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「さて。私等の経緯とこの世界に来た理由は教えたから…残りは所持してるポケモンと何故他のポケモンまで巻き込まれているか。それから、私等が元の世界に帰る方法だな」
「うん」
2人は揃って赤司っちのお母さんお手製のお茶菓子に手を伸ばす。
俺もアスカっちに一つ取って貰って、ムシャムシャと咀嚼した。
流石赤司家のお嫁さんッスね。絶品ッス。
「仲間のポケモンの紹介は最後にして…次は何故他のポケモン達まで巻き込まれているか、かな」
「うーん、…私等が今から言う事は、あくまで推察な。そこんとこよろしく」
「ああ」
詳しくは2人にも分かっていないらしい。
自分だって大変なのに、他のポケモンまで……なんて、出来るもんじゃないッスもんね。
「さっきも言った通り、私等はディアルガ達の暴走によってこっちに迷い込んで来た。んで、こっからが問題なんだが」
「テンガン山っていうのはね、シンオウ地方のほぼ真ん中に連なってるの。その山頂は言わばシンオウ地方の中心部。
そんなところで時空が歪んじゃったから、周りにいたポケモンまで巻き込んでしまった……のではないかと」
「例えば時空の歪みが空高く上がって、反動でポケモンが吸い込まれたとか。時空の歪みがあちこちで起こって、“テレポート”と同じ原理でポケモンがこっちの世界に召喚されたとかな」
「成程、筋は通るな」
「流石に僕達も、異世界に迷い込むなんて体験は初めてだから、予想の範囲を超える事は難しいの。ごめんね」
「いや、構わない。たった数日でそこまで推察が出来ているだけでも充分だ」
確かに凄いッス。ポケモンの力と影響をよく知っているからこそ出来る事。
アスカもカズキもポケモンの知識がかなり豊富で、頭の回転も速いんだと再確認させられた。
「それで、元に戻る方法はあるのか?」
「んー……。ある事にはある。無い事には無い」
「どっちだよ」
「微妙なんだ、方法が。出来ない事はないんだろうけど…やっぱり難しいよねぇ」
「まずステップ1から既に躓くからなぁ…」
「もー、勿体ぶらずに教えてほしいッス!」
「あ、ワリ」
アスカはまたもやお菓子に手を伸ばし、飲み物と一緒に咀嚼した後、再び口を開いた。
「私とカズキが2日間考察した結果、1つだけ方法が見つかった。つか、それしか見つからなかった」
「その方法って?」
「……アルセウスに力を借りて、僕とアスカとポケモン達を、全部元の世界に帰してもらう」
「“アルセウス”…?」
また新しい名前が出て来たッスね…。ポケモンって種類が多くて大変ッス。
「全国図鑑No.493、アルセウス。高さ3.2メートル、重さ320.0キロ。タイプは通常時でノーマル。特性マルチタイプにより、複数のタイププレートを使い分ける事によってタイプを自由に変更出来る。
“何も無い場所にあったタマゴの中から姿を現し、世界を生み出したとされている。”
まぁ、つまり私等の住んでる世界を創った創造神なワケだが」
「またスケールが一段と大きくなりましたね…」
「時間の神に空間の神に破れた世界の神、遂には世界創造の神か……」
「因みに、ディアルガとパルキアとギラティナを生んだのはアルセウスだよ」
「「「ええぇぇええええ!!?」」」
「ついでに言っちまうと、アルセウスは更に後に知識の神と感情の神と意志の神と呼ばれる3体のポケモンを生み出してる。
シンオウ地方には世界創生の神話が山程あって、計7体の神々は切っても切れない縁なんだ」
「…アスカちゃん達の世界は、こんな凄いポケモン達が創ったんだね……」
「規格外の力を持ってるのは人間じゃなくてポケモンだからね。こっちの世界にも世界創生の神話は沢山あるみたいだけど、それは全部人間らしい神々だし」
「それで……その世界を創ったポケモンに助けてもらえるのか?」
「………………」
「アスカっち?」
「それが問題なんだよぉぉおおおお!!!」「うわぁ!?」
アスカっちが発狂した様に叫ぶ。今にも卓袱台返しをしそうな勢いだ。
「どーどー」とカズキっちがアスカっちを抑える。「え、ドードー?」「それはポケモンね。とりあえず落ちついてくれる?」またポケモンの名前…。
どうやらアスカっちはポケモンに関わらせれば冷静になれるみたいッス。ホントにポケモン大好きなんスねぇ。
「そのアルセウスってポケモンは助けてくれないのー?」
「アイツは伝説ポケモンの中でも代表的で、一番性格が神様に近いんだ。気まぐれと言うか……どこに居るかすら分からない。多分自分専用の空間で寝てると思うんだが、どうやったら姿を現してくれるのか…」
「アルセウスは自分の危機になるか、認めた人の前じゃないと来てくれない。僕達も会った事はあるけど…1回だけだからね。早々来てくれるワケじゃない」
「てなワケで、結果を言えば『帰る方法はあるが、いつになるかは分からない』ってとこだ」
「そうか」
じゃあ、帰れる確率はかなり低いって事ッスか。
その創造神が出て来てくれない限り、ずっとアスカっちとカズキっちはこの世界に居る。
それは嬉しい事だけど、2人は望んでない。凄く不安で、帰りたい筈。
「まぁ気長に待つさ」
「別に死んだワケじゃないもん。生きてれば案外どうとでもなるよ、人生」
強いッスね、この2人…。
不安要素が沢山有り過ぎるグラグラの状態なのに。
凄く重みのある言葉が俺の身体に染み込んだ。
「俺っ、2人の為なら一肌脱ぐッスよ!どんどん頼ってほしいッス!」
「もちろん、きーちゃんだけじゃなくて私達もね?」
「へ?」
「むぐっ」
カズキは不思議そうな顔をして、アスカっちは紫っちが出したポッキーを口に突っ込まれた。
紫っち、それどっから出したんスか?
「2人共、目を離すとすぐに無茶しそうじゃん?桃ちんの言う通り、俺達全員でサポートした方がよくない?」
「……敦」
モグモグと、アスカっちはポッキーを咀嚼する。
それから2人は暫し自分の相棒であるピチューとイーブイを見つめ、呟いた。
「否定したいけど、今までも色々突っ走って来ちゃったからねぇ」
「殆どその場のノリと雰囲気で悪の組織のアジトに乗り込んで、そのまま団員全部ブッ飛ばして組織壊滅させちゃったりなぁ」
「それまた凄いッスね!?」
それは無茶と言うより無謀ッス!
そんで自覚無かったらヤバいッスよ…。
「正直なところ、現時点でも結構迷惑掛けてるからこれ以上は…って思ってたんだけど」
「僕達は確かに経験も知識も浅いです。でも、2人の無鉄砲を止めるくらいは出来ますよ」
「無鉄砲……。テツヤ酷ぇ」
「事実でしょう?悪の組織相手に突っ走ってしまうんですから」
アスカっちは唸って大人しくなる。
黒子っちは正論をズバズバ言って来るから反撃し難いんスよね、分かるッス。
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