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「(明久、今度はお前がいけ!)」
「(む、無理だよ!僕だったらきっと死んじゃう!アスカがいきなよ!!)」
「(ふざけんな!私は一回食ってんだぞ!?また口にしたら次こそ天に召されちまうっての!!
それに私と和樹は昨日の夕食を詰め込んだ美味しいお弁当があるからそっちを食う!)」
「(テメェ…!)」
「(流石にワシもさっきの姿を見ては決意が鈍る……)」
「(雄二がいきなよ!姫路さんは雄二に食べてもらいたいはずだよ!)」
「(そうかのう?姫路は明久に食べてもらいたそうじゃが)」
「(秀吉、それは幻想なんだ!もっと乙女心を分かるべきだよ!)」
「(瑞希ちゃんの態度を見てる限り、明久君が気になるみたいだけど…)」
「(和樹も!?)」
和樹は職業柄、立ち振る舞いや仕草、喋り方でなんとなくだが相手の考えてることが分かるらしい。
演技というのでは秀吉と共通点があるらしく、意見が合うのは珍しくない。
因みに、私も和樹と同意見だ。
「(いや、わかってないのはどちらかというとお前の方だと――)」
「(ええい、往生際が悪い!)」
痺れを切らした明久が、行動に出た。
「あっ!姫路さん、アレはなんだ!?」
「えっ?なんですか?」
明久が指したのは、何もない青空。それを瑞希は不思議に思うことなくじっと見つめる。
誰でも分かる、時間稼ぎだ。
「(おらぁっ!)」
「(もごぁぁっ!?)」
大量に残っているお弁当を雄二の口に無理矢理押し込む。
それプラス、強制咀嚼。良い子の皆はマネしないでね!
「(ふぅ、これでよし)」
「(……お主、存外鬼畜じゃな)」
そこは気にしたら負けだ。
雄二は先程と比べ物にならないほど震えている。
が、無視。後で蘇生はしてやるよ。
「ごめん、見間違いだったみたい」
「あ、そうだったんですか」
流石純粋瑞希。引っかかってくれて有難う。
「お弁当美味しかったよ。ご馳走様」
「うむ、大変良い腕じゃ」
「腕を上げたなぁ」
「ご馳走様!」
嘘は、言ってない。
だって事実、瑞希の料理の腕は上がってた。嫌な方向に。
「早いですね。もう食べちゃったんですか?」
「ああ。雄二が『美味い』って言いながらすごい勢いで」
首を振ってるが、もう少し我慢してくれ。
「う……うぅ……。あ、ありがとうな、姫路……」
目が死んでるな。すぐに蘇生しないと。
四次元ハンカチの中から小型のスタンガンを取り出し、瑞希にバレないように腹に当てた。
知り合いから貰ったこれは超高性能に出来ていて、光らない上に音も静か。
便利だから愛用させてもらっている。
「…………ッ!」
「(大丈夫か?ちゃんと現世に留まったか?)」
「(助かった…礼を言う)」
「(そりゃよかった)」
腹に当てたことで活性化させ消化を良くし、意識を戻らせる。
これまた知り合いに教えてもらった。あんまりやらない方がいいぞ。
良い子はマネしないでね☆
「そういえば、美味しいって噂の駅前の喫茶店を知ってる?」
明久が話題を逸らしにかかった。
これ以上下手に褒めて「それじゃ、また作ってきますね」なんてことになったら大変だ。
ナイス判断!
