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アスカside.
職員室で先生達のメッチャ長い説教を受け、点数の補給テストをした2日後の朝。
教壇で雄二が、とても珍しい行動をした。
「不可能だと言われていたにも拘らずここまで来れたのは、他でもない皆の協力があってのことだ。感謝している」
「ゆ、雄二…?一体どうした……?」
「雄二らしくないよ?」
「ああ、自分でもそう思う。だがこれは偽らざる俺の気持ちだ」
この暴君が礼を言った。
一大事だと受け止めてしまうのは、今までの経験というか、付き合いの所為だろう。
明日は雨どころか、槍が降りそうだ。
「ここまで来た以上、絶対Aクラスに勝ちたい…。勝って生き残るには勉強が全てじゃない現実を教師共に突きつけるんだ!!」
「おおーー!!」
「そうだーー!!」
「勉強だけじゃねぇんだー!!」
クラスの士気がどんどん上がって行くのが分かる。
相変わらず周りを纏めるのがズバ抜けて上手いな。
「そして残るAクラス戦だが、これは一騎打ちで決着をつけたいと考えている」
「一騎打ち…?」
「それで本当に勝てんのか?」
「落ち着いてくれ。それを今から説明する。やるのは勿論、俺と翔子だ」
「はぁ?お前バカ?」
「そうだよ。バカな雄二が学年主席の霧島さんに勝てる訳がなi」
その瞬間、私と明久の頬を何かが掠った。
後ろを振り返れば、畳に刺さっているカッター。
…まさか、いくら雄二でも友達を本気で殺そうとか考えてる筈ないよな……。
「次は耳だ」
私等はどうやら友達じゃないらしい。
マジで殺気を感じたから、ふざけるのを止めた。
「まぁ明久とアスカの言う通り、確かに翔子は強い。まともにやりあえば勝ち目は無いかもしれない。
だがそれはDクラス戦も同じだったろ?まともにやりあえば俺達に勝ち目は無かった。
今回だって同じだ。俺は翔子に勝ち、FクラスはAクラスを手に入れる。俺達の勝ちは揺るがない。
俺を信じてくれ。過去に“神童”と言われた力を今皆に見せてやる」
はーん。あの荒れてたヤツがよく言うよ。悪鬼羅刹とか呼ばれてたクセに。
けど、もう吹っ切れてるってことだし。作戦を聞いてやるか。
「んで?あの翔子に勝つ為のプランは?」
「一騎打ちとなると…フィールド限定をした方が有利だよね」
「流石和樹、目の付け所が鋭いな。そうだ、一騎打ちでは、フィールドを限定するつもりだ」
「一体何の教科でやるつもりじゃ?」
「日本史だ。ただし内容は限定する。レベルは小学生程度、方式は100点満点の上限有り。
召喚獣勝負ではなく、純粋な点数勝負とする」
日本史という性質上、暗記問題だ。翔子は記憶物の教科はかなり得意だから不利だと思うけど。
小学生レベルの満点有りだと、満点が前提になってミスした方が負け……つまり、注意力勝負になる。
勝率は上がるんだろうけど……微妙じゃね?
「それ、同点だったら延長戦だよね?雄二君は、その…ブランクあるし」
「そうだよ。厳しくない?」
「おいおい、あまり俺を舐めるなよ?いくらなんでもそこまで運に頼り切ったやり方を作戦と言うものか」
「それなら霧島さんの集中力を乱す方法を知ってるとか?」
「ううん。きっと翔子ちゃんなら集中なんてしなくても、小学生レベルのテストくらい何の問題も無いよ」
「そう。俺がこのやり方を取った理由はただ一つ。
“ある問題”が出ればアイツは確実に間違えるからだ」
翔子が間違える問題…。そんなのあったっけ?
――あ、もしかしてアレか?
「“大化の改新”?」
「アスカ、正解だ」
「誰が何をしたのか説明しろとか?そんな問題小学校でやったっけ?」
「いや、そんな掘り下げた問題じゃなくもっと単純な問いだ」
「単純って言うと、何年に起きたとか?」
「おっビンゴだ島田!その年号を問う問題が出たら俺達の勝ちだ」
大化の改新の年号は超簡単だ。
『無事故(645)の改新』というゴロ合わせがある通り、645年に起こったとされている。
「こんな簡単な問題は明久ですら間違えない」
「……おい明久。なんでザメザメと泣いてるんだ」
「もしかして、間違えた…?」
「お願い、僕を見ないで……」
「おいおい」
お前どこまでバカなんだよ。
「だが翔子は間違える。これは確実だ。そうすれば俺達は勝って晴れてこの教室とおさらばって寸法だ」
「あの、坂本君」
「ん?何だ姫路」
「アスカちゃんと和樹ちゃんもそうですけど、霧島さんとはその…仲が良いんですか?」
あれ?言ってなかったっけ?
雄二と翔子と、私等の関係。
「ああ、アイツとは幼馴染だ」
「総員狙えぇっ!!」
「なっ!?何故明久の号令で急に構える!?」
「黙れ男の敵!!Aクラスの前にキサマを殺す!」
「俺が一体何をしたと!?」
「遺言はそれだけか?…待つんだ須川君、靴下はまだ早い。それは押さえつけた後口に押し込む物だ」
「了解です隊長」
あーあ、始まった。
そりゃあんなに綺麗で頭もいい人が幼馴染だと羨ましいよねぇ。
「……一応聞いておくけど、アスカと和樹はどういう関係?」
「えーと…。中学が一緒だったんだよ。クラスも3年間ずっと同じで」
「腐れ縁だな。翔子が間違える問題も、その頃に教えてもらったんだ。けど雄二ほど長い付き合いじゃないよ」
「そう。それじゃあ見逃すよ」
「あ、ありがとう…?」
危なかった、もし幼馴染とか間違えて言ってたら殺られてた。
私と和樹は小学校が明久や瑞希と同じ、中学は雄二や翔子が通うところだった。
だから私的にはどっちも腐れ縁だけど。
視点を変えれば、幼馴染に分類されるかもしれないな。
「まぁまぁ、落ち着くのじゃ皆の衆」
「む、秀吉は雄二が憎くないの?」
「冷静になって考えてみるが良い。相手はあの霧島翔子じゃぞ?
男である雄二よりも、寧ろ興味があるとすれば…」
「…そうだね」
明久と秀吉の視線を辿って行くと、瑞希に辿り着いた。
あー、成程な。確かにそんな噂が流れてたなぁ。
「なっ何ですか?もしかして私何かしましたか?」
「(アスカ、明久君、どういうこと?)」
「(前に、翔子があまりにも男子からの告白を断るもんだから噂が流れたんだよ。
“霧島翔子は同性愛者なんじゃないか?”っていう。そのことだろ)」
「(うん。だから姫路さんは何もしていないけど、何かされる可能性は大なんだ)」
「(そういうことか。まぁ、翔子ちゃん美人だもんね。そういう系の噂は流れてても違和感無いよ)」
「とにかく。俺と翔子は幼馴染で、小さい頃に間違えて嘘を教えていたんだ。
アイツは一度教えたことは忘れない。だから今学年トップの座にいる。
俺はそれを利用してアイツに勝つ。そしたら俺達の机は――」
システムデスクだ!
雄二は、そう高らかに宣言した。
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