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彼女が教室に入った途端に騒がしくなる。
当然だ。普通なら、彼女はここにいない筈の人だから。
そんなことも気にせずに、福原先生は彼女に声をかけた。
「丁度よかったです。今自己紹介をしているところなので姫路さんもお願いします」
「は、はい!あの、姫路瑞希といいます。よろしくお願いします」
ウェーブのかかったピンク色の髪は、瑞希ちゃんの性格をよく表していた。
「はいっ!質問です!」
クラスメイトの男の子が高々と右手を挙げた。
「あ、は、はいっ。なんですか?」
「なんでここにいるんですか?」
少し失礼な言い方かもしれないけど、きっとこのクラスにいる人全員が思っていることだった。
瑞希ちゃんはその可憐な容姿から、男子生徒からよくモテる。
しかしそれだけではなく、ものすごい頭脳を秘めた子だ。
入学してから最初の試験で学年4位を記録し、その後も常にトップ5に君臨していたほどの成績。
誰が予想するんだろう。そんな彼女が、こんな最底辺のFクラスにいるなんて。
絶対に誰もがAクラスにいると言うだろう。
「そ、その……振り分け試験の最中、高熱を出してしまいまして……」
クラスを決める振り分け試験での途中退席は無得点となり、強制的にFクラス行きになる。
瑞希ちゃんはせっかくAになれそうだったのに、Fになってしまったのだ。
「そういえば、俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスに」
「ああ。化学だろ?あれは難しかったな」
「俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出し切れなくて」
「黙れ一人っ子」
「前の晩、彼女が寝かせてくれなくて」
「今年一番の大嘘をありがとう」
どうやら想像以上のバカがたくさんいるみたいです、Fクラス。
「で、ではっ、一年間よろしくお願いしますっ!」
律儀にお辞儀をして席に座った瑞希ちゃんに、僕は声をかけた。
「瑞希ちゃん!」
「あ、和樹ちゃん!よかった。知り合いの女の子が一人もいないと思って心配だったんです!
あれ?でもどうして和樹ちゃんがここに?」
「まあ、いろいろあって…。あ、“あの子”ももうすぐ来ると思うよ」
「…………ヘリの音がする」
「本当か、康太」
康太君は耳がいい。写真を撮るスペシャリストだから、音には敏感じゃないと目標に見つかるらしい。詳しいことは聞いたことないけど。
というか、ヘリの音って…!
「まさか…!」
ガッシャーーン!!
大きな音と共に、後ろの窓ガラスが割れた。
埃が立ち上る中、一人の少女の声が聞こえた。
「ケホッ。う〜ん。ちょっと無理があったか」
それは、僕等が言っていた“あの子”。
黒っぽい紅の髪が風に揺れて、ひらひらとなびく。
「やあ。おはよ〜。皆の衆」
神凪アスカその人だった。
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