我が道を進め! | ナノ


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和樹side.



「アキ、アスカ、和樹、ちょっといい?」


帰りのHRも終わって放課後。
特に予定も無いので真っ直ぐ帰ろうとしたところを美波ちゃんに呼び止められる。


「何か用か?」

「用って言うか、相談なんだけど」


そう言う美波ちゃんの顔はちょっと真面目。どうやら景気の良い話じゃなさそう。


「相談?僕等で良ければ聞かせてもらうけど」

「うん、ありがと。多分、アキ達に言うのが一番だと思うんだけど――その、やっぱり坂本をなんとか学園祭に引っ張り出せない?」


坂本っていうと、僕達の友達でFクラス代表の雄二君のことだ。
どうやら美波ちゃんはFクラスの喫茶店の成功には雄二君の先導が不可欠だと判断したみたい。ムキになって自分で何とかしようとしない辺り、賢明な子だと思う。


「こう言うのもアレだが、難しいんじゃね?雄二は個人的関心が動かなければ徹底的に無関心だから」

「中学の頃からだよね」

「翔子の話じゃ、小さい頃からそういう性格らしいぞ」


それはまた根っこからの問題だね。
多分雄二君は学園祭で何をやるかも知らないだろう。


「でも、アキが頼めばきっと動いてくれるよね?」

「え?別に僕が頼んだからって、アイツの返事は変わらないと思うけど」

「ううん、そんなことない。きっとアキの頼みなら引き受けてくれる筈。だって――」

「そりゃ確かによくつるんではいるけど、だからと言って別に」

「だってアンタ達、愛し合ってるんでしょ?」

「僕もうお婿に行けないっ!」


衝撃発言だった。
美波ちゃん、どうしてそんな台詞が真顔で出てくるんだろう。


「それだったらアスカもそうよね。ねぇ、お願いしてみてくれない?」

「おい美波、私は別に明久と違って雄二とそこまで親密な関係を築いてないぞ」

「僕もそんなに親密じゃないよ!」

「だってアスカと雄二って――――既成事実作ったんでしょ?」

「ちょっと待って美波ちゃん!?」

「待て!それはマジで待て!お願いだから土下座するから!」


なんてことを言ってくれるんだ。
そんなデタラメが万が一翔子ちゃんの耳に入りでもしたら……。考えるだけで恐ろしい。
アスカと次会う時は灰と化しているだろう。
もしかしたら被害を被るのは雄二君かもしれない。…なんか、そっちの方が可能性高いかも。どっちにしろ、誰かの命が危ない。


「誰が雄二なんかと!だったら僕は断然秀吉の方がいいよ!」

「……あ、明久?」


パサリ。帰り支度をしていた秀吉君の動きが止まり、持っていた鞄が床に落ちる。
あれ?何か妙な展開になってきてる?


「そ、その、お主の気持ちは嬉しいが、そんなことを言われても、ワシ等には色々と障害があると思うのじゃ。その、ホラ。歳の差とか……」

「ひ、秀吉!違うんだ!物凄い誤解だよ!さっきのはただの言葉の綾で!
それと、僕等の間にある障害は決して年の差じゃないと思う!」

「明久がダメなら、私で良くね?ねぇ秀吉、私と…」

「アスカは事態を大きくしようとしないで!」

「だって赤面してオロオロしてる秀吉マジで可愛いんだもんどうしよう押し倒していい?

「止めろおバカ!!」


確かに可愛いよ、秀吉君。いきなり友達の明久君にそんなこと言われてどうしようって感じが全身に出てるし。パニックになってとても見当違いのこと言ってる辺りも。うん、とっても美少女。
だからと言って手を出していい訳じゃないから!それは犯罪だし!


