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僕が負けちゃった所為で3対2。またもやAクラスが有利だ。
引き分けだったのに、負けてしまった責任は大きい。くそう、もうちょっとだったのにな…。
「心配すんなって。今度は私が出るからさ」
「え、そうなの?」
「おう。残ってるのは私だけだし。逆に今まで出てなかったから、早くやりたくてしょうがない」
珍しい。アスカがやる気満々だ。
元からこの試召戦争には興味を示してて、雄二君と一緒に明久君の提案に乗ったとは聞いたけど……。
Bクラス戦の時だって真剣ではあったものの、ぶっちゃけそこまで本気を出してはいなかった。
Bクラス相手ならAクラスくらいの点数で足りるからね。普段はあんまり取らないけど、アスカは楽しいことをする為ならどこまでだって追求するから、余裕で400オーバーを叩き出していた。
今日はAクラス戦だし、少しは気合入ってるだろうとは思ってた。でも、ここまでとは。
アスカの桃色と蒼の瞳が、戦闘への熱意で燃えてる気がする。
「では、Aクラスの生徒は前へ――」
「出て来い、楓」
「……なーんだ、バレてたんスか」
高橋先生の台詞を遮り、アスカは1人の生徒を指名した。
それに反応し人混みを掻き分けて来たのは、黒が混ざった金髪を短く結んだ少女。
楓って、まさか。
「お久しぶりッスアスカ姉、和樹姉」
「か、楓ちゃん」
「よ。元気だったか?」
「この通り、バリッバリの元気ッスよ!」
「そりゃよかった」
苗字で分かると思うけど、さっき僕と戦った対戦相手である鎖々宮由花梨ちゃんとは姉妹で、楓ちゃんの方が姉に当たる。
でも2人は異母姉妹。楓ちゃんはお母さんがロシア人なので日露ハーフ、由花梨ちゃんは純粋な日本人。
楓ちゃんはお父さんの昔の愛人の子らしく正統な鎖々宮家の人間じゃないとかで、当主は由花梨ちゃんに渡ってるんだとか。
「由花梨が来てる時点でもうピーンと来てたんだ。お前が当主を放っておくワケねーからな」
「そこまで読まれてるとは…流石アスカ姉ッス」
「……科目はどうしますか?」
「総合科目でお願いするッス」
「へぇ。私を相手に総合で来るか」
「この勝負はアスカ姉に実力を見てもらいたいだけッスから」
「そりゃまた余裕なこって」
「行くッスよ!」
「来いやぁ!」
「「
お決まりの詠唱で2人の召喚獣が姿を現す。
アスカの召喚獣はいつも通りラフな格好に二丁拳銃。
楓ちゃんは制服に背丈と同じくらいのハンマー。鉄槌かな。
【総合科目】
Aクラス
鎖々宮楓 6990点
VS
Fクラス
神凪アスカ 7322点
表示された点数に、皆がポカンと口を開けたまま固まった。
気持ちは分かる。僕も初めてアスカの点数を見た時は目玉が飛び出るかと思ったよ。
「「「なっ、7000点オーバー!!?」」」
『鎖々宮姉ももの凄い点数を出してるが…』
『6000点も7000点も普通出せるもんじゃないぞ!』
『何でそんな奴がFクラスなんかにいるんだ!?』
なんてったって、現学年1位の翔子ちゃんも取れない点数だからね。これは。
Aクラスで格が違う10名の総合点数は約4000点台。それを3000点も越えてたらそりゃあねぇ……。
普段のアスカならこんな点数取らないよ。断言出来る。面倒だからね。
面白いことを追求し、自分と周りが楽しむ為なら手段を択ばないアスカだからこそ取れるものだ。
忘れがちだけど、アスカは本来すっごく頭良いんだよ。常日頃の行いが原因でバカに見られてるんだけどね。
「くっ、やっぱりアスカ姉はハンパない点数を叩き出すッスね…!」
「お喋りしてるヒマは無ぇよ」
「!!」
一瞬で、まるで瞬間移動でもしたんじゃないかと錯覚してしまう程速いアスカの召喚獣が、楓ちゃんの召喚獣の背後を取る。
そこでまず一発。しかし楓ちゃんもすぐに避けて、ハンマーを振り下ろした。
楓ちゃんも召喚獣の扱いが上手いなぁ…。こういうのを才能って言うのかも。
アスカは動き回りながら確実に武器や身体を狙って銃を撃ちまくってる。
対する楓ちゃんは攻撃を避けつつ接近戦に持ち込んでハンマーで反撃。
流石喧嘩慣れしてるって言うか……戦い慣れてる2人が戦うと迫力が違う。
でも、遠距離攻撃が主なアスカは、接近戦になると動きがほんの少しだけ鈍る。その隙を楓ちゃんが見逃す筈がない。
形勢が逆転しそうだ。
「中々の腕だな、楓」
「ありがとうございます!アスカ姉も流石ッス!」
話すヒマがあるなんて、2人共なんて余裕なんだ。
特にアスカ。今の状況分かってる?
