我が道を進め! | ナノ


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「だからFクラスのウチと組んで、召喚大会で優勝してお父さんの鼻をあかそうってワケ」


成程、悪くないペアだ。
実質学年4位の瑞希と、問題さえ読めればそこそこ点数が取れる美波。優勝も不可能じゃないだろう。
それに、女同士のペアが如月ハイランドのペアチケットをゲットすれば、如月グループの目論みは消える。願ったり叶ったりだ。
…あの2人が男子を誘わないって事は有り得なさそうだけど。


「4人とも。こっちの話を続けていいか?」

「あ、ゴメン雄二。美波が実行委員になる話だったよね?」

「だからウチは召喚大会に出るって言ってるのに」

「なら、サポートとして副実行委員を選出しよう。それなら良いだろ?」


どんだけ実行委員になりたくないんだ雄二は。


「ん〜……。そうね、その副実行委員次第でやってもいいけど」

「そうか。では、まず皆に副実行委員の候補を挙げてもらう。その中から島田が1人を選んで決選投票をしたらいいだろう」


成程、それなら短時間で決まるだろう。
クラスメイトからもチラホラと推薦の声が上がっている。


『吉井が適任だと思う』

『やはり坂本がやるべきなんじゃないか?』

『姫路さんと結婚したい』

『ここは須川にやってもらった方が』


…そろそろ本格的に瑞希に手を出そうとしている害虫を炙り出した方がいいかもしれない。
瑞希に手を出そうとする輩は私が許さん。


「ワシは明久が適任だと思うがの」

「実は僕も」


そう言って明久を推薦するのは和樹と見た目美少女の秀吉だ。


「って秀吉、僕もそういう面倒な役は、できればパスしたいな〜なんて」

「それは他の皆とて同意見じゃ。ならば適任の者にやってもらった方が良いじゃろう?」


言ってることは理に適ってるが、それと明久が納得するのはまた別問題なんだよねぇ。気持ちは分かる。


「よし。じゃあ島田。今挙がった連中から二人を選んでくれ」

「そうね〜。それじゃあ…」


ある程度候補者の名前が上がると、美波はボッロボロの黒板に決選投票候補者の名前を書き連ねた。


『候補@…吉井』

『候補A…明久』


「さて。この2人のどちらがいいか、選んでくれ」

「ねぇ雄二。明らかに美波の候補の上げ方はおかしいと思わない?」

『どうする?どっちがいいと思う?』

『そうだなぁ…。どちらもクズには変わりないんだが……」

「クラスメイトを平然とクズ発言したっ!?」


このクラスにはモラルとか一切無いからな。今に始まったことじゃない。総じてスルーである。
和樹曰く「出来れば節度は持ってほしいなぁ…。ツッコミ疲れる…」らしい。
頑張れ。和樹が居ないと本気でこのクラスにはツッコミが居なくなる。


「ほらほら、アキってば。そんなことより、ウチとアンタでやることになったんだから、前に出て議事をやんないと」

「なんだか僕はいつも貧乏くじを引かされている気がするよ…」

「諦めろ、運命だ」

「そんな運命要らない」

「んじゃ、後は任せたぞ。ふあ〜……」


明久と美波と入れ替わる様に自席へ戻る雄二。
欠伸を堪える様子も無いから、どうやら早速寝るらしい。全身から隠すこともなくダルいオーラが立ちあがっている。

前に立った美波は司会進行、明久は板書をするっぽいな。
このクラスの設備は何度も言うけど酷いから、黒板はボロいしチョークもクッソ短い。補充されても半分以上欠けたヤツだ。
ここが教育機関だなんて私は認めたくない。


「それじゃ、ちゃっちゃと決めるわよ。クラスの出し物でやりたいものがあれば挙手してもらえる?」


美波が告げると、数人がすぐに挙手をした。
なんだ、完璧にやる気ゼロってワケじゃねーんだな。


「はい、土屋」

「…………(スクッ)」


立ち上がったのは悪友の1人、土屋康太。
ムッツリーニという名で知られるアイツのことだ。ぶっちゃけ、何を提案するかは読めている。


「…………写真館」


ドンピシャだった。
流石は康太。私の予想を裏切らないな。


「……土屋の言う写真館って、かなり危険な予感がするんだけど」


美波が思いっきり嫌そうな顔をする。
確かに女子からすれば写真を撮られた挙句催し物にされるってのは嫌かもしれない。が、男子にとっては最高の写真館、まさに宝の山と言える。
それに――――……。


