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青峰side.
「…………はい?」
俺の隣で黄瀬が変な声を出して首を傾げている。
勿論、俺も同じ気持ちだ。
いきなり電波みたいな事言われたってワケ分かんねぇ。
「だから、異世界から来たポケモントレーナーだってば」
「聞き間違いじゃなかったッスか…」
「信じられないのも分かるけどね。事実だから。
その分、ちゃんと納得出来るような説明はするから安心して」
カズキは茶色い兎みたいなのを撫でながら苦笑いした。
そして正座をして凛とした姿で俺達を見据えている。
「――改めまして。僕はシンオウ地方ハクタイシティ生まれカンナギタウン育ちであり、シンオウ地方ポケモンリーグチャンピオンの義妹、カズキと申します」
「同じくシンオウ地方カンナギタウン出身であり、シンオウ地方ポケモンリーグチャンピオンの義妹、アスカと申します」
「この世界に来る以前は各地方を旅し、今回シンオウ地方にて冒険をしながらとある組織の動向を追っておりました」
「組織の野望を阻止する為に戦っていた最中、その組織が起こした現象に巻き込まれ、気がつけばこの世界に流れ着いていた――というのが大体の流れになります」
急に雰囲気が変わるから驚いたが、話し終えた後にはもう元に戻っていた。
アスカは欠伸をしながら「質問は?」と聞いている。
「シンオウ地方って何ー?」
「その名の通り、僕等がいた世界にある地方…土地だよ。他にも色々あるの。
ハクタイシティやカンナギタウンっていうのはその地方にある町と村の名前」
「ポケモンリーグにチャンピオンって何なんスか?」
「リーグっつーのは各地方にあるポケモンバトルの頂点であり最高峰だ。一つの地方には八つのポケモンジムがあって、そこにいるジムリーダーに勝利して貰えるジムバッチを8個全て集める事で参加出来る」
「各地方リーグの優勝者は地方リーグ優勝者同士で行われる“チャンピオンリーグ”の参加資格を与えられて、“チャンピオンリーグ”で優勝すれば四天王に挑戦する権利を得ることが出来るの。四天王制覇後にはリーグチャンピオンと戦えて、チャンピオンを倒してやっとリーグ制覇」
「長っ!やたらと長くないッスか!?」
「だろ?正にバトルの祭典。大勢いるポケモントレーナーの憧れの場所なんだ。
私等の義理の姉貴はシンオウ地方のリーグチャンピオン。つまりシンオウ地方の最強トレーナー!メッチャクチャ強いぞ。私だって勝ったこと3回くらいしかないし」
「それでも3回はあるんだね!凄いよアスカちゃん!」
「いや。マジで死ぬ気でやって3回だぞ。普通は無理」
「……一つ、気になっていたのだが」
「んー?何、真太郎君?」
「“ポケモンバトル”というのは…ポケモン同士が戦いをするのか?」
「そうだよ。トレーナーが持つポケモン同士、或いは野生のポケモンと戦うの」
「バトルはトレーナーとポケモンの絆や強さが試される!いやぁいいぞバトル!話したらやりたくなってきた!」
「はいはい。後で時間があったら付き合うよ」
「うっしゃあ!!」
バトルの話を持ち出せばキラキラとした目で話すアスカ。
カズキも嫌いじゃないらしくてウキウキしてるのがよく分かる。
好きなんだな。ポケモンの事。
「色々話が飛んだが、いいか」
「おう。どーぞ征十郎」
「お前等が異世界から来たという証拠は何処にある」
…そうだった。
まずはそっちが先の筈なのを忘れて聞いたこと無い単語に目が行ってた。
流石赤司。こういうの、ホント得意だな。
「うーん…お前等から聞いた話じゃ、この世界にポケモンはいないんだろ?