「それじゃ、坂本は動いてくれないってこと?」

「え?あ、うん。そういうことになるかな」


明久君は頭を振って、改めて美波ちゃんと向き合う。
危険な思考でも振り払っていたんだろうか。


「なんとか出来ないの?このままじゃ喫茶店が失敗に終わるような…」


目を伏せ、沈んだ面持ちになる彼女。確かに、どうにか雄二君を引っ張り出せないか、とは僕も考えている。
さっき鉄人が言っていたように、収入が大きければ大きい程、このクラスの設備を改善出来る。そうすれば、瑞希ちゃんの体調だって良くなる筈だ。出来ることなら成功させたい。


「ところで、お主等は一体何の話をしておるのじゃ?そんなに思いつめた顔をするとは、随分深刻な様じゃが」

「深刻って程じゃないんだけど、喫茶店の運営とクラスの設備について少し――」

「違うのよアスカ。本当に深刻な話なのよ……」

「……美波ちゃん?」


美波ちゃんの様子がおかしい。
そういえば、美波ちゃんはそこまで設備に不満がある訳でもないのに、随分と熱心に考え込んでいる。
責任者だから?…いや、それにしたって入れ込んでいる気持ちが、何だか周りと違う気がする。
何か事情があるのかな。


「本人には誰にも言わないでほしいって言われてたんだけど、事情が事情だし…。
けど、一応秘密の話だからね?」

「う、うん」

「それで、何があったんだ?」


美波ちゃんの真剣な表情に少し気圧される明久君。
アスカは会話の続きを促した。


「実は、瑞希なんだけど」

「姫路さん?姫路さんがどうかしたの?」

「あの子、転校するかもしれないの」

「「ほぇ?」」


アスカと明久君の声がシンクロした。
そこから、2人は無言で俯く。少しすると、口から魂が出ている様に見えてきた。
って、魂!?


「む、マズい。2人が処理落ちしかけとるぞ」

「このバカ!不測の事態に弱いんだから!」

「明久!目を覚ますのじゃ!」

「アスカ!アスカってば!」


ガクガクと肩を揺すって起こす。
すると、2人はフッと微笑んで言った。


「秀吉……、モヒカンになった僕でも、好きでいてくれるかい……?」

「私がハゲになっても、和樹は私を仲間と思ってくれる…?」

「……どういう処理をしたら、瑞希の転校からこういう反応が得られるのかしら」

「ある意味、稀有な才能かもしれんのう」

「想像力が良いよねぇ、この2人…」


とりあえず、一発頭を殴る。イッちゃってた目が生気を取り戻していく。
全くこのバカは。瑞希ちゃんの転校をどんな風に処理したのか、是非とも聞いてみたい。
……きっとツッコみ疲れるんだろうけど。


「美波!姫路さんが転校ってどういうこと!?」

「そうだよ、何でいきなり!?」

「どうもこうも、そのままの意味。このままだと瑞希は転校しちゃうかもしれないの」

「…“このままだと”?」


妙な言い回しだ。普通転校って、一度決まったら早々取り消せないと思うけど。


「島田よ。その姫路の転校と、さっきの話が全然繋がらんのじゃが」

「そうでもないのよ。瑞希の転校の理由が『Fクラスの環境』なんだから」

「じゃあ瑞希が転校する理由は親の仕事の都合とかじゃなくて――」

「そうね、純粋に設備の問題ってことになるわ」


そう言われて、僕は思わず納得してしまった。

瑞希ちゃんにこのFクラスの設備は相応しくない。それは誰もが思うことだろう。
競争意識を高めるという学園の考え方は否定しないけど、瑞希ちゃんは既に高いレベルに居る筈なのにこの処遇だ。僕やアスカみたいに自分から落ちたならともかく、高熱でテストを途中退出してしまったのに、これはおかしい。
ござにみかん箱という設備の上、切磋琢磨しようにも周囲の生徒は(言ったら悪いけど)頭が良くないバカだらけ。
本人に非が無いのにこんな環境では、普通の両親なら誰もが転校を考えるだろう。


「それに、瑞希は身体も弱いから…」

「そうだな。それが一番の問題か」


美波ちゃんの言う通り、この劣悪な教室環境は瑞希ちゃんの健康に害を及ぼす可能性がある。
一応掃除はしているけど衛生的とはとても言えない。それに、今はまだいいけど冬に今の調子で隙間風が入ってきたら瑞希ちゃんじゃなくても体調を崩しちゃうだろう。