「私も可愛い子の写真欲しい!」

「変態発言禁止!!」

「あだっ」


隣に居た和樹に頭殴られた。ちょっと悲しい。
なんだよ、アスカさんは自分に素直なだけなのにさー…。

【候補@ 写真館『秘密の覗き部屋』】


「次。はい、横溝」

「メイド喫茶――と言いたいけど、流石に使い古されていると思うので、ここは斬新にウェディング喫茶を提案します」

「ウェディング喫茶?それってどういうの?」

「別に普通に喫茶店だけど、ウェイトレスがウェディングドレスを着ているんだ」


成程、それは新しい。
中身は喫茶店、内装も結婚式場っぽくしたら中々面白いかもしれないな。


『斬新ではあるな』

『憧れる女子も多そうだ』

『でも、ウェディングドレスって動きにくくないか?』

『調達するのも大変だぞ?』

『それに、男は嫌がらないか?人生の墓場、とか言うくらいだしな』

「あ、私ウェディングドレスなら持ってるぞ。クラスの女子分くらいなら」

「逆に訊くけど何で持ってんの?」

「この間四次元ハンカチの中整理してたら見っけた」

「本当に何が入ってるか分かんないね、そのハンカチ……」


そりゃそうだ。なんと言ったって四次元だぜ?
私でさえ中身全部は把握してないし。ウェディングドレスはここ数日前に出て来たんだよねぇ。まだまだ新品で綺麗そうだった。

【候補A ウェディング喫茶『人生の墓場』】


「さて、他に意見は――はい、須川」

「俺は中華喫茶を提案する」

「それもいいな!」

「うわ、また暴走した」


和樹の冷たい声も気にしない。
だって中華喫茶をやるなら女子達のチャイナドレス姿を見れるじゃないか!
瑞希は元々胸がデカいから目立つだろうし、美波はスレンダーだから純粋にチャイナドレスは似合うと思う。秀吉は何を着ても可愛いだろう。和樹だってそこそこ胸はあるからきっといい感じに映える筈だ。
想像しただけでもグサッと来るこの可愛さ!うん、いいねぇ中華喫茶!大賛成だ!!

【候補B 中華喫茶『ヨーロピアン』】

明久がそこまで板書したところで、教室の扉がガラガラと音を立てて開く。
その奥には筋骨隆々のゴッツイ身体と、それに見合った顔を持つ男が現れた。


「皆、清涼祭の出し物は決まったか?」


野太い声で訊いてくるのは、さっき私等を追い駆け回した鉄人こと西村先生。
我等Fクラスの(残念ながら)担当教諭である。


「今のところ、候補は黒板に書いてある三つです」


美波が言うと、鉄人はゆっくりとボロボロの黒板に書かれている候補に目を向けた。

【候補@ 写真館『秘密の覗き部屋』】
【候補A ウエディング喫茶『人生の墓場』】
【候補B 中華喫茶『ヨーロピアン』】


「……補習の時間を倍にした方がいいかもしれんな」


しまった、私等がバカだと思われている。


『せ、先生!それは違うんです!』

『そうです!それは吉井が書いたんです!』

『僕等がバカなワケじゃありません!』

「み、皆必死だねぇ…」


そりゃそうだろ。鉄人の補習なんか誰が好んでやりたがるもんか。


「馬鹿者!みっともない言い訳をするな!」


鉄人の一喝で、思わず背筋が伸びる。
しかし、流石は腐っても教師。クラスメイトを売ってその場から逃げようとする魂胆が気に入らないなんて、ちょっとは見直した――


「先生は、バカな吉井を選んだこと自体が頭の悪い行動だと言っているんだ!」


前言撤回、コイツはただの脳筋バカだった。


「まったく、お前達は……。少しは真面目にやったらどうだ。稼ぎを出してクラスの設備を向上させようとか、そういった気持ちすらないのか?」

『そうか!その手があったか!』

『なにも試召戦争だけが設備向上のチャンスじゃないよな!』

『いい加減この設備にも我慢の限界だ!』


教室内が一気に活気づく。
私等は設備が気に入らなくて試召戦争を始めたんだ。当時よりも更に酷い環境になったのに、我慢なんて出来るワケがない。
ぶっちゃけ、私が動けば施設くらいどうにでも出来ると思うんだけどなー…。ここは“あの人”がスポンサーしてる学園だし。
でもそうなるとこの学園のシステムが働かなくなるからむず痒いところだ。


「み、皆さんっ!頑張りましょう!」


あれ、瑞希がなんか張り切ってる。立ち上がって胸の前でグーまで作って。
幾ら瑞希でも設備に不満が無いなんて思っちゃいないが、それにしたっていつもの瑞希らしくない気がする。自ら率先するなんて珍しい。


『出し物はどうする?利潤の多い喫茶店がいいんじゃないか?』

『いや、初期投資の少ない写真館の方が』

『けど、それだと運営委員会の見回りで営業停止処分を受ける可能性もあるぞ』


設備向上の可能性があると分かった途端にやる気を出し始めたなコイツ等。


『中華喫茶ならハズレは無いだろう』

『それだと目新しさに欠けるな。汚い所為であまり人が来ない旧校舎だと、その特徴の無さは致命傷じゃないか?』

『ウェディング喫茶はどうだ?』

『初期投資が大きすぎる。たった2日間の清涼祭じゃ儲けは出ないんじゃないか』

『リスクが高いからこそリターンも大きいはずだ』


意見が飛び交うも、まったく纏まる気配はない。
Fクラスらしいな。やる気が微妙なところで空回りしてる。元から猪突猛進っぽいのが集まってるからなぁ。
美波が手を鳴らして注意するも、効果は見られない。それどころか、皆好き勝手に意見を飛び交わせている。


