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和樹side.
戦争が始まったみたい。扉の向こうから、ドダドタと騒がしい音が聞こえる。
僕とアスカは今回のDクラス戦では戦わないみたい。
「なあ雄二。ヒマ」
「我慢しろ。お前、漫画やらゲームやらはどうした」
「んなモン置いてきた。だって私、昨日から徹夜してたんだぞ?」
「因みに理由は」
「あ〜、ん〜と、あっち方面のことで…」
「そうか。ならしょうがないな」
アスカの“あっち方面”というのは、大方喧嘩のことだと思う。
だってアスカはそれ関係の話は極力学校でしないようにして、必死に逸らすか濁らせようとするから。
もう一つ考えられる理由もあるんだけど、それはもっともっと嫌がるから聞かない。
「って言うか、今回なんとかなるの?私と和樹抜きで戦って」
「問題無い。寧ろこうじゃないと困る」
「え、そうなの?」
「ああ。アスカはもちろん、和樹だってFクラスの切り札だ。下手に見せびらかしても、あまりメリットがない。
お前達の出番はもう少し先だ」
「ああ…僕等の出番早く来ないかなぁ。まだか、まだなんだ…」
普通にじっとしてるのは、アスカ程じゃないけど、それなりにヒマだ。うん。つまんない。
けど雄二君がそう言うなら従うしかないんだよ…。
『さぁ来い!この負け犬が!』
『て、鉄人!?嫌だ!補習室は嫌なんだ!』
『黙れ!捕虜は全員この戦闘が終わるまで補習室で特別講義だ!終戦まで何時間かかるか分からんが、たっぷりと指導してやるからな』
『た、頼む!見逃してくれ!あんな拷問耐え切れる気がしない!』
『拷問?そんなことはしない。これは立派な教育だ。補習が終わる頃には趣味が勉強、尊敬するのは二宮金次郎、といった理想的な生徒に仕立て上げてやろう』
『お、鬼だ!誰か!助けっ――イヤァァーー!!(バタン、ガチャ)』
今の悲鳴は、Fクラスの子だ。ご愁傷様です。南無阿弥陀仏…。
それよりも、あまり戦況はよくないみたい。
「なぁ、雄二――」
「駄目だ」
「まだ何も言ってないじゃん!!疑うのか!?」
「絶対に“参加していい?”としか聞かないだろ。
それに今までの自分を思い出してみろ。疑わない方がおかしい」
「失礼な!私はいつだって自分に正直に生きているだけだ!」
「正直すぎるのも考え物だな」
「でも実際、戦況はよくないよ?」
「それでも駄目だ。明久達が何とかする」
「アイツのことだから、絶対逃げ出すぞ」
流石アスカ。明久君のことをよく分かってる。
僕も同じことを考えていた。
「しかし、アスカの言うことには一理あるな…。よし、横田」
「何だ?」
「明久に伝言を頼む。“逃げたらコロス”と」
「分かった」
「なにサラッと犯行予告してるの!?っていうか横田君も普通に受け答えしてるし!」
そしてそのまま明久君達のところに行っちゃったし!!
「まあ落ち着け和樹。普通のことを言っているんだから普通に答えるのは当たり前だろう」
「そーだよ、どうしたの?」
「いやいやいや!どこが!?どこが普通だと言えるんでしょうか!?」
明久君のことだから、今頃伝言を受けて総攻撃をかけているんだろうな。
だけど、ちょっとかわいそうだよ、これ…。
「まだ戦争は始まったばかりなんだ。相手はそこまで強くない。あいつらならやってくれるさ。
今は動きがあるまで待機だ」
いったいどこからそんな自信が出て来るのか不思議だよ。
僕もアスカも振り分けテストをふざけて受けたから点数はあまりない。
僕は英語ならあるけど、今回の試召戦争では使えないと思うし。
アスカはまんま0点だし。
けど仕方ないから、ここで大人しく待ってよう。
カチカチと携帯をいじる雄二君を横目に、そう思った。
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