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なんとか秀吉の意識を取り戻させて、お茶を飲ませる。
お茶には殺菌作用とかがあって、体に良い要素が詰まっているからな。
そのお蔭か、秀吉の顔色も真っ青から徐々に戻って行った。
「ねえ、坂本。どうして次はBクラスなの?目標はAクラスでしょう?」
美波が雄二に問いかける。
因みに、美波は手を洗いに行って(舞台から退場させて)いた為、ご飯を食っていなかった。
流石に年頃の女の子が昼食何も食べずに午後を過ごす…なんて無茶にも程があるから、今は私の四次元ハンカチから出した昨日の夕食の残りを食べている。
四次元ハンカチには冷蔵庫も完備されてるからな。便利だ。
「正直に言おう。どんな作戦でもうちの戦力じゃAクラスに勝てない」
神妙な面持ちで雄二は答えた。
まあ、ハッキリ言えば当たり前なことで、最初から分かっていることでもある。
振り分けテストでバカな点数を取ったからこそ、最低のFクラスに居て。
逆に、良い点数を出したからこそ、Aクラスの人間は良い授業環境を提供してもらえるんだから。
振り分け試験で優秀な成績を収めた上位50人。それは、『Bクラスに毛が生えたような40名』と、『次元の違う10名』で構成された、色々凄いクラスだ。
上位10名は文字通り点数の桁が違う。たった10人で、Aクラス全体の約半分……或いは、それ以上の戦力を担っていると言っても過言じゃないからなぁ。
特に学年主席はヤバい。死ぬ。
瑞希も多分適わない。和樹だって適うかどうかギリギリかも。
「それじゃ、ウチ等の最終目標はBクラスに変更ってこと?」
「いいや、そんなことはない。Aクラスをやる」
「雄二君、さっきと言ってることが違うよ」
「いや、違わないよ。和樹」
「え?どゆこと?」と首を傾げる和樹。こりゃあ、明久とかも分かってないな。
私は雄二に代わって説明する。
「さっきのは、Aクラス対Fクラスの場合の話だ。雄二の言う通り、クラス単位じゃ絶対勝てない。
だから一騎打ちにでも持ち込むんだよ。例えばそうだなー……Bクラス辺りを使って」
「やれやれ。アスカにはお見通しか」
「ふふん。何年一緒にいると思ってんの。これでも私等全員、長い付き合いじゃん」
ニヤリと笑う。ふはは。雄二の考えなんてすぐに読めるさ。
和樹も「あ、そっか」と納得しているようだ。
「え、え?ちょっと、僕にも説明してよ」
「明久君、試召戦争で下位クラスが負けた時、設備がどうなるか知ってる?」
「え?も、もちろん!」
「嘘吐けバカ」
明らかに目が泳いで動揺してる。
バカに助け船を出す瑞希。本当に優しいな。
「設備のランクを落とされるんだよ」
「うん。例えばBクラスならCクラスと同じ設備に落とされるの」
「そうだね。常識だね」
「人に教えてもらった癖に自分の手柄として言うなよ」
仕方ないから見逃すけど。
そして、今度は雄二が質問する。
「じゃあ明久。上位クラスが負けた場合は?」
「悔しい」
「ムッツリーニ、ベンチ」
「ややっ。僕を爪切り要らずの身体にする動きがっ」
「んじゃ私はバリカンでその髪の毛を全て剃り上げてハゲにしてやろう」
「酷い!これ以上僕に何かしないで!」
「相手クラスと設備が入れ替えられちゃうんですよ、吉井君」
瑞希マジ優しい。また助け舟出してるし。
「つまり、僕達に負けたら最低の設備に替えられるんだよ。そして、そのシステムを使って交渉するってワケ」
「交渉、ですか?」
「Bクラスをやったら、設備を入れ替えない代わりにAクラスへと攻め込むよう交渉する。
設備を入れ替えたらFクラスだが、Aクラスに負けるだけならCクラス設備で済むからな。まず上手く行くだろう」
「それをネタに、Aクラスに交渉すんの。『Bクラスとの戦いの直後に攻め込むぞ』ってね」
私と和樹と雄二の説明で、明久を含む全員が理解したらしい。
Bクラスの実力とそれほど変わらない人がAクラスに40名いる。
壊滅的なダメージがある中で、少なくとも瑞希を相手にはしたくないだろ。
「ということで明久、今日のテストが終わったら、Bクラスに宣戦布告してこい」
「断る。雄二が行けばいいじゃん」
二回目は無理か?警戒しまくってんぞ。
「そうか、ならジャンケンできめるか?」
「ジャンケン?………OK。乗った」
何か考えてたみたいだけど、マジでバカだ。明久。
ちょっとは察しろよ。雄二だぞ?悪名高い元・神童。作戦に関しては頭の切れるコイツが出した案に、すぐ乗っかるとか。
「ただのジャンケンじゃつまらないし、心理戦有りでいこう」
「わかった、僕はグーを出すよ」
「そうか、なら俺は――――お前がグーを出さなかったらブチ殺す」
負ける確率100%になるんだから。
「行くぞ、ジャンケン」
「わぁぁっ!」
雄二→パー、明久→グー
「決まりだ、言って来い」
「絶対に嫌だ!」
「Dクラスのときみたいに殴られるのを心配してるのか?それなら今度こそ大丈夫だ保証する」
その根拠の無い自信はどこから出てくる。
「なぜなら、Bクラスは美少年好きが多いらしい」
「そっか。それなら確かに大丈夫だね」
「何でその結論になるの…」
和樹のツッコミは弱々しくなっていた。
しっかりしろ。このメンツだと和樹くらいしかツッコミいないから。
「でも、お前ブサイクだしな……」
「失礼な!365度どう見ても美少年じゃないか!」
「明久君。円の角度は360度だよ」
「5度多いな」
「実質5度じゃな」
「1度でもあれば奇跡だな」
「3人なんて嫌いだ!!」
そう言いながらも、明久はBクラスの方へ駆け出して行った。
――裁縫道具、用意しといた方がいいかもな。
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