我が道を進め! | ナノ


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1階にある保健室に、アスカの家繋がりで知り合いの、凄腕の医者がいる。
治せない病気は無く、どんな怪我さえ跡を残さず綺麗に消せると有名。
知る人ぞ知るその人は、静かに“ホワイトジャック”と呼ばれてるらしい。


「おーい、白亜ー。いるかー?」

「…なんだ、お前等か」


それがこの人、花柳園かりゅうえん 白亜はくあ
不思議と言うか、珍しい名前だけど、本人曰く本名らしい。
煙草とお酒とお金が好きで、若干目がイッちゃってる人だけど、かなり腕がいいのは僕でも分かる。
アスカは小さい頃から知り合いで、病気になった時はいつも白亜に頼んでたって言ってた。
僕も何度もお世話になっている専属医である。


「私等で悪かったな。手、怪我したから手当てしてほしいんだけど」

「診せろ。……なんだこれ、何したらこんな血が滲むんだよ」

「ちょっと校舎の壁をブッ壊した」

「何をやってるんだお前…。ドMだったのか?」

「違ぇよ。偶々やらなきゃいけない場面だったの」

「あのね白亜。これにはちょっと僕も関わってて…」

「ふーん。ま、とりあえず薬塗って湿布を貼って包帯巻くな」


白亜は慣れた手つきで治療をしていく。
うん、改めて見ると更に痛々しい。よくこんなになるまで我慢出来るよねぇ。


「壁をブッ壊したって…素手で?」

「召喚獣だよ。この傷はフィードバックで出来たみたい」

「アスカ、フィードバック遮断機作ってただろ」

「だから骨折してないんだろ。遮断機付けてなかったら今頃骨がボキボキになってる」

「それもそうか。……ほら、出来たぞ。あと風呂上がりにこの薬を塗って包帯巻け。アスカなら2日で治る」

「サンキュ。助かる」


アスカは結構傷の治りが早い。昔から鍛えてたっていうのもあるみたい。
白亜が言うから、間違いないだろう。


「今回、治療費は?」

「あー……酒代欲しいから、明日までに10万くれ」

「そんなに飲むなよ」

「白亜、アルコール中毒になるよ…?」

「給料日前で金が無いんだよ…もう1週間も酒飲んでねぇから死ぬ…。それに、アタシは金にならない仕事はしねー主義だ」

「はぁ…。分かった、10万な。ったく、教師が生徒に金せがむなんて無いぞ」

「そこはアレだ、アスカ相手だから」

「全っ然嬉しくねーな」


普通ならば有り得ない光景だけど、これは僕達の前での態度だ。ここの居るのが一般の生徒ならお金を請求したりしない。
今も言った通り、アスカ相手だからしていること。それをアスカが受け入れているのも、僕達の間では普通のやり取りだ。指定された金額を了承してポンッと出せるのも、アスカだからと言える。
ホワイトジャックは優秀だけど、その実ニコチンとアルコールとお金が大好き。治療費は目玉が飛び出る様な金額を要求する。
その分腕は確かだから、お得意様は沢山居るらしい。
……そんな、世界でも静かに有名な医者が文月学園の保険医をしているのか、ちょっと不思議だけど訊けない。多分、ニヤリと意地の悪い笑みを向けられて終わりだ。


「……そういえば」

「ん?」

「Aクラスとはやったのか?」

「今日Bクラスを倒して…次だね」

「そうか」

「試召戦争に興味があんのか?珍しいな」

「違う。Aクラスに面白い奴が来たんだ」


面白い奴…?転校生かな。
Aクラスってことは、次の試召戦争で戦うかもしれないんだ。


「面白いって、どれくらい?」

「かなり。会ったら驚くぞ」

「……楽しみにしとく。そんじゃ、私等帰るな」

「ああ。お大事に」

「じゃあね、白亜」


どんな子が来たんだろう。白亜が目を掛けるなんて、それこそ珍しいし。
僕等が会ったら驚くって…。そんなに凄い顔でもしてるのかな。
何にせよ、明日が楽しみになった。


「……ねぇ、アスカ」

「ん?どーした?」

「…ありがと、助けてくれて」

「……見に覚えが無いんだけど」

「じゃあ、そのまま聞いて。
……携帯の番号見せられて、背筋が凍るのを感じたの。またあの空間に閉じ込められるのかと思うと、怖くて。どうしようも出来なくて、訳が分からなくなって。
だから、助けてくれた時、凄く嬉しかったよ」

「…そっか」

「アスカは、いつも助けてくれるよね」

「そうかぁ?」

「うん。『助けて』って言った時は絶対助けてくれるし。そうじゃなくても、名前を呼んだら来てくれるよ」

「和樹の声はよく通るからな。聞き取り易い」

「それに、困ってたら手を差し伸べてくれる」

「…仲間なんだから、当たり前だろ」

「アスカは、仲間に優しいね」

「…………そうか」

「うん。だから、ありがとう」

「どういたしまして」


また困った時は、助けを呼ぶよ。
昔からメチャクチャで、バカで、明るくて元気で。
それで人一倍、仲間思い。
一度身内と認めたらかなり甘くなるアスカのこと、一番見てきた僕だから、ちゃんと言うよ。
……ありがとう。アスカ。



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