我が道を進め! | ナノ


▼ 3

戦況もある程度落ち着いたから、僕とアスカは教室に戻ってきた。


「…何、これ」


見るにも無残な卓袱台や座布団、鉛筆に消しゴムなど。
穴が開けられ、切られ、折られている。
誰かがFクラスで暴れたのは明白だった。


「おいおい、どうしたんだよこれ」

「根本君だ…」

「根本?誰だそれ」


アスカが明久君に聞くと、そう呟いた。


「Bクラスの代表じゃ。噂くらいは聞いたことあるじゃろ?」

「あー、何かセコイ技を平気で使うとかなんとか…」

「でも、これは流石に……」

「うむ。このままでは点数に影響が出てしまうのじゃ」

「面白くねーな、案外。もうちょっと頭の使える奴だと思ってたぜ。
こんなの小学生だって思い付く嫌がらせだ。ったく、悪戯なら命掛けるぐらいのことやろーぜ。例えば爆弾仕掛けるとか」

「それは悪戯じゃなくてテロでしょ!?」


それと、悪戯に命なんて掛けなくていいから!


「あまり気にするな。修復に時間はかかるが、作戦に大きな支障はない。……アスカ」

「ん、ちょっと待ってろ」


アスカは懐から四次元ハンカチを取り出すと、バスタオルくらいの大きさにして畳に広げた。
この四次元ハンカチ、いつもはハンカチの大きさでにしてるけど、幾らでも大きく出来る代物らしい。
まぁ、ハンカチの中に四次元が広がってるって言うのも凄い話だよね。


「えーと、確かこの辺りに……お、あったぜ」


ハンカチの面から取り出したのは卓袱台。
その他にも座布団、筆記用具が次々に出て来る。


「よし、これだけあれば十分だろ」

「助かった。ありがとな」

「おう」

「それはそうと、どうして雄二は教室がこんなになっているのに気づかなかったの?」

「Bクラスが協定を結びたいという申し出があってな。調印の為に教室を空にしていた」

「協定?そんなことを、わざわざ向こうから?」


だって敵でしょ。それに教室をここまでボロボロにする人がそんなものを結ぼうだなんて、幾らなんでも怪し過ぎる。胡散臭いなぁ。


「ああ。四時までに決着がつかなかったら戦況をそのままにして続きは明日午前九時に持ち越し。その間は試召戦争に関わる一切の行為を禁止する。ってな」

「まさかそれ、受けたのか?」

「そうだ」

「そ、それって結構危ない橋なんじゃ…」


例の根本君は、大層評判が悪いことで有名だ。

テストではカンニングの常連。
目的のためなら手段を選ばず、球技大会のときに相手チームに一服盛ったり。
喧嘩に刃物はデフォルト装備とか。

アスカだって喧嘩はするけど、ほとんど武器は使わない。
使っても、命には関わらないものばかりだ。


「ケンカの礼儀がなってねーな。刃物使うのは弱いヤツの姑息な手段だぜ」

「それじゃあ、体力勝負に持ち込んだ方がウチとしては有利なんじゃないの?」

「無理だろ。私等ならともかく、瑞希は体力が無い。その上、常に最前線でやってるんだ。最後まで持つワケが無い」


瑞希ちゃんのことだ。ここで無理をすれば、体調を崩しちゃうだろう。
そうなればAクラス戦にも影響が出てしまう。
これからのことを考えれば、引き延ばすことは良いかもしれない。


「あいつ等を教室に押し込んだら今日の戦闘は終了になるだろう。そうすると、作戦の本番は明日ということになる」

「そうだね。この調子じゃ本丸は落とせそうにないね」

「落とす場合には僕と瑞希ちゃん、アスカの個人戦になっちゃいそうだもんね」

「だから雄二は受けたの?アスカ達が万全の態勢で勝負できるように」

「そういうことだ。この協定は俺達にとってかなり都合が良い」


でも、これで更に根本君が怪しい人に思えてきた。
協定を結ぶなら、教室をここまで破壊する必要は無い筈。
罪悪感?ううん、明久君の話を聞く限りだと、そんなことを考える人じゃなさそうだし。


「明久、アスカ、和樹。とりあえずワシらは前線に戻るぞい。向こうでも何かされてるかもしれん」

「ん。雄二、あとよろしく」

「おう、頼むぞ」


考えても仕方ないよね。
そう思いながら、4人で廊下を走る。
幾ら考えても答えらしい答えも見つからないし。証拠が少なすぎる。
今は前線に行って戦ってた方がいいね。


「吉井達!戻ってきたか!」

「待たせたね!戦況は?」

「かなりマズいことになっている」

「なにかあったの?」


向こうから本隊が出て来ている訳でもなさそうなのに。
いったい何があったの?