床に寝っ転がされたアスカの召喚獣の上に跨って、楓ちゃんの召喚獣がハンマーを構えてるんだよ。
頭にハンマーが落とされる寸前を二丁拳銃をクロスにして防いでる。
どこからどう見たってアスカの方が不利。なのに、アスカが楽しそうに笑ってる。
何を考えてるんだろう。
「今日こそ免許皆伝を貰うッスよ!」
「…そりゃ、無理な話だ」
「どこがッスか?今はあたしの方が有利ッスよ」
「一つ、良いことを教えてやろう」
「?」
「私の武器、何だと思う?」
「何の変哲も無いただの二丁拳銃ッスよね?」
「ま、そう見えるよなぁ。実際そうでしか使ってねーし」
「どういうことッスか」
アスカの話を、僕達も理解出来ない。
一体何の話をしてるんだろう。
「実はな、この武器。正しい名前は“拳銃”じゃないんだ」
「え…?」
「“銃剣”って言うんだよ」
ニヤリとアスカが笑ったのと同時――召喚獣の持っていた武器の銃口部分より少し上に、鋭い刃が現れた。
「なっ!?」
楓ちゃんが驚いたのも束の間。ちょっと力が緩んだスキにアスカが刃で楓ちゃんの召喚獣を斬り付けた。
咄嗟に反射神経が働いたみたいで、服と髪を掠るだけに終わる。でも、アスカの上からどいてしまった。
焦りの色が見える楓ちゃん。その正面で、不敵に口元を上げるアスカ。
まさか……アスカの武器がただの銃じゃなくて、銃剣だとは思わなかった。僕も初めて知ったよ。
「雄二君は知ってた?アスカのアレ」
「いや。前に勝つ作戦はあるのかと訊いた時に『秘密兵器があるから平気だろ〜』と言われたくらいだ。こんな物だとは思いもしなかったが」
その話を聞いただけじゃ、本当に雄二君がいつも立ててる作戦みたいなのを思い浮かべるよ。誰でも。
雄二君にまで隠してたとは。今の今まで誰も知らないんだ。対策を立てるも何も無い。
「いや〜、隠しといてよかったぜ。いつ使うか迷ってたんだよなぁ」
「そんな秘密兵器があるとは、驚きッス…」
「はっはっは。何を怯えてるんだ楓。私の武器に刃が付いた程度だぞ」
よく言うよ。分かってるクセに。
楓ちゃんには尋常じゃない冷や汗が流れてることだろう。
確かにアスカがいつも好んで使うのは銃だ。喧嘩をする時も、改造はしてあるけどエアガンだし。誰だって銃が得意だと思うだろう。
召喚獣の武器としても使ってるくらいだ。例え苦手でも、ある程度は慣れてるもの。そう考えるのが一般的。
だけど、知ってる人は知ってる。
本当にアスカが得意なのは――――刀剣だということを。
「そんじゃ、そろそろフィニッシュだ」
「ッ!?……あっ!」
そこからは、もっと速かった。
目で追えた人はきっと片手で数えられるくらいだと思う。
50センチの間を一歩動いたくらいのスピードで詰めて、一閃。
多分一閃に見えただけ。その間に10回は斬ってる。
スローモーションで倒れていく楓ちゃんの召喚獣。
エフェクトが掛かって、弾ける様に消えて行った。
「…勝者、Fクラス・神凪アスカ」
「ふう……」
「ま、参りましたッス…」
楓ちゃんは両手を上げて降伏ポーズ。アスカが、勝った。
「よくやった、アスカ」
「疲れたー」
「いつの間にあんな点数取ってたのよ!」
「……驚き」
「あれくらい私なら簡単に取れるのだよ!あーっはっはっはっは!!」
「めちゃくちゃ元気じゃん」
これで3対3……再び同点に戻った。
泣いても笑っても、次が最後の戦いだ。
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