私等がいた世界にはポケモンはそこかしこにいた。森、山、水辺、砂漠、洞窟、空、雪山……それこそ町にも」
「でも、ここの人達はポケモンを連れていない。トレーナーの存在すら無い。何より、ポケモンが住む領域に足を踏み込んでも現れない」
「それが証拠だと?」
「じゃあ逆に聞くけど、征十郎達の近くにいる存在にどう理由を付ける?」
「…………」
「さっきから触ってるんだから分かるだろ。そのポケモン達にも血が流れていて温かい。生きてる存在だ。決してぬいぐるみとかじゃない」
おお。赤司が押し黙った。
珍しい事もあるモンだ。あの赤司を黙らせるヤツなんてそうはいない。
緑間だって目を少し見開いていた。
「アスカ、喧嘩腰になってるよ」
「お、悪い」
「その他にもね、証拠になる道具なら持ってるよ。このバッグとか、ポケモン図鑑とか」
「図鑑、ですか?」
カズキが持っていたショルダーバッグから取り出したのは、緑色の電子手帳の様な機械。
折り畳んだ状態から開くとディスプレイ画面と十字キーがあった。
「これは“ポケモン図鑑”。ポケモンの情報が入ってるの。新しいポケモンを見つけると自動的に登録されるし、ポケモンを詳しくを調べる事も出来るハイテク機械だよ」
「私とカズキが持ってるバッグだって、旅立つ時に貰った物だ。様々な道具が種類別に分かれて持ち歩ける便利グッズ。四次元バッグとも言う」
「それって、一人一人に渡されてるの?」
「いや、そうじゃない」
「僕とアスカが世界を旅するって決めた時に、シンオウ地方でポケモンについて研究しているナナカマド博士から託されたの。『ポケモン図鑑を完成させてくれ』って」
誇らしく言うカズキ。アスカも同様に輝いて見える。
「ねぇねぇ。軽くスルーしてたけど、ポケモンって何?」
「おっと、肝心な事忘れてた」
アスカは腰に付けてるベルトから紅白の小さなボールを取り出して、俺達に見せる。
真ん中にスイッチがあるようで、そこを押すとボールは掌サイズになった。
「これはモンスターボールと呼ばれる物で、この中にポケモンを入れて持ち歩く事が出来る」
ボールを宙に投げると、出て来たのは頭と首が紫色の猫っぽいポケモン。
宙から出て来たのに華麗に着地して、落ちて来たボールはアスカの手の中に収まった。
「コイツはエネコロロというポケモンだ。高さ1.1m、重さ32.6kg。これくらいの大きさならまだいいけど、大きいヤツだと14mを軽く超す」
「14…!?」
「しかも海に生息するポケモンは水の中にいること前提の子が多いからねー。魚の姿の子とか、出したまま歩き回るの無理でしょ?だからこういうボールに入れるの」
「ボールに入るとポケットに入る事から、ポケットモンスター――縮めてポケモンと言われるのさ」
アスカの「戻れ」という言葉と一緒に、ボールから赤い光が出てエネコロロとかいうのを包んで、消えた。ボールに戻ったんだと思う。
「僕等の世界ではポケモンと人が共存していたの。道を歩けばポケモンに当たるってくらい沢山いた。
その関係は人それぞれ。家族だったり、友達だったり、主従関係だったり、上司と部下だったり」
「上司と部下ー?」
「警察は皆ポケモン持ってんだ。地方によって採用されているポケモンは違う。だいたい犬系が多い。病院…ポケモンセンターって言うんだけど、そこでは回復系の技を使えるポケモンが働いてる」
「これは一例だよ。こういう人達が殆どだけど……中には、ポケモンを道具としか扱わない奴等だっているもん」
カズキの目が鋭くなった。アスカも同様だ。
冷や汗が流れて、身体が動かない。
ポケモンの事は好き。でもポケモンに酷い事をする奴等は叩き潰すかの様に。
「はい、大体の事は説明したぞ」
「それで…信じてもらえるのかな?」
2人はにこりと笑って、髪が揺らいだ。
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