携帯獣とカラフルな道! | ナノ


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「まず最初に征十郎のポケモンから!」

「簡潔且つ詳しく頼むよ」

「おう、任しとけ!」

「アスカちん、テンション高くないー?」

「アスカはポケモン大好きだから。頭もかなり良いし、歩くポケモン図鑑だよ。
僕もそれなりに覚えてるけど、どっちかと言えば道具とか技の専門知識だからねぇ」



それでも覚えてるだけスゲェよ。



「征十郎のポケモンはアチャモ!全国図鑑No.255。炎タイプ。高さ0.4m、重さ2.5kg、タマゴグループは陸上だ」

「タマゴグループ?」

「ポケモンはタマゴから生まれるんだよ。育て屋ってのにポケモンの組を預けると、タマゴが見つかることがあるんだ。この時のタマゴが見つかる組み合わせがタマゴグループ。結構種類あるぜ」

「へぇ。…お前、アチャモというのか」

「チャモ!」



赤司はアチャモと呼ばれたヒヨコの頭を撫でる。
すると、まるで「そうだよ!」と言った様にアチャモは声を上げた。
ポケモンって頭良いよな…。この世界の生き物は、烏とか例外はあるものの、基本的に人間の3歳くらいの知能しかない……とか、テツが言ってたし。



「ポケモン図鑑には、“体内で炎が燃えているので、抱きしめるととても温かい。1000度の火の玉を飛ばす。”って書いてある。
ホウエン地方の初心者ポケモントレーナーに渡される、初心者用のポケモンだ。けど弱いって言ってるんじゃなくて、育てやすいって意味だから勘違いするなよ」

「ほう…」

「1000度の火の玉ッスかー。かなり熱いッスね」

「火傷とかしないんですか?」

「バトルしてれば状態異常としてあるよー。でもすぐ治せる」



バトルって火傷すんのか。ポケモンスゲェ。
それをすぐに治せるってのもまたスゲェ。
俺、さっきから感嘆してばっかだな。



「続いて真太郎君のポケモンだね。この子はフシギダネって言って、草・毒タイプだよ」

「タイプ…?」

「ポケモンがそれぞれ持ってる属性の事。皆1種類は持ってるよ。最高でも2種類」

「全国図鑑No.001。高さ0.7m、重さ6.9kg、タマゴグループは怪獣と植物だ。これはカントー地方で初心者に贈られるポケモンだな。
“生まれてから暫くの間は背中のタネから栄養を貰って大きく育つ。” 」

「図鑑で一番最初のポケモン?」

「そうだよ!全国図鑑で一番上に表示されるの」

「カントー地方って、関東?」

「この世界にも“関東地方”って呼ばれてる土地があるのは知ってる。形も似てるし。
原理はよく分かんないけど、似たような場所があるって事はあっちとこっちが繋がってる証拠だ。嬉しい情報だな」



関東ってここじゃねーか。
地形も似てるって、不思議な事もあるもんだ。
ポケモンがこの世界にいる時点で不思議か。



「敦はヒトモシか。全国図鑑No.607。炎・ゴーストタイプ。高さ0.3m、重さ3.1kg、タマゴグループ不定形。
“ヒトモシの灯す明かりは、人やポケモンの生命力を吸って燃えているのだ。”…まぁ、ゴーストタイプは皆こんな感じだ」

「せ、生命力って、その…つまり……」

「単語で分かったと思うけど、ゴーストタイプの8割は幽霊だよ」

「ゆ、ゆゆゆゆ幽霊!?」

「桃井さん大丈夫ですよ。一応実体あります」

「さつきは昔からオカルト系がダメだからな」

「ふーん。可愛いからいいやー」

「モシ、モシ!」

「もしもし?」

「電話してるみたいッスね」

「そーゆー鳴き声なんだよ」



さつきがビビッてテツにしがみ付いている。
このロウソクみたいで可愛いのに、おっかないポケモンだな。



「次は大輝君ね。えーと、全国図鑑No.258、ミズゴロウ。タイプは水で……アスカ、その他は?」

「高さ0.4m、重さ7.6kg、タマゴグループは怪獣と水中1」

「水中、いち?」

「2もあるぞ。水タイプだけでも沢山いるから、更に細かく分かれてんの」

「水タイプ、か」

「ガラ?」



ミズゴロウを膝の上に乗せて、頬を突けば嬉しそうに鳴く。
この頭に付いてるの、やっぱりヒレだったのか。


その後もアスカとカズキによるポケモン紹介は続いた。
黄瀬はエレキッド、テツはユキワラシ、さつきはププリンと言うらしい。
ユキワラシとププリンはメス、他はオスだとカズキに言われた。アスカも「あー、何か喋り方とか女の子っぽいな」とか言ってる。
喋り方?ってあんの?
尋ねれば、アスカは頬杖をつきながらきょとんとしていた。



