我が道を進め! | ナノ


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「さて、Fクラスの皆。遊びの時間は終わりだ」


そんな中、野太い声が耳に届く。
この声はとても聞き覚えがある。思い出したくもないが、これは――


「鉄人!?」

「西村先生と呼べ!」

「あだっ!!」


鉄拳制裁、本日3回目。しかも全部同じ場所。何?狙ってんの?
つか、和樹のとは威力が違う。痛い。マジ痛い。
これ頭陥没してんじゃねぇの?たんこぶが治るのはいいけど陥没は嫌だぞ。
叩くのはやめてくれ。これ以上バカになったらどうしてくれる。


「まったく、貴様というヤツは…」

「何の用だよ鉄j……西村先生」

「……まぁいい。いいか、よく聞け。今から我がFクラスに補修についての説明をしようと思う」


何か今の台詞の中に聞き捨てならない言葉が聞こえた。


「『我がFクラス』という恐ろしい言葉が聞こえたんだが」

「ああ。おめでとう。お前等は戦争に負けたお蔭で、福原先生から俺に担任が代わるそうだ。これから一年、死に物狂いで勉強出来るぞ」

「「「何ぃっ!?」」」

「……和樹、ちょっとほっぺ抓って」

「あんだけ鉄拳喰らってるのに夢だと思ってんの!?ちゃんと現実だから!」


ふざけんな更に嫌だわ。
生徒指導の鉄人と言えば、“鬼”の二つ名を持つ程厳しい教育をすることで有名だ。今回のような試召戦争では補習室の担当でもある。
福原先生カムバック!コイツが担任とか死ぬ!


「いいか。確かにお前等はよくやった。Fクラスがここまで来るとは正直思わなかった。でもな、幾ら『学力が全てではない』と言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の一つなんだ。全てではないからといって、ないがしろにしていいものじゃない」


くそ、雄二がちゃんと勉強していれば鉄人から面倒な説教を喰らわなくて済んだものを!
…思い出したらイライラしてきた。帰ったら雄二の家に伊勢海老と偽ってザリガニを大量に送り付けてやる。それも雄二しか出ないだろう時間帯を狙って。私の頭脳に不可能は無い!多分!


「神凪。お前と吉井と坂本の3人は特に念入りに監視してやる。何せ、開校以来初の“観察処分者”とA級戦犯だからな」

「そうは行かないぞ鉄人!」

「なんとしても監視の目を掻い潜って、今まで通りの楽しい学園生活を過ごしてみせます!」

「……お前等には悔い改めるという発想は無いのか」

「はん!悔い改めるヒマがあるなら新しい悪戯でも考えるさ!今度は校舎爆破以上のことを仕掛けてやる!」

「神凪のアレは悪戯レベルなのか!?」

「何恐ろしいこと言ってんのアスカ!」


本気を出した私はもっと凄い!今度こそ鉄人を完膚無きに叩きのめしてやる!
そう。私はこの時かなりやる気を出していた。
何故なら。


「とりあえず、明日から授業とは別に補習の時間を2時間設けてやろう」


3ヶ月後、試召戦争を勝ち抜いてこの教師から逃れる為に。
補習?何でも来いや即行で終わらせてやんよ!
よし、それならまず体力を付けなければ。勉強は以外と疲れるからな。
確か今日は新刊の漫画が出た筈。帰りに寄って英気を養わなおう。


「神凪は残れ。この後雑用がある」

「はぁ!?嫌だ私は本屋に行く!」

「最初にグラウンドに行ってサッカーゴールの片付けをしてくれ。それからラインを引いて200メートルトラックを作れ。それが終われば資料を運んでもらう」

「人の話を聞けよ!」

「はいはいアスカ、漫画は今度でもいいでしょ?」

「絶対に嫌だ!それか和樹買って来て!」

「僕は今月給料日までお金節約するって決めてるから無理。それに、手持ちそんなに無いし。夕飯の準備もあるから」

「裏切り者ぉ!」


私が涙目になっていると、明久は瑞希と美波に挟まれて何かしていた。
どうやら美波がクレープを食べに行くと言って、瑞希が映画に誘ってるらしい。
ラブラブだなコノヤロウ。人が雑務を押し付けられてるというのに!


「に、西村先生!明日からと言わず、補習は今日からやりましょう!思い立ったが仏滅です!」

「“吉日”だバカ」

「あ、それ私も賛成!今からやろう、補習!」

「うーん、やる気が出たのはいいことだが……」


補習で帰りが遅くなれば先生も雑用を任せられなくなる。こっちはまだ女子高校生だからな!暗い中帰路に着くなら早い方がいい。
チャンスとばかりに手を上げるが、鉄人はニヤニヤして明久達の方を見た。


「無理することはない。今日だけは存分に遊ぶといい」

「おのれ鉄人!」

「僕等が苦行にいると知った上での狼藉だな!?」

「「こうなったら卒業式には伝説の木の下で釘バットを持って貴様を待つ!!」」

「斬新な告白だな、おい」


積もりに積もった今までの恨み、全て晴らしてくれる!
睨み付ければ鉄人は「やれやれ」と言いながら私の首根っこを掴んだ。
おいコラ!どこ連れて行く気だ!


「決まってるだろう、グラウンドだ。この後用事は無いと日向に聞いた。お前にはたっぷりとしてもらいたいことがある」

「いやー!変質者ー!教師に襲われるー!」

「誤解を生むような発言をするな!」

「いっだぁ!!」


暴力反対!私この短時間で何回殴られてんの!?
ついには親友にも裏切られた私は、ズルズルと廊下を引っ張られて行った。
和樹の「今夜はハンバーグだから早めに終わらせてねー」という、他人事の様な声しか聞こえない。

非常に最悪な形で、私等2年Fクラスの、初の試召戦争は幕を閉じた。
……雄二には後日しっかりとお礼をしに行こう。



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