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「では、次の方。どうぞ」
「和樹、行け」
雄二君からご指名が入る。遂に僕の番だ。
状況では互角。ここで僕の後にも2試合残ってるけど、勝つに越したことは無い。
誰だろうと、一生懸命やらなきゃ。
「和樹お姉様が相手なら、
「…へ?」
耳に届いた、聞いたことのある声。
どこかのお嬢様の様な口調。綺麗な漆黒の髪。同じ色の瞳。
ツインテールを揺らしながら、その子は僕達の前に出て来た。
「由花梨、ちゃん?」
「ご無沙汰しております、和樹お姉様。アスカお姉様」
元々はアスカの知り合いで仲良くなった子で、アスカの家とか喧嘩とかにも関係してる僕の友達。
こう見えても日本有数の極道一族・鎖々宮家の18代目当主だ。
そんな子が文月学園に転入してたなんて…。
「成程。白亜が言ってた『面白いヤツ』ってのはお前のことか」
「そうだと思いますわ。今年転入しましたの」
「今更学校通わなくてもいいんじゃ…?」
「一般教育の場を学ぶのも必要かと思いまして」
絶対それだけじゃない気がするけど、まぁその話は置いておこう。
僕の相手が由花梨ちゃんだとは…。これは更に気が抜けない。
「科目はどうしますか?」
「英語でお願いします」
「和樹お姉様の得意科目でしたわね」
ただでさえ強い由花梨ちゃんだ。油断してたらこっちがやられる。
やるからには全力で。得意科目を選択させてもらうよ。
「「
【英語】
Aクラス
鎖々宮由花梨 735点
VS
Fクラス
日向和樹 733点
『な、700点オーバーだと!?』
『そんな点数を出せる人間がいるのか!!?』
「確かに700オーバーは驚くけど、その前に…」
「和樹が、英語で点数を抜かされてる…?」
そう。周りならたぶん、700オーバーに目が行くかもしれない。
でもFクラスからしたらそうじゃない。既に僕の最高点数知ってるからね。
僕の英語最高得点は857点。それには届かなかった。その上、たった2点だけど負けてる。
気合入れないと!
「行くよ、由花梨ちゃん!」
「はい、お姉様」
召喚獣に指示を出してバトンを構え、突っ込む。
由花梨ちゃんの武器は鉄扇…。どんな攻撃をしてくるんだろう。
分からないけど、とりあえず様子見!
ガキィンッ
「お姉様ともあろう御方が、情報不足の中で突撃だなんて……。随分強気でいらっしゃいますね」
「僕だって負けられないからね」
「あら、それは私も同じことですわ」
振りかぶったバトンを、2本の鉄扇で軽々と受け止められる。
流石由花梨ちゃん。今年入学して召喚獣を習った筈なのに、もう動きを物にしてる。
戦闘の勘じゃあ、僕はきっと敵わない。でもこの召喚獣は1年の時から練習してるんだ。簡単に負けるなんて、数少ない僕のプライドが許さない。
「…一つ、訊かせて下さいな。お姉様」
「この場面で?何かな」
「どうしてお姉様はFクラスをお望みになりましたの?」
どうしてそんなことを訊くんだろう。
首を傾げれば僕の疑問を感じ取ったのか、由花梨ちゃんが教えてくれた。
「和樹お姉様…アスカお姉様もそう。御二人はとても良い頭脳をお持ちです。本来ならば既に東大卒業レベル。ですのに、何故最低のFクラスにいらっしゃるのですか?
振り分け試験の際に実力をワザと出さなかったとお聞きしましたが……何故そのようなことを?」
「あー…特に理由は無いんだ」
「理由が、無い…?」
「うん。アスカが行くって言ったからついて行っただけ。僕以外で本気のバカを暴走させたアスカを止められる人、早々いないから」
「そんな理由で……?」
「これでも、僕にとっては充分過ぎる理由なんだけど…なっ!」
「く…!」
由花梨ちゃんの召喚獣の鳩尾に一発叩き込む。
怯んだ由花梨ちゃんは一旦僕から距離を取った。いいなぁ、その戦闘勘。僕にももうちょっとあればよかったのに。
「そうですか。和樹お姉様にとって、Aクラスは魅力的ではないと」
「そういうワケじゃないんだけど……。ただ単に、面白そうっていう感じがしただけ」
由花梨ちゃんは真面目で努力家だからね。ワザと手を抜くって選択肢は元から無いんだろう。戦闘に関しては別だけど。
だから許せないのかなぁ…僕達の行動とか。ごめんね、由花梨ちゃん。
それでも僕は、ここが大好きなんだ。
「では、最後に致しましょう。お姉様」
「うん。全力でね」
「もちろんですわ」
お互いに走り距離を詰める。
僕のバトンが由花梨ちゃんに届くのが先か。由花梨ちゃんの鉄扇が僕に届くのが先か。
武器が鳴る音がする。
僕の召喚獣は、膝をついて床に倒れ込み、煙と共に消滅した。
「勝者、Aクラス・鎖々宮由花梨さん」
「あっちゃあ……負けちゃったか」
最終的な点数差は53点。結構ギリギリまで削ったんだけど、やっぱり押し負けた。
由花梨ちゃん強いなぁ。もっと完璧に操作が出来るようになったらどうなるんだろう。
「ありがとうございました、和樹お姉様」
「あはは、こちらこそ」
由花梨ちゃんと握手をして、僕は皆のところに戻る。
怒られるかな、と身構えてたら雄二君に頭を撫でられました。
……本当にお父さんみたいだよね、雄二君。
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