「成程のう。じゃから喫茶店を成功させ、設備を向上させたいのじゃな」

「うん。瑞希も抵抗して『召喚大会で優勝して両親にFクラスを見直してもらおう』とか考えてるみたいなんだけど、やっぱり設備をどうにかしないと」


Fクラスはバカの集まりと思われているのも転校を勧められている一因だろうから、瑞希ちゃんの行動は無駄じゃない。
けど、一番の問題は瑞希ちゃんの健康だ。それをなんとかしない限り両親の考えは変わらないと思う。


「…アキは、その……瑞希が転校したりとか、嫌だよね…?」

「もちろん嫌に決まってる!姫路さんに限らず、それが美波や秀吉やアスカや和樹であっても!」

「そっか…うん。アンタはそういう奴だよね!」

「私は雄二ならどーでもいいとか思ってr…って冗談!冗談だよ和樹!!」

「折角いい雰囲気なんだから、それを壊そうとか思わないでね?」

「気を付けます」


本当はそんなこと思ってないクセに、何でそう言うのか。
誰よりも仲間を優先し、仲間が傷付こうものなら誰よりも激怒して報復するアスカ。だから今回の瑞希ちゃん転校の件も、なんとかしようと動く筈。
そう言う僕も、もちろん全力で協力する。瑞希ちゃんとは友達で、Fクラスでは数少ない女の子。親の転勤でもなく、ただ設備の問題だけで友達を取られちゃ堪ったもんじゃない。


「そういうことなら、何としてでも雄二の野郎を焚きつけねぇとな」

「そうじゃな。ワシもクラスメイトの転校と聞いては黙っておけん」

「それじゃ、まずは雄二に連絡を取らないとね」


明久君が携帯を取り出し、雄二君を呼び出そうと操作する。
発信音の後、プツリと相手が電話に出た音がした。


《――もしもし》

「あ、雄二。ちょっと話が――」

《明久か。丁度良かった。悪いが俺の鞄を後で届けに――げっ!翔子!》

「え?雄二、今何をしてるの?」

《くそっ、見つかっちまった!とにかく、鞄を頼んだぞ!》

「雄二!?もしもし!もしもーし!」

「…切れちゃった?」

「うん」


明久君の携帯からは無機質な音しか返ってこない。
どうやらまともな会話も出来ずに電話を切られちゃったみたい。


「坂本は何て言ってた?」

「えっと、『見つかっちまった』とか『鞄を頼む』とか言ってた」

「…何それ?」

「その前に『げっ!翔子!』とも聞こえたから、多分逃げてるんじゃないかな。翔子ちゃんから」

「アレはああ見えて異性には滅法弱いからの」

「相手が翔子だと特にな」


秀吉君とアスカが腕を組んでうんうんと頷いている。

翔子ちゃんというのは、学年代表を務める才女・霧島翔子ちゃんのことだ。長い黒髪やすらりとした手足が魅力的な美少女。幼い頃から雄二君のことが好きらしい。
相手が翔子ちゃんだったら、逃げ回るどころか追い回すのが男子の反応なんだろうけど、まぁ…ね、うん。雄二君にとって、今の翔子ちゃんは恐怖対象でしかない。


「そうすると、坂本と連絡を取るのは難しいわね」


確かに。逃げているなら電話にも早々出ないだろうし、それ以外の手段は僕達には無い。


「いや、これは逆にチャンスだ」

「そうだね」

「え?どういうこと?」

「雄二を喫茶店に引っ張り出すは丁度良い状況なんだよ。ちょっと手伝ってくんない?」


アスカと明久君がニヤリと笑う。
この状況が逆にチャンスって、何考えてるんだろう。


「それはいいけど…。坂本の居場所は分かってるの?」

「大丈夫。相手の考えが読めるのは、何も雄二だけじゃない」

「何か考えがあるようじゃな」

「まーな」


未だニヤリと悪い笑みを崩さない2人。
こういう時って、本当にとんでもないことって言うか、何か企んでるんだよねぇ…。
とりあえず、ここは黙ってアスカと明久君についていくことにした。



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