「言ってなかったっけ?私、生まれつきポケモンの言葉が解るんだよ」

「ポケモンの言葉が、か?」

「おう。普通に、人が喋ってるみたく聞こえんの」

『昔からポケモンと生活してればある程度は解るようになるけど、アスカみたいに生まれつきっていうのはレアなんだよ』

『カズキちゃんも解るけど、アスカちゃんみたいに人間語で聞こえる人はいないですよ〜』

「へー、そうなんスか!凄いッスね!………あれ?」

「今、誰が喋った?」

「アスカちゃんとカズキちゃんの声じゃないよね?」

「加えて、俺達の声でもない」

『当たり前でしょ?私等が喋ってるんだから』

『です〜』



声は耳からではなく、頭に響いてる感じ。
『こっちだよ』と呼ばれ、その方向を見れば、仁王立ちしているアスカのピチューとカズキのイーブイの姿があった。



「え、えぇえええええ!?」

「黄瀬、五月蝿いのだよ!」

「だって緑間っち!!今!」

「まさか、ピチューとイーブイが話していたのか?」

『そうですよ。知りませんでした?』



ポケモンって喋れんのか!?
そう思いミズゴロウを見つめるが、コイツは不思議そうに首も傾げるだけ。
それにさっきからポケモンと会話っぽいのをしてるが、俺には鳴き声にしか聞こえない。
犬が「ワンワン」と鳴くように、これがミズゴロウの喋り方だと思ってたのに。



「あれま。これも言うの忘れてたか。こっちに来てからどーも物忘れが激しくて」

「しょうがないでしょ。僕達からしたら当たり前だもん」

「せ、説明を求めるッス!!」

『説明って程の物じゃないけど。私は色々事情があって、ポケモン世界に存在する全ての技が使えるの。それの副産物で、テレパシーを使って喋れるんだよ。
ちょっと詳しく言うと、本当は口で喋ってる事が皆の頭の中で人間語に変換されて聞こえてるってワケ』

『私は生まれつきテレパシー使えるんですよ〜』

「興味深いな…全てのポケモンが出来る事じゃないだろう?」

『当然。出来るポケモンもいるよ。私が出来る理由は、まぁ……気が向いたら話してあげる』



無闇に触れられたくはない、か。
旅をしてれば、言いたくない事の一つや二つ、あるんだろうな。



「これで説明終わりっと。いやー長かった」

「すまないな。時間を取らせてしまった」

「これくらいならお安い御用だよ。それじゃ、早速だけど正式なトレーナーになってもらおうか」

「正式?まだ違うんですか?」

「ポケモンのトレーナーになるには、ボールで捕獲しなきゃいけないんだ。これがそのボールで、名称は“モンスターボール”。一番ポピュラーな物だ。
他にも地形や状況、ポケモンに合わせて何種類もあるぞ」

「1人6個ずつあげるから、とりあえずその内の一つで今懐いてるポケモンをゲットしちゃってよ」

「6個もいいの?」

「うん。今は1人1匹しかいないけど、もしかしたら別のポケモンと出会うかもしれないでしょ?ポケモンが懐いたり、自分でゲットしたいと思った時に、ボールを持ってた方がいいから」

「私もカズキも、6体ずつ持ち歩いてるんだ。ってか、トレーナーは最大6体しか持ち歩けない」

「何でー?」

「乱獲されたら困るだろ。そういう条例っつーか、決まりがあるんだよ」

「その世界の法か」

「難しく言うとそうなるね」



アスカとカズキから紅白ボール、モンスターボールを配られた。
ホントにあのバッグって四次元なんだな。驚いた。

じゃあゲットしよう――と思っていたら、ミズゴロウがいない。
いつの間にか膝の上から降りてたらしい。
一体何処に……、と周囲を見回してたら、いた。
屋上をぐるりと囲むフェンスにしがみ付いて、下を見ていたようだ。



「おーいミズゴロウ。こっち来い」

「ガーラ?」



しがみ付いたまま、こっちを振り向いた………その時。
バキンッ!という音と共に、フェンスの金具が外れた。
ミズゴロウはフェンスと一緒に、外へと投げ出される。



「ガラッ!?」

「ミズゴロウ!!」



今日の朝、HRで担任が言ってた事が脳裏を掠る。

“屋上のフェンスが一ヶ所緩んでるから近付かないように”――。

そう言っていたのを、今思い出す。
それよりも、目の前の小さな命が屋上から落ちそうになっていて。
必死に足を動かし手を伸ばす。けど、距離が遠い。
そうしてる間にもミズゴロウの姿は屋上から消えて…。

目の前が真っ暗になりそうになっていたら、俺の真横を何かが凄いスピードで通った。
一瞬しか見えなかったが、黄色と白の物体がフェンスから下に、垂直に落下したんだ。
その物体の事も、ミズゴロウの事も心配で、自分も落ちないようにそっと下を覗こうとした。



