そう。文月学園は如月グループと正式な契約を行い、その上でプレミアムチケットが賞品が出される》

「何で契約前に気付かないんだあのババアは」

《そこまでは分からないけど、この話は学園長ではなく教頭が勝手に進めたらしい》


教頭……アイツか。
アイツ嫌いなんだよねぇ。腹ん中で何考えてんだかって感じ?
出世の為には手段を選ばない、腐った大人の代表みたいな。
仮にも教頭のクセに生徒を企業に売るとか何やってくれてんだ。


《本人達の意見を無視して生徒の将来を決定する……っていう計画を黙っておくワケにはいかない。それは企業の力を使った暴力だ。見逃せないよ》

「あんたの企業も文月学園のスポンサーなんだっけ」

《まぁ、それもあるんだけど…もう1個あってね》

「何?」

《出来ればその教頭を捕らえてほしいんだ》


話によると、教頭はいろんなヤクザとかそこら辺と手を組んでるらしい。
そういう奴等は金さえあれば平気で動く。教頭ともなれば給料もいいだろう。簡単なこった。
そんで今度は自分が上に立つのに邪魔なババアを潰す為、如月グループと勝手に契約して生徒を売る気なんだと。
本人は用意周到に計画を練って、バレないように事を運ぶつもりなんだろうけど…残念だったな。
ウチには優秀なハッカー(情報屋だと言い張ってるけど)がいるんだよ。高々一般の教頭の情報を探るなんて片手間で出来る。


《ぶっちゃけた話、僕の仕事の邪魔になるからねー》

「ホントにぶっちゃけたな。……分かった。こっちには今由花梨と楓もいるし、なんとかなんだろ」

《お願いね。それじゃ、また今度》

「おう」


通話を終了し、スマホを充電器の上に置く。
時計を見ればもうすぐ3時になりそうだ。
そろそろ寝ないと明日に響くな。


「……清涼祭、か」


変なことが起きなきゃいいけど。
私はエアガンを仕舞い、ベッドに転がって布団を被った。



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