『お化け屋敷とかの方が受けると思う』

『簡単なカジノを作ろう』

『焼きとうもろこしを売ろう』


一体どこから出て来たんだ、焼きとうもろこし。
いや、美味いけどな。ちょっと焦げたり醤油の匂いが立ち上がったりする頃はもう最高に幸せだけど。
こういう時、雄二が動いてくれたらなぁ…なんて思ったりする。Fクラスはバカの集団だから個性が周りより強く、チームワークという言葉が微塵も感じられない。試召戦争の時の纏まりは一体どこへ消えたんだ。
こんな個性の塊を雄二は上手く纏め上げていたんだから、物凄い手腕である。
…けど、そんな雄二の弱点があるとすれば、興味の無いことにはとことん冷たいところだ。雄二は学園祭にそこまで個人的な価値を持っていない。そうなれば、動くことはほぼ有り得ないだろう。


「とにかく静かにして!決まりそうにないから、店はさっき挙がった候補の中から選ぶからね!」


業を煮やした美波が無理矢理話を纏めにかかった。


「ほらっ、ブーブー言わないの!この三つの中から一つだけ選んで手を挙げること!いいわね!」


反論を眼力で抑え込み、決を採りにかかる美波。
うん、こういうのは瑞希や明久には出来ないな。雄二の選出も適当ってワケじゃないっぽい。


「それじゃ、写真館に賛成の人!――次、ウエディング喫茶!――最後、中華喫茶!」


騒がしい教室内に、美波の声が響く。
挙げられた手の本数をカウントしていき、結果。


「Fクラスの出し物は中華喫茶にします!全員、協力するように!」


接戦だったけど、僅差で中華喫茶が勝利した。
私的にはどれでも嬉しいが……まぁ、選択自体は順当だろうな。


「それなら、お茶と飲茶は俺が引き受けるよ」

「…………(スクッ)」


と、須川と康太が立ち上がる。


「…康太って、料理出来たのか?」

「…………紳士の嗜み」


ムッツリーニとか渾名付けられてる奴のどこが紳士なのか私は問いたい。
大方、チャイナドレス見たさで中華料理屋に通っている内に見様見真似で出来るようになったんだろう。ああ見えて結構器用だし、物覚えも早いから。


「まずは厨房班とホール班に分かれてもらうからね。厨房班は須川と土屋のところ、ホール班はアキのところに集まって!」


いつの間にか明久がホール班のトップになってる。


「それじゃ、私は厨房班に――」

「ちょっと待て瑞希!」

「そうだよ姫路さん!キミはホール班じゃないと!」


平然とした顔で厨房班に行こうとする瑞希を、私と明久で止める。
教室の設備が掛かってるんだ。生物兵器を出して、人が死亡なんてオチは絶対に阻止しないとヤバい。


「(明久、グッジョブじゃ!)」

「(アスカもナイス!)」

「(…………!(コクコク!)」


その威力を知っている秀吉と康太、和樹からのアイコンタクト。
前回一番の被害者だった雄二は寝ているから気付いていない……と思ったけど、どこか小刻みに震えている。夢の中に瑞希の料理でも出て来たか?可哀想に。


「え?吉井君、アスカちゃん、どうして私はホールじゃないとダメなんですか?」


真実を言いたいけど、そうしたら瑞希が傷付くのは確実だ。可愛い女の子を泣かせるのは趣味じゃない。どうしたものか。


「え、えーっと……ほら、瑞希は可愛いじゃん?」

「そ、そうだよ。姫路さんは可愛いからホールで接客してくれてた方が、集客に繋がって利益が痛あ゙っ!み、美波!僕の背中をサンドバッグじゃないよ!?」

「か、可愛いだなんて……。2人がそう言うなら、ホール“でも”頑張りますねっ♪」


出来ればホール“だけ”で頑張ってくれ、切実に。


「アキ、アスカ、ウチは厨房にしようかな〜?」

「うん、適任だと思う」

「いいんじゃね?美波のチャイナドレス姿は厨房でも見られるし」

「…………」

「それなら、ワシも厨房にしようかの」

「おいおい秀吉、何言ってんだよ」

「そうだよ。秀吉は可愛いんだから、もちろんホールに決まってみぎゃあぁっ!み、美波様!折れます!腰骨が!命に関わる大事な腰骨が!」

「ちょっ、背骨!背骨がミシミシ言ってる!死ぬ!そこ折れたら死ぬって!」

「…ウチもホールにするわ」

「「そ、そうですね……。それが、いいと、思います……」」

「2人共、まだ生きてる?」

「「限りなく死にそうです…」」


こんなドタバタ波乱万丈な状態で、Fクラスの人並みの学園生活が懸かった学園祭は幕を開けることになった。



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