「ヒュアァン!」

「うわっ!」



したんだけど、出来なかった。
下から何かが勢いよく上がって来て、顔スレスレを風が通り抜ける。
それはそっと屋上に着陸し、ミズゴロウを降ろした。



「ミズゴロウ!大丈夫か!?」

「ガラッ!ガラガラ〜…!」

「ったく。おーよしよし。もう近付いちゃダメだからな」

「ガラ!」



ミズゴロウの頭を撫でて、安心させてやる。
マジでビビった。冷や汗かいた。
しかし…何だコレ。ミズゴロウを助けてくれた空飛ぶポケモン。
白い身体に薄い黄色の模様があって、戦闘機みたいな姿をしてる。
カズキを見れば、隣に青い頭してドレスみたいなのを着たポケモンもいる。
ソイツは目を光らせて、技を使ってるのが直感で分かった。
その証拠に、落ちた筈のフェンスが浮かんで屋上に戻って来たし。



「ご苦労様、ラティアス」

「ヒュア!」

「カズキ、フェンス助かった。サンキュ」

「お礼ならサーナイトに言って。“サイコキネシス”が間に合ってよかったよ」

「サーナィ」

「2人のポケモン?可愛いー!」

「だろ?私のラティアス可愛いよな!!」

「僕のサーナイトだって負けてないよー!」

「なにおぅ!?私のラティちゃんは珍しい色違いだぞー!」

「それなら僕のサーナだってそうだし!
見て、この青の髪とオレンジの瞳!!普通の色も好きだけど、こっちの方が光を反射しやすくて綺麗なんだよ!コンテストに出た時だって、容姿で満点取っちゃうくらいなんだから!!」

「それならラティだって負けてねーよ!
白いモフモフの毛と鮮やかな黄色、レモン色と言ってもいい!そして瞳は翡翠色!この愛らしい顔立ち!正に完璧だろ!!
しかも素早さではトップクラスだし、物理技も特殊技も使いこなす!この素晴らしさが分かんねぇかなぁ!!」

「バトルなんてコンテストに比べたら簡単でしょ!?コンテストは強さと美しさを求める。戦ってるだけのバトルと違って、コンテストは遥かに難しいんだから!!」

「聞き捨てならねーなぁ。コンテストだってバトルがあるだろ。結局はバトルなのさ!!
美しさとか言って見た目を着飾る必要なんて一切無し!本気の熱意が込められてるのはバトルだ!」

「むー!ちょっと頭きた!ここでどれだけコンテストが凄くてサーナイトが綺麗で可愛いか教えてあげる!!」

「そんならこっちはバトルの素晴らしさと、ラティアスの強さと可愛さを教えてやるよ!!」

「手加減しないからね!グランドフェスティバル最多優勝者の実力をその身に刻め!!」

「各地方リーグを制覇し、多重チャンピオンの私を舐めるなよ!!」



何か凄い事になったぞ。
2人共ポケモンの事になったら熱くなるのか。周りが見えないのか!?
今にも戦い出しそうなんだけど!!俺等の事完全に忘れてねーか!?



「いくぞラティアス!“10万ボルト”!」

「サーナイト、“れいとうビーム”!」



遂に始まっちまった!?
アスカのポケモンは口で電気を溜めてるし、カズキのポケモンは手で氷を作り出してる。
最悪、この屋上消え去るかもな…。



「アスカ、カズキ」

「「!!」」



赤司の声が響く。
それに2人と2体のポケモンが動きを止めた。



「ここを何処だと思っている。こんなところで暴れられては、学校が無くなるぞ。
それとも、何だ……俺を怒らせたいのか?」

「め、滅相も御座いません!」

「申し訳ありませんっした!!」

「宜しい。以後、いきなり暴れないように」

「「ラジャー!!」」

『あれ、珍しい。カズキはともかく、アスカが簡単にバトルを止めるなんて』

「そうなの?」

『アスカはバトルバカなの。バトル狂と言ってもいいね。多分、義理の姉とかその人の知り合いの影響なんだろうけど…普通は始まったら聞かないよ』

「流石赤ちん。ここでも王者」



ポケモンを持った奴等を言葉で捻じ伏せたぞ…。
相変わらず、敵に回したくねーな。



「大輝。2人に礼は言ったのか?」

「あ、そうだ。サンキューな、ミズゴロウを助けてくれて」

「ガラガラ!」

「どーいたしまして」

「気にしないで。僕等がやったんじゃなくて、ポケモンがやってくれたから」

「そうだった。お前等も、ありがとな。えっと…」

「私の手持ちの内の1体で、飛んでる方がラティアス」

「ドレスみたいなのを着てる方がサーナイトだよ」

「そっか。サンキュー」

「ヒュア!」

「サーナ」



笑えば、2人も2体も笑ってくれた。
こうやってトレーナーとポケモンって繋がるのかな、とかぼんやり考えてた。



「ま、こういった事も起こってしまうから、ボールが必要なんだよ」

「早いとこ捕まえちゃおうね」



そう言われて、ミズゴロウの頭にモンスターボールを押し付ける。
スイッチが入って、ボールが開いてミズゴロウは吸い込まれていった。
何回か揺れて、動かなくなる。
これで捕まえた、のか?



「大輝、捕まった?」

「ボールに入れて、そしたら揺れて、動かなくなった」

「んじゃ捕まえるの成功だな。おめでとう。これで、晴れてポケモントレーナーだな」



ポケモン、トレーナー……か。
青い空の下、出会ったのは未知の世界。
けどこれから始まる生活に、俺は胸を躍らせていた。




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