「ああ、あの店じゃな。確かに評判が良いな」
「え?そんな店があるんですか?」
「確かクレープとかが美味しいんだって。この間僕もマネージャーさんに教えてもらった」
「今日のお礼に雄二が奢るってよ」
「てめ、勝手なことを言うなっての」
よし、作戦成功。上手く逸らせた。
取りとめなく、ほのぼのとした会話と時間が流れていく。
「あ、そうでした」
そこで瑞希がポン、と手を打った。
「どうした瑞希?」
「実はですね――デザートもあるんです」
「「ああっ!姫路さん/瑞希、あれは何だ!?」」
「止めろお前等!次は俺でもきっと死ぬ!」
アイコンタクトを交わすまでもなく、私と明久で雄二を囮にしようとするが、命がけで止められた。
くそ、反応がいいヤツめ。
「(明久!アスカ!俺を殺す気か!?)」
「(仕方がないんだよ!こんな任務は雄二にしかできない!ここは任せたぜっ)」
「(大丈夫!例え死んでも生き返らせてやるから!知り合いに頼んで!)」
「(雄二君ならきっと帰って来れるから!)」
「(馬鹿を言うな!そんな少年漫画みたいな笑顔で言われてもできんもんはできん!)」
「(このヘタレ!)」
「(意気地無しっ!)」
「(そこまで言うならお前等にやらせてやる!)」
「(なっ!その構えは何!?僕達をどうする気!?)」
「(拳をキサマ等の鳩尾に打ち込んだ後で存分に詰め込んでくれる!)」
「(はっ。上等だ!私に適うと思うなよ雄二!)」
「(そうだそうだ!)」
「(まずは明久を倒せ!!)」
「(えぇ!?ちょっとアスカ!ここで僕を売るの!?)」
「(明久君のこと、僕忘れないから…!)」
「(和樹まで!?)」
「(遺言は以上か?じゃあ、歯ぁ食いしばれ!)」
「(いやぁー!殺人鬼ーー!)」
雄二が拳を握り、私と和樹が明久を盾にして肉弾戦になるというところで、秀吉が立ち上がった。
「(……ワシがいこう)」
「(秀吉!?無茶だよ、死んじゃうよ!)」
「(秀吉君、早まらないで考え直して!)」
「(あんな危険なモノ、お前が無理する必要は無いんだぞ!?)」
「(俺のことは率先して犠牲にしたよな!?)」
当たり前だろ。雄二と秀吉じゃ重要度とか人間の価値が遥かに違うんだから。
何より可愛いし!ここが一番重要だ!
「(大丈夫じゃ。ワシの胃袋はかなりの強度を誇る。せいぜい消化不良程度じゃろう)」
「(た、確かにそうかもしれないけどっ。僕は秀吉君にやってほしくないよ!)」
「(和樹…)」
けど、自称とはいえ毒をも凌駕する鉄の胃袋なら、少しは症状が軽いかもしれない。
ただ、これは完全に私の勘と経験によるものだけど、あのパワーアップした料理はジャガイモの芽よりも危ない気がする。
「どうかしましたか?」
「あ!いや!なんでもない!」
「あ、もしかして……」
もしかして嫌がってるのがバレた!?
「ごめんなさいっ。スプーンを教室に忘れちゃいましたっ」
言われてみれば、テザートであるこれはヨーグルトと果物のミックス(に見えるもの)だ。
箸で食べるには難しいかもな。
「取ってきますね」
スカートを翻し、瑞希は階段へと消えた。
チャンス!!
「では、この間に頂いておくとするかの」
戦場へと向かう兵士のように、秀吉が容器を手に取った。
「……すまん、恩に着る」
「ごめん。ありがとう」
「頑張ってね!」
「その勇姿は忘れない」
いつになく輝いて見えるぞ。
フッと笑いかけ、秀吉は言った。
「別に死ぬわけではあるまい。そう気にするでない」
「そ、それもそうだね!」
「ああ!秀吉、頼んだぞ!」
「うむ。任せておけ。頂きます」
容器を傾けて、一気にかきこんだ。
あれ、でもこれ、ちょっと待って。
アニメとかで、こういう展開するとさ――
「むぐむぐ。なんじゃ、意外と普通じゃとゴばぁっ!」
「死亡フラグ、立つよね」
一輪、命という儚い花が散り、二階級特進となった。
「……雄二」
「……なんだ?」
「……さっきは無理矢理食べさせてゴメン」
「……分かってもらえたならいい」
自称『鉄の胃袋』は瑞希の料理には勝てず、白目で泡を吹いていた。
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