我が道を進め! | ナノ


▼ 6

「最後の1人、どうぞ」

「……はい」


Aクラスからは予想通り、若干ラスボスっぽくなっちゃってる翔子ちゃん。
同点だっていうのに、全く動じてない。寧ろ堂々としてる気がする。


「俺の出番だな」


僕達から出るのは雄二君。全ては彼に託された。
我等Fクラス代表。今まで不可能と思われて来た逆転劇を成功させた人物。


「教科はどうしますか?」

「教科は日本史、内容は小学生レベルで方式は100点満点の上限有りだ!」


翔子ちゃんが負けると思っていないAクラス。さっきまで静まり返ってたのに、またざわめき出した。
その反応は当然っちゃあ当然だ。
翔子ちゃんを知っている人なら、上限有り且つ小学生レベルのテストで勝負したら満点確実だと考える。結果は注意力と集中力によって決まると。
それが僕達の作戦。雄二君は翔子ちゃんの弱点を知ってる。
あの問題が出ればこっちの勝ちだ。


「分かりました。そうなると問題を用意しなくてはいけませんね。少しこのまま待っていて下さい」


高橋先生はノートパソコンを閉じて、教室を出て行った。
というか、高校に小学生レベルのテストとか教科書って置いてあるもんなのかな。
高橋先生は教育熱心で知られるし……何かの資料用とか言って持ってるかも。
…………考えたら本当に有り得そうな気がしてきた。

ふと見ると、雄二君が勝負前に皆からエールを貰っている。
今まで頑張って来たもんね。言葉の一つも掛けたくなるか。
全員分受け取り終わったのか、雄二君は僕の方に近付いて来た。


「雄二君、大丈夫?」

「何がだ?」

「随分と自信満々だけど…」

「そうだぞ雄二。相手は翔子だ、油断してると足元掬われんぞ」


僕の首に腕を回して、よっかかる様な体勢でアスカが訊く。
アスカと僕は同じことを考えていた。
幾ら小学生レベルと言っても、相手するのが翔子ちゃん。弱点もたった1問しかない。
油断して少しでも点数を落としたら即アウトなんだ。
…今思うと、凄くリスク高い賭けをしてるなぁ僕達……。


「大丈夫だ。俺は必ず勝つ」

「……男に二言はねーぞ」

「ああ」

「そこまで言うなら止めないよ。頑張ってね」


戻って来た高橋先生の案内で、雄二君と翔子ちゃんは別教室に移動して行った。
状況やテスト内容は大画面ディスプレイで表示されるらしい。


《では、問題を配ります。制限時間は50分。満点は100点です》


映されるのは日本史担当の先生と、席に座る雄二君と翔子ちゃんのみ。


《不正行為等は即失格となります。いいですね?》

《……はい》

《分かっているさ》

《では、始めてください》


始まった…!
皆が皆、画面を集中して見ている。
そんな中、隣にいるアスカの顔を覗き見ると、頑張れと言っているような、でも心配そうな顔をしていた。


「アスカ…?」

「ん?」

「どうしたの?アスカが黙ってるなんて珍しい」

「おいそれサラッと貶してねぇか」

「はいはい。それで、どうしたの?」

「……雄二が、ちょっとな」

「雄二君?」


僕達が声を掛けた時は、とても自信に溢れてたけど。
そう言うと、アスカは少し呆れた様に呟いた。


「いやぁ、そうなんだけどねぇ……」

「何がそんなに心配なの?」

「…アイツ、小学生の頃は“神童”って呼ばれてたんだよ」

「うん。それは知ってる」


小学校は同じく明久君達と同じところに通っていた僕とアスカだけど、中学はちょっと引っ越して学区が変わることになり、雄二君や翔子ちゃんと同じところに行った。
3年間一緒のクラスだったし、必然的に話す機会も多い。友達になった僕達は思い出話をすることも少なくなかった。
その時聞いたのが、雄二君の昔話。周りよりずっと頭がよかったらしい。


「けど中学になって荒れて、立派な不良になった。私の耳に噂が入るくらい荒れててさ。
ちっとボコッた時思ったんだが、中学ってあんまり勉強してなかったんじゃねーかな、と」

「ボコッたって…喧嘩?それと勉強がどう結びつくの?」

「勉強や成績っつーのは、一部例外の人間を除いて大抵の奴はやり続けなきゃ実らないし身に付かない。
これは小学生レベルの問題だ。しかし雄二は中学の頃、まともに机に向かったのは数えられる程しか無い。意味、分かるか?」


つまり、小学校の頃に習ったことを復習しつつ発展させていく中学時代にまともに勉強していなかったんで、小学校で習ったことまであやふやになっているかも…?
筋は通ってる気がする。でも…雄二君が対策を練ってないとは思えないんだけど。

考えていると、Fクラスの皆が軽い歓声を上げた。
ディスプレイを見ると、年号問題が映し出されている。
それを凝視すると……皆が喜んだ理由が分かった。


( )年 鎌倉幕府設立

( )年 大化の改新


「あ……大化の改新」

「出たな、雄二の秘策問題」

「これで僕達の勝ち?」

「どうだろうな……ぶっちゃけ、嫌な予感がしてならないんだが」

「うわ、アスカの嫌な予感とか洒落にならない」


無駄に勘やら運やらが強いアスカ。
何かを感じ取ったなら、ちょっとヤバいかもしれない。
そして、その予感の正体が、ディスプレイに表示された。


【日本史勝負 限定テスト 100点満点】

Aクラス
霧島翔子  97点
     VS
Fクラス
坂本雄二  53点


結果。
Fクラスの卓袱台がみかん箱になりました。



prev / next

6 / 6

[ Back ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -