我が道を進め! | ナノ


▼ 3

これで0勝2敗。7戦中4勝した方が勝つからまだ余裕があるとはいえ、そろそろ勝たないと後が辛くなる。
でも、次は。


「では、3人目の方どうぞ」

「…………(スック)」


立ち上がったのは康太君。Fクラスの秘密戦力の1人だ。
ここで雄二君が定めた科目選択権が活きてくる。
康太君は総合科目の内、80%を保健体育で獲得してる…云わば一種の猛者。その単発勝負ならAクラスにだって負けない。


「じゃ、ボクが行こうかな」


向こうから来たのは色素の薄い髪をショートカットにした女の子。ボーイッシュな雰囲気を漂わせてる。
誰だろう。記憶に無い子だ。


「1年の終わりに転入してきた工藤愛子です。よろしくね」


そっか。なら分かんなくても仕方ないかも。
凹凸が少ない身体は、こう言っちゃアレだけど美少年みたいだ。カッコ可愛い。


「科目は何にしますか?」

「…………保健体育」


康太君の唯一にして最強の科目が選択された。
これだけなら学年トップだからね。皆に付けられたムッツリーニという名は伊達じゃない。


「土屋君だっけ?随分と保健体育が得意みたいだね?」


工藤さんが康太君に話し掛ける。
転入生って言ってたし、康太君の実力をあんまり知らないのかな。


「でも、ボクだってかなり得意なんだよ?……キミとは違って、実技で、ね♪」


何か問題発言が聞こえた気がする。
いや、きっと聞き間違いだよ。最近勉強してばっかりだったから、疲れが出ているのかもしれないし……。


「そっちのキミ、吉井君だっけ?勉強苦手そうだし、保健体育で良かったらボクが教えてあげようか?もちろん実技で」

「はいはい!明久だけじゃなくて私もお願いします愛子さん!!」

「ちょっとアスカ!?」

「あはははっ。いいよ?ボクは女の子も大歓迎だから」

「よっしゃあ!!」

「そんな全力でガッツポーズするな!」


ああああ変態が反応してしまった…。流石に女の子同士はダメだよ。本人達が納得してるならいいけど……。ましてや男女でなんて言語道断。
明久君は美波ちゃんと瑞希ちゃんに「永遠にそんな機会無いから必要無い」と言われて哀しそうな顔をしてました。もう死にそうな程。
頑張れ明久君。


「そろそろ召喚を開始してください」

「はーい。試獣召喚サモンっと」

「…………試獣召喚サモン


高橋先生の一声で、2人が召喚を始める。
幾何学模様の様な魔法陣から2人をデフォルメ化した召喚獣が姿を現した。
康太君の召喚獣は忍装束に小太刀の二刀流。隠密行動(主に覗きとかだけど)に精通している康太君らしい格好だ。
その一方で工藤さんの召喚獣は――


「何あの大きい斧!」

「おおー…。カッコいいな」


アスカ、観点がズレてる!
見るからに強そうな巨大な斧。おまけに、高得点者が付けられる腕輪もしている。
康太君を前に「保健体育が得意」と言えるだけはある。この子、強敵だ。


「実践派と理論派、どっちが強いか見せてあげるよ」


艶っぽく笑い掛けるのと同時に、腕輪を光らせた工藤さんの召喚獣が動いた。
巨大な斧に電光を纏わせて、尚且つその重さを感じさせないくらいのスピードで一気に距離を詰める。速い!


「それじゃ、バイバイ。ムッツリーニくん!」


そのまま剛腕な腕で斧を振るう。避けられる攻撃じゃない!


「康太君っ!」

「大丈夫だ」

「え……」


アスカが余裕そうに笑った。心配は要らないと。
一体どういうことだろう。
そうしてる間にも斧は康太君の召喚獣を両断する――と思った。


「…………加速」


直後、康太君の召喚獣の持つ腕輪が光り、その姿がブレた。


「……え?」


相手の戸惑う顔。僕だって状況に頭が追い付いてない。
何で康太君の召喚獣は、相手の射程外にいるんだろう。


「…………加速、終了」


康太君がぼそりと呟く。
一拍置いて、工藤さんの召喚獣が全身から血を噴き出して倒れ込んだ。


【保健体育】

Aクラス
工藤愛子  446点
    VS
Fクラス
土屋康太  572点


つ、強い…!下手したらFクラスの総合科目の平均点並だ。
雄二君曰く「Bクラス戦の時は出来がイマイチだったらしい」とか。あの時もかなりの高得点だったと思いますけど。


