我が道を進め! | ナノ


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「3人とも、本当にやるんですか?」


場所が変わってDクラス。私と明久は美波と向き合っていた。
召喚獣勝負の立会人として呼ばれた英語担当の遠藤先生が問いかけてくる。


「はい。もちろんです」

「このバカ達とは一度決着をつけなきゃいけなかったんです」

「それはこっちの台詞だ」

「でも、それならDクラスでやらなくても良いんじゃないですか?」


確かにそうだ。
今、この場にはFクラスの面々しかいない。
喧嘩をするなら自分達のクラスでやった方が良いと思うだろう。


「仕方ないんですよ。このバカ達、観察処分者だから、ボロいFクラスだと教室がもたないんです」

「もう一度考え直しては?」

「いえ。やります。彼女には日頃の礼をしないと気が済みません」


明久がキッパリと言い切った。
遠藤先生は大きく息を吐きながら「分かりました」と言い、少し距離を取る。


「お互いを知るために喧嘩をするというのも、教育としては重要かもしれませんね」


まぁ実際、私と雄二はそうやって友達になったからな。
それは置いといて、――作戦開始だ。


「「「試獣召喚サモン!」」」


声と共に幾何学模様の魔法陣が現れ、デフォルメされた私達が姿を見せる。
今回武器は使わず、素手だけの勝負になるからホントに根性が必要だな。


「行けっ!」


まず明久から美波へと一閃……けどそれはかわされて、拳は壁に衝突した。


「ぐ…っ!」


明久にフィードバックが来たな。
私は独自に開発した『フィードバックを6割遮断する腕輪』があるけど、明久はフィードバックがそのまま来る。
出来る限り私が攻撃しねぇとマズイ…!


「行くぞ美波!」


攻撃を繰り出すも、ヒラリとかわされて壁に衝突。
瞬間、ビリビリと教室が揺れた。
手が若干痛いけど、これくらい明久に比べれば…!


「つぅ……っ!」

「く、っそ…ッ」


続けざまに壁を殴るけど中々上手くいかない。
手が痺れてきた…。


「アキ、アスカ、時間がないわよ」

「おう、りょーかい!!」


美波の言う通り、現在時刻は午後2時57分。作戦開始まで、残り3分しかない。


「お前らいい加減諦めろよな。昨日から教室の出入り口に人が集まりやがって。暑苦しいことこの上ないっての」


壁越しから、姑息ヤローの声が聞こえる。


「どうした?軟弱なBクラスの代表サマはそろそろギブアップか?」


これは雄二の声だ。瑞希も和樹も、私達のお願いで戦わせられないから、本隊まで出ることになったんだろう。
ごめん、無理難題押し付けたの、こっちもだったな。


「うりゃあ!!」

「らぁっ!」


その間にも攻撃を続けるけど、全て壁に当たった。


「はぁ?ギブアップするのはそっちだろ?」

「無用な心配だな」

「そうか?頼みの綱の姫路さんと日向さんは不調で、不良もここにいないじゃないか」

「不良はアスカのことか?……アイツ等は、お前相手じゃ役不足だからな。休ませておくさ」

「けっ!口だけは達者だな。負け組代表さんよぉ」

「負け組?それがFクラスのことなら、もうすぐお前が負け組代表だな」


もう何回殴ったか分からない。明久はフィードバックの所為で手から血が出て、床に小さな血溜まりが出来ていた。
そう言う私も、もう手の感覚が無い。
それでも、攻撃する手を止めるワケにはいかない。


「……さっきからドンドンと、壁がうるせぇな。何かやってるのか?」

「さぁな。人望のないお前に対しての嫌がらせじゃないのか?」

「けっ。言ってろ。どうせもうすぐ決着だ。お前ら、一気に押し出せ!」

「――態勢を立て直す!一旦下がるぞ!」

「どうした、散々ふかしておきながら逃げるのか!」


「…ッ、明久」

「うん、大丈夫だよ」


周りにいる奴等ともアイコンタクトを交わす。
全員、何も言わずに頷いた。


「吉井君、神凪さん、島田さん。貴方達は何をしようとしているのですか?」


唯一状況を理解出来てない遠藤先生が私達を交互に見る。
今は説明する時間が惜しい。召喚フィールドを消される前に、さっさと決着をつけないと。


「あとは任せたぞ、明久!アスカ!」


おう、任せろ雄二。
現在時刻午後3時ジャスト。ミッション――スタート。


「「だぁぁーっしゃぁーーっ!!!」」


私達の目的はただ一つ。
Bクラスに繋がるこの壁を、破壊することだ。
『観察処分者』である私と明久じゃないと、物理干渉が出来ない……。けど、「壁を壊すので召喚許可を下さい」なんて言ったって、教師が首を縦に振るワケがない。
だから美波に協力してもらった。遠藤先生優しいからね。乗ってくれるって信じてたぜ。


「ンなっ!?」


破壊した壁の向こうに、驚愕に満ちた姑息ヤローの顔が見えた。
テメェにはデカい借りがあるからな。これくらいで終わると思うなよ。
大きく息を吸って、叫ぶ。


「くたばれ根本恭二ぃいいい!!!」

「遠藤先生、Fクラス島田が――」

「Bクラス山本が受けますっ!」


チッ!近衛部隊か!
ここから姑息ヤローのところまで距離がある上に完全に囲まれた。早くコイツ等なんとかしないと…!


「は、ははっ!驚かせやがって…!残念だったな!お前らの奇襲は失敗だ!」


嘲笑っても動揺がバレバレだぞ。
と言っても、あの姑息ヤローの言ってる通り奇襲は失敗。恐らくBクラスの近衛部隊を片付けてる間に雄二がやられるだろうな。

……ここでかなーり話が変わるけど、読者の皆さんは教科ごとには特性があることをご存じだろうか。
各教科にはそれぞれ担当教師がいて、実はその教師によってテスト結果にも特徴が現れる。
例えば、数学の木内先生は採点が早い。
世界史の田中先生は点数の付け方が甘い。
今いる英語の遠藤先生は、多少のことなら寛容に見逃してくれる。私や明久を始めとするFクラスの面々にも△を付けて点数をくれるくらいだ。だから私はこの先生かなり好きなんだけど。

まぁ、そんな中で…保健体育はどうだろうか。
保健体育は、点数の付け方も普通だし、採点の早さも周りと変わらない。遠くにいる相手に戦闘を仕掛けられるなんて言うビックリなことも出来ないし、召喚を制御しやすいというワケでもない。
保健体育という教科の特殊性。それは、担当が体育教師であるが故の――。


「……Fクラス、土屋康太」

「き、キサマ……!」


並外れた行動力。
窓から現れた体育担当の大島先生と康太に驚く姑息ヤローは、もう余裕が無い。


「……Bクラス根本恭二に保健体育勝負を申し込む」

「やれ、康太!!」


近衛部隊は私達と戦闘中、つまりアイツは裸も同然だ。
汚い手段も使えないし、逃げる場所も無い。


「……試獣召喚サモン


【保健体育】

Bクラス
根本恭二 203点
    VS
Fクラス
土屋康太 441点


康太の小刀による一閃が姑息ヤローの召喚獣を切り裂く。
私も周りにいた近衛部隊を一撃で殲滅。
これにより、Bクラス戦はFクラスの勝利で幕を閉じた。



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