「島田が人質に取られた」

「なっ!?」

「ええ!?」

「流石姑息ヤロー。やること成すこと外道だな」


悪役の王道、人質。
アニメや漫画で出る…それこそ今なら幼稚園ぐらいの子だって知ってる技だ。


「おかげで相手は残り二人なのに攻めあぐねている。どうする?」

「……そうだね。とりあえず戦況が見たい」

「了解した。それなら前に行こう。そこで敵は道を塞いでいる」


須川君について行くように、僕等は人混みを掻き分ける。
前線部隊を抜ければ、そこには2人の男子と美波ちゃんがいた。


「島田さん!」

「よ、吉井!」

「大丈夫?美波ちゃん!」

「和樹、アスカも!」

「おう!待たせたな!!」


ちょっと昔のドラマ的な雰囲気が流れ出す中、Bクラスの男子が大声を張り上げた。


「そこで止まれ!それ以上近付くなら、召喚獣に止めを刺して、この女を補習室送りにしてやるぞ!」


足元を見れば、美波ちゃんの召喚獣が捕まっている。
成程、戦死されるだけじゃない。補修室送りをチラつかせることで戦意を無くしているんだ。
どうしよう、これじゃ身動きが――


「総員突撃用意ぃーっ!」

「えぇぇえええ!!??」

「隊長それでいいのか!?」


よくない!全くよくないよ!!
状況を見て!美波ちゃんだよ?捕まってるんだよ!?


「話聞いてた!?」

「安心しろ和樹。私なら5秒で潰せる」

「どこを安心しろと!?」

「ま、待て、お前ら!」


敵がストップを掛けた。そうだよ、こんなのはおかしいって言ってあげて!


「コイツがどうして俺達に捕まったと思っている?」

「馬鹿だから」

「殺すわよ」

「み、美波ちゃん落ち着いてー!!」


美波ちゃんから凄い威圧感が出てるーー!


「コイツ、お前らが怪我をしたって偽情報を流したら、部隊を離れて一人で保健室に向かったんだよ」


一途な美波ちゃん。きっと僕等が心配だったんだ。


「……美波」

「な、何よ」


心成しか、顔が赤くなっている。


「可愛いなぁ」

「はぁ!?」

「騙されないでアスカ!その島田さんは偽物だよ!」

「アンタは何を言ってんのよ吉井!!」

「あの島田さんがこんな女の子らしく僕達のことを心配してくれるはずがないじゃないか!本当の島田さんなら、追い討ちをかけるぐらいはしてくるはずだよ!!」

「…………」


いきなりの発言に、周りは静かになってしまった。
あのアスカも、思わずポカンとしていた。
が、すぐに気を取り直した。


「そうか!あれは偽物なのか!」

「…は!?ちょ、何言ってんのアスカ!あれはどこからどう見ても美波ちゃんじゃん!!」


明久君に続いて、このバカは何を言ってるの!?


「よく見ろ和樹!あの胸の無さを!
あれは男子が女装しているからこそのペッタンコだ。あの真っ平らな地平線!男子じゃなかったらどうやって再現するんだ!!
いや、私はペッタンコも好きだけどな!可愛ければそれでいいけどな!!」

「そうだよ和樹!早く本物の島田さんを助けないと!
幾ら馬鹿で暴力的だからって、ちゃんとFクラスの戦力なんだから!!」

「いや君等が目を覚まして!どうやったらそういう考えに至るのかな!?失礼過ぎるでしょバカにし過ぎだよ!!
特にアスカは変態臭が漂ってくるから少し自重して!!」

「………」


必死に反論してるけど、暴走してるバカには話が通らない。
敵に捕まっている美波ちゃんはプルプルと震えている。
ああもうしょうがないなぁ!!


「いきなりだけど試獣召喚サモン!」

「はぁあああ!?」


【英語】

Bクラス 
鈴木二郎  33点
吉田卓夫  18点
    VS
Fクラス 
日向和樹  540点


「ぎゃあぁぁー……!」

「たすけてぇー……!」


英語は僕の得意教科。
勝負を一瞬で片付ける。最初からこうすれば良かった。


「美波ちゃん、無事?」

「ありがと和樹。助かったわ。――さて」


そして、これによって起こる展開が。
簡単に想像出来てしまった。


「「(ビクッ!!)」」

「吉井、アスカ」

「は、はい」

「ナンデゴザイマショウカ」

「歯を食いしばりなさいッ!」


目の前で始まる一方的な虐殺。
公開処刑が行われた。



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