「確かに康太は、普通の科目においては明久と並ぶくらいの馬鹿だ。だけど保健体育に関しては、文字通り最強なんだよ」


実際、本気を出した康太の点数は私より上だしな。

そう言ったアスカの顔は心底楽しそうで嬉しそうだ。
仲間意識が人一倍強いアスカは、仲間が他人に褒められると自分のことの様に反応する。
加えて、自分がどれだけ頭良いか理解してるから、それより上が居ることは純粋に楽しいんだとか。
康太君、そんなに強かったんだ……。


「そ、そんな……!このボクが……!」


膝から崩れ落ちる工藤さん。自分の強さに自信があったんだろな。
その分ショックは大きいみたいだった。


「これで2対1ですね。次の方は?」


淡々と作業を進める高橋先生。
自分のクラスが負けても感情移入しないで物事を進めるっていうのは公平で良いと思うけど、ここまで感情に表さないなんて。
クールビューティと言われるのを前に聞いたけど、僕から見たら冷血って感じだ。
だから苦手なんだけど。


「あ、は、はいっ。私ですっ」


次は瑞希ちゃんか。まぁ、妥当と言うか、当然と言うか。
Fクラスの中でAクラスとまともに張り合える貴重な人材だもん。


「それなら僕が相手をしよう」


Aクラスから歩み出したのは、眼鏡をかけた如何にもインテリな感じの男子。
確かこの人……久保利光君だ。


「やはり来たか、学年次席」


瑞希ちゃんに次ぐ学年5位の実力者。
1位であるアスカと2位である僕、それから4位の瑞希ちゃんがFクラスに行った関係で、彼は学年で次席の座にいる。

ここが一番の勝負どころであり心配どころだ。
久保君と瑞希ちゃんの実力はほぼ互角。総合科目の点数差は確か20点程度だった筈。本当に僅差で瑞希ちゃんが勝利を手にしたんだ。
あの試験からもう何日も過ぎてるし、敗北を知った人は貪欲に勝利を求めるから、きっと彼も猛勉強したに違いない。
更に言うと、瑞希ちゃんは連戦でかなり体力を消耗してる。勝てるかどうかは五分五分だ。あんまり考えたくないけど、負ける可能性も否定出来ない。


「科目はどうしますか?」

「総合科目でお願いします」


Aクラスの科目選択権、まだあったんだ。
秀吉君のことでうやむやになってたから分かんないや。


「ちょっと待った!何を勝手に――」

「構いません」

「瑞希ちゃん…?」


反論しようとした明久君を止めた。何か策があるのかな。
アスカに視線で問いかけたら「ま、見てろ」とだけ言われる。どういうこと?


「それでは……」


高橋先生がさっきと同じように召喚操作を行う。
それぞれの召喚獣が出て来て……一瞬で決着がついた。


【総合科目】
Aクラス
久保利光  3997点
    VS
Fクラス
姫路瑞希  4409点


『マ、マジか!?』

『いつの間にこんな実力を!?』

『この点数、霧島翔子に匹敵するぞ……!』


周りから驚きの声が上がる。僕も驚きを隠せない。
疲れてるのにこんな点数を叩き出したの?
瑞希ちゃんが強いのは知ってるけど、尋常じゃないよこれ!
4000点オーバーなんて早々出せる数値じゃないもん。


「点数差412点か。流石瑞希」

「アスカは知ってたの?」

「ん、いや?知らなかった。でも勝つだろうとは思ってた。直感で」


ただの直感だったらアテにならないけど、アスカの直感となれば話は別だ。驚く程当たるから。
そのアスカが感じたってことは…相当努力してたんだね、瑞希ちゃん。


「ぐっ……!姫路さん、どうやってそんなに強くなったんだ……?」


今まで拮抗していた筈の実力が、いつの間にかこんなに差がついていた。
気になっても仕方ない。僕も気になる。


「……私、このクラスの皆が好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいる、Fクラスが」

「Fクラスが好き?」

「はい。だから、頑張れるんです」


嬉しい。そんな風に思っていたなんて。
こんなバカ達の巣窟に放り投げられた瑞希ちゃん。なのにここを好きだと言ってくれた。
心が温かくなるのを感じる。これからも瑞希ちゃんと友達でいよう。


「これで2対2です」


高橋先生の表情にも若干変化が見られた。僕からしたらバレバレです。これでも演技に精通してる者の1人なので。
しかしこれはかなり珍しい。よっぽど瑞希ちゃんの急成長に驚いてるんだろうか。
あるいは、FクラスがAクラスと渡り合っていることに戸惑いを感じているのか。
どちらにしても、まだ勝負は残ってる。気は抜けないね。



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