我が道を進め! | ナノ


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天気も良く、貸切状態の屋上。春らしい暖かい風が心地いい。
まあ、目の前に広げられているのは、恐ろしい殺人料理なワケだが。


「あんまり自身は無いんですけど…」

「「「こ、これは!?」」」


彩りとバランスが考えられた四段弁当。
とても美味しそうなそれは、光り輝いている宝箱みたいだ。


「すごいよ姫路さん!!塩と砂糖以外の物が入ってるよ!」

「よ、喜んでもらって何よりです…。
明久君や皆に栄養をつけてもらおうと思って、張り切っちゃいましたっ」

「姫路はいい嫁さんになりそうじゃのう」


それは秀吉もだよ!


「アスカちゃんと和樹ちゃんも召し上がって下さいね」

「きょ、今日は自分でご飯を持参してるんだよ瑞希ちゃん〜」

「そうなんですか?」

「え、アスカ達は食べないの?」


明久。それはとても怖いものなんだよ。
そう言うワケにもいかないから適当に誤魔化す。


「おう。ちょいちょい摘まませてもらうからさ」

「ではお先にこの美味しそうなエビフライを…」


明久が食べようとしたエビフライを、康太が取った。
あ、ちょっと待て早まるな!


「あ、ずるいぞムッツリーニ!!」

「バカ、康太!」

「…………(パクッ)」


ゴッ!!


「「!?」」

「こ、康太君!!」

「わわッ土屋君!?」


やっちゃった……。
瑞希のエビフライを丸ごと食べた康太はビクビクと痙攣を起こしながら倒れた。
これが瑞希の殺人兵器。また腕を上げてないか?


「…つッ、土屋君?」

「…………(グッ)」

「あ、お口に合いましたか?よかったですっ」


多分、「すごく美味しいぞ」って言いたいと思うけどね。
私にはKO寸前のボクサーにしか見えない。
お弁当の冷凍スパゲッティを食べながら思った。


「良かったらどんどん食べてくださいね」


天使の笑顔で悪魔のようなことを言う瑞希。
殺人兵器を作るのが上手いなぁ。


「(秀吉。あれ、どう思う?)」

「(……どう考えても演技には見えん)」

「(だよね。ヤバいよね)」

「(あ、忠告しとくぞ〜)」

「(アスカ!)」

「(私と和樹は一年の時に瑞希の弁当を食べたことがあるけど……


その時、綺麗な川とお花畑が見えたのを覚えてる)」


そう言うと、明久と秀吉の顔が盛大に引き攣った。


「(た、食べたの!?アスカだけじゃなくて和樹まで!?)」

「(うん。凄かったよ、あれ。僕等が食べたのは卵焼きとポテトサラダとスパゲッティだったんだけど…。全部、手作りだったらしくて)」

「(必死に取り繕ったが、その日は午後に早退した)」


結構体は強い方なんだけど、瑞希の料理は駄目だ。もう食べ物じゃない。
本人、自覚も無いから更に性質(タチ)が悪いんだよ。


「(明久。お主、体は頑丈か?)」

「(正直胃袋に自信はないよ。食事の回数が少なすぎて退化してるから)」

「(ちゃんと食べることの有難さを知れ)」

「(アスカだって収入前は変な食生活のクセに…!)」

「(ならば、ここはワシに任せてもらおう)」


秀吉が男前にそんなことを言った。
可憐な花が散ってしまうッ!


「(秀吉君駄目だよ!あれは食べ物に仕込む毒程度じゃ収まらない、大量殺人兵器だよ!?運が悪ければ本当に…!)」

「(大丈夫じゃ。ワシは存外頑丈な胃袋をしていてな。ジャガイモの芽程度なら食ってもびくともせんのじゃ)」


ジャガイモの芽は有毒だ。
確か吐き気や眩暈、下痢、腹痛なんかを引き起こし、最悪死ぬぐらい有毒だったか。


「(安心せい。ワシの鉄の胃袋を信じて――)」

「(ひ、秀吉…!)」

「(秀吉君っ)」


まるで死亡確定の戦場に一人の兵士を送り込むみたいだ。
助けてやりたいが、私もあの殺人兵器は食べたくない!
何か、何か策は――?


「おう、待たせたな!へー、こりゃ美味そうじゃないか。どれどれ?」


いいところに馬鹿が来た。
って、そうじゃない!


「雄二、ちょっと待――」


止める声も聞かず、そのまま卵焼きを口に入れた。

パクッ
バタン――ガシャンガシャン、ガタガタガタガタッ

ああ、終わったな雄二。
康太と同じような行動(症状?)が出て、そのまま石で出来た屋上の床に顔面を叩きつけた。
未だに痙攣しているということは、あの卵焼き、レベルアップしてるな。


「さ、坂本!?ちょっと、どうしたの!?」

「み、美波ちゃん」


ジュースを持って駆け寄る美波。
そんな美波を置いて、雄二は私達を恨むように睨んできた。


「(毒を盛ったな)」

「(毒じゃないよ、姫路さんの実力だよ)」

「(ごめん、私と和樹は瑞希の手料理を去年から知ってた。で、食った経験有り)」

「(どうしても言い出せなくて…)」


さっきの秀吉と同様、アイコンタクトと数回の小言だけで会話をする。
まあ、付き合いは長いからな。非常事態では役に立つ能力だけど、こんな時には使いたくなかった。


「あ、足が……攣ってな……」


痙攣が収まらない体に鞭を打ち、なんとか起き上がる。
ナイスファインプレー!


「あはは、ダッシュで階段の昇り降りしたからじゃないかな」

「柔軟はやっといた方がいいぞー、雄二」

「き、気を付ける……」


もっとも、気を付けたって防げないけどな。
内臓って、どうやって鍛えるんだろ。


「そうなの?坂本ってこれ以上ないくらい鍛えられてると思うけど」

「鍛えてるからこそ攣るんだよ。筋肉が引っ張られてるから、マッチョの人ほど攣った時の痛みはすごいんだと思うよ」

「へぇ。和樹、よく知ってるわね」

「昔、細いマッチョの人とアニメで共演したことあるから」


和樹がにこにこと笑顔で会話をしているけど、あれは演技だ。
内心、冷や汗でバクバクだろう。
美波が疑ってるから、気を逸らそうとしているんだ。


「あ、島田さん。今手をついているあたりに虫がいたみたいで、潰しちゃってるんだよね」

「えぇっ!?早く言ってよ!」

「一応、手を洗ってきた方がいいよ?」

「そうね、ちょっと行ってくる」


これで危険は回避された。
女の子に殺人兵器を食べさせるワケにもいかないし、かと言って余計なことを言われても困る。
瑞希は傷つきやすいからなー。


「島田はなかなか食事にありつけずにおるのう」

「全くだね」


あははははは、と笑う。
ヤバいのは、私等だというのに。



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